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【ASEAN】ベトナムのサービスホテルへの投資

過熱するASEANのホテル投資(4)

10月10日付のNNA記事「新日鉄興和不動産が市場参入 ヤンゴンでサービスアパート」(https://www.nna.jp/news/result/1821400)によると、新日鉄興和不動産(東京都港区)は、ミャンマー最大都市ヤンゴンの政府保有地でサービスアパートの開発に乗り出し、現地で本件に係る工業省との契約締結式典が行われたという。2012年に新日鉄系の統合会社として始動以降、初めての海外事業で、来年1月にも着工する計画。経済発展が見込まれるミャンマーでの事業を育てるとともに、他の東南アジア、米国などでも商機を探っていくようだ。

ミャンマー工業省がヤンゴン中心部のタムウェ郡区に保有する6,000平方メートルの土地に、地上12階建て(地下1階)、232戸のサービスアパートを建設。同社が建設・運営し、その後政府に引き渡す70年の「BOT契約」を結んだ。21年3月の完成を予定する。総事業費は8,000万米ドル(約90億円)。

ヤンゴン市内で行われた式典で、永井幹人社長は「日本品質の安心、安全、快適な住まいを提供し、外国直接投資を一段と増やすきっかけをつくりたい」とあいさつ。ミャンマーのキン・マウン・チョー工業相は、環境にも配慮した日本の技術活用への期待を示した。

ミャンマーのサービスアパート市場は13年から新規供給が増加。政府の経済改革が当初の計画通りに進んでいないことなどから、直近の投資流入は鈍っているが、長期的な市場潜在性の高さをにらみ、日本、韓国の建設大手などによる物件開発が進んでいる。冨金原部長は「許認可に時間がかかることやインフラの未整備が企業進出のネックになっているが、日本も官民で支援をしており、将来的な成長性は高いとみている」と話す。

一方で、同じミャンマーでも華々しく花開く案件があれば、ひっそりと撤退する話も存在する。

同じく11月27日付の「京王電鉄、ミャンマーでの合弁事業中止」(https://www.nna.jp/news/result/1840610)によれば、京王電鉄(東京都多摩市)は、ミャンマーで計画していた、ホテルとサービスアパート事業を展開する合弁会社の設立を中止すると発表した。今年4月の合弁会社設立を予定していたが、合弁契約の諸条件が合意に至らず、延期していた。

京王電鉄は昨年8月、ミャンマー企業のアドベンチャー・ミャンマー・ツアーズ&インセンティブスと今年3月に合弁契約を締結し、最大都市ヤンゴンに京王電鉄が株式の過半を持つ合弁会社「京王アドベンチャー・ミャンマー」を設立する計画を明らかにしていた。

計画では、都市型ホテルと高級サービスアパートメントで計400室規模の客室とレストラン、プールなどを備える大型開発を行い、日本品質の設備とサービスを提供する計画だった。

京王電鉄は、合弁会社設立の中止がグループ業績に与える影響は軽微だと説明。今後に関しては、「ミャンマー市場は中長期的な経済成長が見込まれるため、グループ内の事業展開に向けて、引き続き調査・検討を進める」としている。

■積極的に参入が進むサービスアパート事業

サービスアパートは、長期滞在用のホテルもしくはサービス機能が付随したコンドミニアム的な位置づけとして、東南アジア各国で一般的な業態として定着しており、海外からの駐在員が比較的多く利用している。上記で取り上げた記事以外にも、日系各社による東南アジア諸国連合(ASEAN)地域でのサービスアパートへの出資が活発に行われている。

このシリーズでは、ホテル投資が過熱する東南アジア諸国連合(ASEAN)の現況をテーマに記載してきた。上記の記事でも見られるように、ホテルに類似するサービスアパート業界での投資をはじめとする動きも活発化している。

そこでよく出るのが、果たして投資対象として、ホテルとサービスオフィスとでどちらが良いかという質問だ。そこで、前回記事(https://www.nna.jp/news/show/1833514)でも取り上げたベトナムのホテル業界と比較しながら、ハノイとホーチミンのサービスアパート市場としての魅力度について考えていきたい。

■サービスアパート立地としてのハノイ・ホーチミンの特徴

サービスアパートにも、それ単独で存在するケースや、ホテルと併設されているケースなどのパターンが存在する。ただいずれのケースにおいても、サービスアパートでの宿泊者は、ホテルより長期間にわたり滞在するため、より居住性や勤務地・学校、スーパーなどの生活環境へのアクセスがより重視される傾向にある。

ホテルが観光地や市街地へのアクセスがより重要視されるのに対して、より静寂な郊外を含めて、ホテルより立地について高い自由度が存在する。また、日系のサービスアパートの場合、日系企業が集まり、日本人が比較的多く集積する地域に近いエリアが好まれる傾向にある。

例えば、ホーチミンの場合、立地としてはホテル同様に1区や3区に高級サービスアパートが存在しているが、3区の中でもホテル立地と比較してより広範囲にサービスアパートが存在している。また日系のサービスアパートは、特に日本人が比較的多く住む1区のレタントン通りに多く集積している。

ハノイについても同様だ。高級サービスアパートは、インターコンチネンタルホテルやシェラトンなどもある高級エリアのウエストレイク東岸や市の中心部に集中していたが、現在、立地の拡大が進行中だ。

例えば、大和ハウス工業と大成建設が、今年6月に完成させたサービスアパート「ロイジェント・パークス・ハノイ」は、ハノイ市中心部から約8キロメートル郊外のカウザイ区にあり、周辺には日本食レストランや大型スーパーマーケット、商業施設、各国の大使館、日本人学校を含む複数の外国人向けの学校がある。日系企業が開発・設計・施工・運営を手がける物件はカウザイ区でという。

長谷工コーポレーションのサービスアパート「ザ・オーセンティック」もハノイの中心部からホン川を隔てた東側にあるロンビエン区に位置し、イオンモール・ロンビエンやタンロン工業団地などハノイ近郊の工業団地へも近く、日本人駐在員の入居を想定している。

■順調に拡大するサービスアパート市場

それでは、ハノイ、ホーチミンのそれぞれの市場におけるサービスアパート市場の推移を見ていきたい。

下記の図表1は、ハノイにおけるサービスアパート供給数の推移だ。よりグレードの高いAクラスと、それよりも安価なBクラス合わせて4,500戸程度供給されている。しかも、そのうちに占めるグレードA物件の割合が高いことが特徴だ。

同様に図表2は、同様にホーチミンにおけるグレード別サービスアパート供給数だ。こちらも4000戸近くの物件が供給されている。ただ、特徴としてはグレードA物件の比率がハノイと比較して少ない。

■両都市とも高い稼働率水準

それでは、ホテルと同様に、稼働率、平均客室単価、そしてそれを掛け合わせた一日あたり販売可能客室数あたり客室売上(Revenue Per Available Room :RevPAR)の主要3指標を見ていきたい。

図表3は、ハノイにおけるサービスアパートのグレード別の稼働率の推移だ。これを見ると、安定して高い水準で推移していることが見て取れる。特に、グレードAのサービスアパートは90%を上回る水準で推移しており、ほぼ満室状態が続いている。

同様に、ホーチミンの稼働率状況を見てみても、グレードAのサービスアパートの稼働率はこちらも90%を超えて推移しており、安定して高い水準を保っていることが分かる。一方で、ハノイとは異なり、グレードBの稼働率が下落傾向であることが気がかりだ。

なお、参考までにホテルの客室稼働率と比較してみると、図表5で見てとれるように、ホテルの稼働率はハノイでは85%とまずまずの水準である一方で、ホーチミンは75%水準にとどまっている。先程確認したホーチミンのサービスアパートのグレードA物件が90%の稼働率を維持しているのと比較すると、かなりの開きがあることがわかる。

■グレードAとグレードBでは平均賃料の格差が大きい

次に見るのが、賃料水準だ。図表6はグレード別平均賃料の比較だ。こうしてみると、グレードAについては、ハノイとホーチミンでそれほど賃料水準に大きな差は存在しない。その一方で、グレードB物件では、ホーチミンの方が、ハノイより2割ほど高い水準を維持している。

なお、また参考までにホテルにおける両都市の平均客室単価を比較してみよう。図表7にあるように、ホーチミンの方がハノイよりも総じて高い水準にある。

最後に、平米単価に稼働率をかけたRevPARの比較を行いたい。RevPARは一般的には、ホテルの平均客室単価に稼働率を乗じて計算し、ホテルの実際の集客度や収益性を見る指標として使用されるが、サービスアパートにおいての類似コンセプトとして今回使用している。

こちらをみると、ハノイ、ホーチミンともにグレードAクラスは底堅い点が見て取れる。一方で、グレードB物件となると、ともにグレードAからかなりの差がついている。近年クレードBクラスのサービスアパートが増加したことにより、そのセグメントの稼働率が下落傾向であることがその主要因と思われる。

また、サービスアパートはセグメント的に高級コンドミニアムと競合しやすい。高級コンドミニアムに住み、メイドを雇った場合は同じようなサービス形態になるからだ。近年両都市において、高級コンドミニアムの建設が進んでいるが、それにより、よりセグメントとして被るグレードBの利用者がコンドミニアムを賃貸で借りる形で流出していることも考えられる。

従って、これらの指標からの推測では、サービスアパートにおいては、ハノイ・ホーチミンでは大きな違いはないが、一方で狙うのであればグレードAのセグメントが望ましいことが見えてくる。

なお、ホテルと同様に、サービスアパートについても都市の立地の比較はこの3つの指標のみで簡単に語れるものではなく、需要の将来性、今後の新規建設予測、どのような立地が入手可能なのか、地価の動向、どのような協業の物件が存在するのかなどを含めて、より精緻かつ総合的な検討が必要になるだろう。

今回はハノイ、ホーチミンの両都市の比較として、サービスアパート立地を比較した。次回では、他の都市も含めて最近の動向について確認したい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: ベトナム日本
関連業種: 建設・不動産

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