• 印刷する

【アジアインタビュー】 在日ミャンマー人家族、実話から描く

映画「僕の帰る場所」公開、藤元明緒監督

難民申請中の在日ミャンマー人家族の実話を基にした映画「僕の帰る場所」が、今月6日から日本で一般公開となった。母国へ帰るか、帰るまいか――。2つの国の間で揺れながら、未来へ向かう一家の姿を優しいまなざしで描く。東京国際映画祭の「アジアの未来」部門でグランプリと監督賞を獲得し、オランダの映画祭では子役の少年が最優秀俳優賞を受賞した。藤元明緒監督らに、作品に込めた思いを聞いた。(聞き手:共同通信ヤンゴン支局・斎藤真美)

藤元明緒 1988年大阪府生まれ。大学で心理学、家族社会学を学んだ後、ビジュアルアーツ専門学校大阪・放送映画学科に入学。長編初監督作品となる「僕の帰る場所」を日本、ミャンマーを舞台に5年の月日をかけて完成させる。現在、制作拠点をヤンゴンに移し、日本ミャンマー合作映画制作のマネジメントやテレビドキュメンタリーのディレクターに携わるなど、国際的に活躍する

藤元明緒 1988年大阪府生まれ。大学で心理学、家族社会学を学んだ後、ビジュアルアーツ専門学校大阪・放送映画学科に入学。長編初監督作品となる「僕の帰る場所」を日本、ミャンマーを舞台に5年の月日をかけて完成させる。現在、制作拠点をヤンゴンに移し、日本ミャンマー合作映画制作のマネジメントやテレビドキュメンタリーのディレクターに携わるなど、国際的に活躍する

――映画を制作したきっかけと、作品の時代背景を教えてください

藤元さん(以下敬称略) 経済成長著しいミャンマーを舞台にした映画を撮ろうと、2013年に初めて同国に足を運びました。日本に帰国後、ミャンマーのことをもっと知りたいと、在日ミャンマー人が集まる東京・高田馬場の料理店へ通い、難民申請をしている多くの人たちに出会ったのです。

©E.x.N K.K

©E.x.N K.K

彼らはミャンマーが11年に民政移管をしたことを受け、帰ろうか、帰るまいか、揺れていて、それを映画にしたいと思いました。当時知り合った一人が、父親役のモデルとなった男性です。日本に難民申請をしたのですが、認められず、妻と子どもだけがミャンマーに戻り、家族が離れ離れで暮らしていました。

映画では、日本人映像ジャーナリストの長井健司さんが亡くなられた反政府デモが発生した07年頃に日本に来た家族が、11年の民政移管直後に難民申請を行うという時代設定をしています。帰れと言われても母国での仕事がない、生活の準備もない。より良い生活や夢を求めて日本に来た難民の11年以降の言葉、姿を描きました。

■「帰った後」に視線を

――ともすれば、「虐待」「不法就労」などセンセーショナルなテーマと結びつけられがちな難民問題を家族の物語とすることで、別の視点から核心に迫っています

藤元 難民認定制度を直接的に描くことは避けました。映画では、申請が認められないことがきっかけになり、家族が重大な決断を下さなければならなくなるのですが、入管に何度も出向かねばならなくなる父親が持っているビザの種類や、認可されないことにどのような事情があるのかは曖昧にしています。

また、父親が少数民族であることが暗示される場面が一瞬ありますが、日本に残ったことの直接の要因としては表現していません。さまざまな要素をにおわせつつ、「語り過ぎる」ことはしたくありませんでした。

問題提起という意味でいえば、今の日本社会では、難民を受け入れるだけでなく、彼らがどう母国に帰り、どう生きていくか、に目を向けることをしていないのではと感じます。映画では、とてもひっそりとした世界である「帰った後」を、ひとつの家族を通じて描きました。難民を巡る環境や制度が目まぐるしく変わる中で、共有したい部分です。

©E.x.N K.K

©E.x.N K.K

©E.x.N K.K

©E.x.N K.K

――ミャンマー人家族から見た日本の入管が、かなり冷淡な「悪者」として描かれていたようにも受け取れました。入管ボランティアの「ユウキ」も厳しい言葉を浴びせられます

來河侑希さん(キャスティング担当・入管ボランティアのユウキ役として映画にも出演、以下敬称略) 演じるにあたり、複数の救済組織や実際に入管ボランティアをしている人に、1年余りかけて取材しました。難民認定制度はわかりにくい部分が多く、どうしたら在日外国人が生きやすくなるのかを自問自答する作業が役づくりだったと思います。

個人的には、ボランティアは、不法滞在容疑により収容された入国者を救う「仮放免」や、難民の直近の生活を支える際に一定の達成感は得られるものの、彼らがどう生きるかという面で真に助けることはできないのではないかと悩みました。その疑問を演技にぶつけていたので、ずっと不機嫌な顔をしていますね(笑)。

――大半のキャストが演技経験のない一般のミャンマー人。日本育ちの兄弟がミャンマー仏教の礼節に戸惑ったり、ミャンマーを「汚い」と言ったりする場面などはリアルですね

來河 父親役のアイセさんには、ミャンマー北部カチン州の難民キャンプを訪れた際に出会いました。母親役のケインさん、子役の兄であるカウン君(撮影当時7歳)、弟のテッ君(同3歳)は、日本に住んでいる本物の親子です。入管で取材をしている際に、知人を通して紹介を受けてスカウトしました。

子役2人は実際、ミャンマー語はほぼ解せず、日本語しか話せません。2人とも、とてもひょうきんな性格で、撮影中も笑いが絶えませんでした。次は彼らをキャストに、コメディーをつくったらいいのではないかと考えているほどです(笑)。

ヤンゴンでの上映を終えた後の食事会でスピーチする來河侑希さん(中央)の横でおどける、カウン君(左)、テッ君(右)の兄弟=9月、ヤンゴン

ヤンゴンでの上映を終えた後の食事会でスピーチする來河侑希さん(中央)の横でおどける、カウン君(左)、テッ君(右)の兄弟=9月、ヤンゴン

今回の映画で家族となった4人は、全員を本名で配役しています。映画の設定と彼らの境遇は違いますが、問題を共有できるミャンマー人を起用したことで、現実と映画の境目をなくす演技が生まれたと思います。

家族4人のほか、ヤンゴンでのキャストの多くが演技経験のない一般のミャンマー人。上映に駆けつけ、皆で再会を喜んだ=9月、ヤンゴン

家族4人のほか、ヤンゴンでのキャストの多くが演技経験のない一般のミャンマー人。上映に駆けつけ、皆で再会を喜んだ=9月、ヤンゴン

■悩み抱えて進むのが家族

――監督が好きなシーン、強い思いを込めた場面はどこですか

藤元 言い出すと切りがないですね(笑)。ミャンマーに降り立ち、「汚い」と率直に表現したカウン君が母国に親しみ始めたころ、ミャンマーについて再度、どう思うか尋ねられる場面がひとつです。やっぱり、「汚い」というんですが(笑)、これは実は脚本にないんです。(いきなり放り込まれた世界での)葛藤を経て、周りの世界を認め始める中、単純に「ミャンマー、いいよね」っていう言葉は出ない。ただ、内部では確実に何かが変わっている。成長するカウン君自身から自然に出てきたものに助けられた大好きなシーンです。

父親が若い時に使っていた難しい英語の技術書を見つける場面では、カウン君の知らない父親の過去を垣間見ます。私自身への問いでもあるのですが、それほど頑張っていた父親を日本に行かせたものは何なのか。貧困か、国情か、民族問題か、自分たちには分からない。答えが出ない中で、父親の育った家とそこに残るモノが、時を超えてカウン君に届くのです。

――この家族は、これからどうなるのでしょうか

藤元 これからも映画のようなことを繰り返していくのではないでしょうか。いつも誰かが悩みを抱え、さまざまな難題が降りかかる。問題を抱えながら、それでも進んでいくのが、家族なのかなと思っています。

<取材メモ>

「彼らが母国に帰った後、どう生きていくのかに目が向けられていない」という藤元監督の言葉は胸に突き刺さる。難民認定制度に多くの矛盾や問題点があることは声高に議論されるが、在日外国人の個々のあり方や家族としての思いは置き去りにされることが多い。

ヤンゴン上映では、鑑賞したミャンマー在住の日本人の母親から「母国でありながらも異国であるミャンマーでの、日本語しか話せない少年の戸惑いは、父親の駐在で一緒に移り住んだ日本人の子どもの当惑と似通うところがある」と感想を話した。

全編を通じて、時折現れる謎解きのような描写も味わい深い。政治的なメッセージを極力廃しながらも難民問題の厳しい現実を暗示する一方で、成長するカウン君の目を通してはっとするほど美しいヤンゴンの夜や日の差し込む空、人の表情が表されるのは、5年にわたり現場を見つめ続けた製作スタッフ全員のミャンマーへの強い愛情故なのだろう。見るたびにミャンマーに引きずり込まれ、新発見に驚かされる映画だ。

ヤンゴンでの上映に合わせて来緬した、アイセさん(左端)、テッ君(左から2人目)、カウン君(同3人目)、ケインさん(右端)。カウン君は今、俳優になる夢を抱く=9月、ヤンゴン

ヤンゴンでの上映に合わせて来緬した、アイセさん(左端)、テッ君(左から2人目)、カウン君(同3人目)、ケインさん(右端)。カウン君は今、俳優になる夢を抱く=9月、ヤンゴン

「僕の帰る場所」

監督・脚本・編集:藤元明緒

プロデューサー:渡邉一孝、吉田文人

共同プロデューサー:來河侑希

出演:カウン・ミャッ・トゥ、ケイン・ミャッ・トゥ、アイセ、テッ・ミャッ・ナイン、來河侑希、黒宮ニイナ、津田寛治

企画・製作・配給:E.x.N

製作年:2017年 上映時間:98分 製作国:日本、ミャンマー

ポレポレ東中野ほか全国で順次上映中

【あらすじ】

東京の小さなアパートに住む、父のアイセ、母のケインと幼い2人の兄弟。移民として生活をする中で、ある日、アイセが入国管理局に捕まってしまう。日本で育ち、母国語を話せない子どもたちに、ケインは慣れない日本語で一生懸命愛情を注ぐが、父に会えないストレスで兄弟はいつも喧嘩ばかり。ケインはこれからの生活に不安を抱き、ミャンマーに帰りたい想いを募らせてゆく――。


関連国・地域: ミャンマー日本
関連業種: メディア・娯楽雇用・労務社会・事件

その他記事

すべての文頭を開く

最賃改定で自動化対応に需要 ヤンゴン、繊維業見本市に130社(12/10)

ラオス民法典が成立 日本が支援、市場経済に下地(12/10)

【書籍ランキング】11月22日~11月28日(12/10)

ハウス食品、越でカレー事業 「カレー元年」日系各社も続々と(12/10)

有田みかん販促でPRイベント 有望市場向けの輸出拡大に期待(12/10)

パナ、マレーシア現法の開発力強化 新市場にらみ、新R&D拠点開所(12/10)

製造機器は日本ブランド信仰=ウズベキスタン(12/10)

ヤマハ、「ノザグランデ」19年モデル発売(12/10)

華為問題、中国が強く反発 カナダへの報復措置を示唆(12/10)

英BTが華為製品を排除、5Gの基幹分野で(12/10)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社エヌ・エヌ・エーは一切の責任を負いません。

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン