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【ASEAN】主要指標から見る東南アジアでのホテル投資状況

過熱するASEANのホテル投資(2)

10月23日付のNNA記事「ファーイースト、セントーサにホテル3軒開業へ」(https://www.nna.jp/news/result/1826739)によると、シンガポールのホテル大手ファー・イースト・ホスピタリティーは18日、南部の観光地セントーサ島で来年新たに3軒のホテルを開業すると発表した。ファー・イースト・ホスピタリティーはシンガポールの不動産開発大手ファー・イースト・オーガニゼーションの傘下企業だ。

同記事によると、来年1~3月期には、「ビレッジホテル・アット・セントーサ」(全606室)と「ザ・アウトポストホテル」(全193室)を開業する。ビレッジホテルは家族連れやグループの利用をターゲットにした中価格帯の宿泊施設。ザ・アウトポストホテルは、「スタイリッシュな大人向け」をコンセプトとするファー・イーストの新ブランドで、単身・カップル向けのホテルとなる。

同7~9月期に開業する「ザ・バラックスホテル」は、英国植民地時代の歴史的な建物を利用した高級ホテル。客室は40室のみで、昔ながらの高級なサービスを提供していく。

シンガポールの中でも、セントーサ島は今年6月に行われたドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談の場所としても使用されたカペラホテルをはじめ高級ホテルが複数あるリゾート地だ。

このシリーズでは、ホテル投資が過熱する東南アジア諸国連合(ASEAN)の現況をテーマに記載する。ただ一言にASEANのホテル市場といっても、シンガポールのように客室単価が高いのになかなか空き部屋がない国もあれば、またその反対に価格も安くかつ予約も取りやすい国も存在する。今回はASEAN全体のホテル市場の相対感を理解するために、ホテル売り上げにおける主要指標を中心に、ASEAN域内での比較を行った。

まずは、需要の要因となる海外からの旅行者数の比較、そして供給要因になる部屋数を見たうえで、価格水準である平均客室稼働率(Occupancy Rate: OCC)、平均客室単価(Average Daily Rate: ADR)、そして最後に一日あたり販売可能客室数あたり客室売上(Revenue Per Available Room: RevPAR)を比較する。これらはいずれもホテル業界の事業環境を見る際には基本の比較指標だ。

■東京よりも国際入国者数の多いバンコク・クアラルンプール

海外資本によるASEANでのホテル業界への出資における主要なセグメントは、4つ星以上のいわゆる高級ホテルだ。高級ホテルの需要については、特にASEANでは、海外からの旅行者数が重要な要素を占めている。

例えば、シンガポールのような都市国家の場合は、そもそも国のサイズも小さいので、ホテルの利用者に占める国際入国者の割合が高くなる。一方で1人当たり国内総生産(GDP)の低い新興国では、国内の4つ星以上の高級ホテルに宿泊できる国民の層は限定的であり、高級ホテルへの顧客の多くは海外からの入国者の占める割合が高い。

その結果、自国民のホテル利用者に占める割合が多い日本などと比較して、ASEANのホテル市場においては、より国際入国者数の高級ホテル需要に占める割合が高くなる。

それでは、ハイエンドホテルの需要に影響を及ぼす国際入国者数について、まずはその概観を見ていきたい。図表1は、アジア主要都市における国際入国者数の比較だ。

上記を見ると、ASEAN地域においてはバンコクやクアラルンプールは、東京以上に海外からの入国者を受け入れている。一方で、マニラやハノイ、ホーチミン、ジャカルタといった都市は上位の2都市と比較すると大幅に低い国際入国者数にとどまっている。ただ今後これらの都市の魅力度が高まり、空港などのインフラが整備されるにしたがって、より多くのホテル需要が発生する可能性を有している。

■必ずしも海外からの旅行者数に比例しない各都市のホテル供給数

さて、それでは供給側の状況はどうだろうか。図表2は、各都市における既存の部屋数の合計数値の比較になる。現段階の部屋数については、それぞれの都市ごとに確認できる部屋のタイプが異なっているため、なかなか同じ軸での比較がしにくい。ただ、必ずしも需要の多さに比例して供給がなされているわけではないことが見えてくる。

■ホテル稼働率が高いハノイ、シンガポール

それでは、主要なホテル指標を見ていこう。まずは部屋の平均客室稼働率からだ。図表3は、アジア主要都市の平均客室稼働率の比較だ。濃い青の棒グラフはASEAN地域の都市になる。

興味深いのは、ハノイの平均客室稼働率が85%と、ASEANの中では高い点だ。図表1の海外からの入国者数がそれほど多くないにもかかわらず、平均稼働率が高い理由の一つには、現在の供給量の少なさが予想される。その違いをより見るために、下記の図表4は、ハノイとホーチミンだけ抜き出して比較している。

ホーチミンのほうが、海外からの旅行者が若干多いにもかかわらず、現在の4つ星以上の部屋の供給量がホーチミンのほうがハノイに比べて26%多いため、その分稼働率がホーチミンのほうがハノイより低い水準となっている。

■平均客室単価が域内で最も高いシンガポール

2つ目の主要なホテル指標は平均客室単価(ADR)だ。これは「Average Daily Rate」の略で、客室全体の売上を販売した客室数で割った値であり、客室1室あたりの販売単価を意味している。平たく言えば、それぞれの都市におけるホテルの平均の1泊当たり室料になる。

ここでは、想像に難くなく、物価水準の高いシンガポールが181米ドルと最も高い水準にある。域内では、バンコクやジャカルタが相対的に高い水準にある一方で、ハノイ、ホーチミンやマニラといった都市は客室単価が低い。

前の平均客室稼働率との比較では、一般的には客室単価が高まれば、その分平均稼働率が下がる関係にある。例えば、ジャカルタを見てみると、平均稼働率は53%と域内では最も低い一方で、平均客室単価は高い水準にある。こうした都市では、需要が大幅に増加しない限り、より客室の稼働率を高めるために、今後客室単価が下がる可能性が高い。

一方で、シンガポールのように、稼働率も高く、かつ客室単価も高い都市もあり、こうした都市では需給自体がタイトに締まっているため、今後大幅な市場へのホテルの供給がない限り、今後も価格水準も高く、かつ高い稼働率を維持する可能性が高い。

■真のホテル業界の実力を見るのに適したRevPAR。最も高いASEANの都市は?

こうしてみると、客室稼働率と平均客室単価の双方を考慮して考えることが重要だとわかる。そしてその観点から見るのに適した指標が「一日あたり販売可能客室数あたり客室売上」(Revenue Per Available Room: RevPAR)になる。

これは、販売可能客室1室あたりの売上を表す値であり、前述の客室稼働率(OCC)を平均客室単価(ADR)で乗じた値と等しくなる。RevPARは、実際の稼働率を考慮した客室1室あたりの売上高が分かる値であり、ホテルの実力が分かる指標としてとても重要だ。

それではASEANのホテル市場で最も高いRevPARはどこだろうか?これは、シンガポールが152米ドルで1位、次いでバンコクが135米ドルで2位となっている。一方でランキングの下位に目を転じると、マニラが最下位で70米ドル、その次に来るのはクアラルンプールで81米ドルとなっているのが興味深い。これは、平均稼働率が66%と振るわなかったのが響いている。

こうしてみてくると、ASEANとひとくくりにされる地域の中でも、そのホテル市場環境は大きく差があることが見えてくる。次回では、こうした各国の違いを確認した上で、今回も見たハノイとホーチミンのホテル市場の比較について、より踏み込んでみていきたい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: タイベトナムシンガポール日本
関連業種: 建設・不動産観光マクロ・統計・その他経済

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