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【アジアで会う】阿部玲子さん オリエンタルコンサルタンツ・インド法人社長 第222回 切り開いた土木コンサルの道(インド)

あべ・れいこ 1963年生まれ、山口県出身、大阪育ち。山口大学工学部卒、神戸大学大学院工学研究科修士。博士号取得。鴻池組を経て2004年にパシフィックコンサルタンツインターナショナル入社(08年にオリエンタルコンサルタンツに事業譲渡)。土木コンサルタントとして07年にインドに赴任し、デリー、ベンガルール(バンガロール)、アーメダバードの地下鉄工事に従事。14年にインド法人の社長就任。

苦しいとき、思い出す言葉がある。四面楚歌には上がある――。どんなに追い詰められた状況でも、どこかに必ず道は見つかる。会社から戦力外通告を受けた30代終わりのころ、母に言われた言葉だ。

卸売り問屋と酒屋を経営する一家の一人娘として、山口県に生まれた。お盆など忙しい時期は母方の祖母に預けられることが多く、梅酒の梅を食べたり、布団に水をかけたり、いたずらをしては祖母に木にくくられ、きつく叱られた。「とても厳しい人。でも、いつも私や母のことを応援してくれる人でもありました」

小学校に上がると一家全員で大阪へ引っ越す。それまで社長の奥さんだった母が、小学校の教師として働き始めた。どうやら父の商売がだめになったらしい。詳しい事情は知らされなかったが、勤めに行く母の背中を見て「大人になったら自分も社会に出て働こう」と思うようになっていた。

■男社会で経験した試練

形あるものを作りたいという希望から、大学ではトンネル工学を専攻する。後々まで続く試練はここから始まる。土木建築は典型的な男社会。女性であることがネックになり、就活時は面接さえ受けられず門前払いが続いた。大学院へ進んだが、2年後の就活でも大半の建設会社からまたも門前払い。教授のつてで鴻池組の面接にこぎつけ、ようやく就職口をつかんだ。

女性ゆえの試練は続く。土木技術者として入社したものの、現場に入れてもらえず、デスクワークをこなす毎日。30歳を過ぎたある日、上司から呼び出された。「海外留学して自分なりの武器を持て。現場経験のないおまえはいずれ居場所をなくすぞ」

知らぬ間にそこまでの窮地に立たされていたとは。猛勉強してノルウェー工科大学に留学し、その後は現地建設会社のトンネル工事現場で研修を受けた。帰国後は外国での経験を買われ、台湾の新幹線整備のトンネル工事を5年間担当。これからは海外の案件を専門にしていこう。そう考えていた矢先、リストラが告げられた。

「くやしかったし、こたえましたね」。経済の低迷期にあった当時の日本では、多くの建設会社が海外事業から縮小・撤退していた。もうすぐ40歳。次の職は見つかるのか、自分に何ができるのか。ふだん仕事に口出しなどしない母が声をかけてきたのは、そんな折だった。四面楚歌には上がある――。山口から大阪へ移り住んだ時期、一家の暮らしは明日の見通しも立たないほど苦しかった。そのとき母は祖母からその言葉を告げられたのだという。

「そうか、母は逆境を乗り越えたんだ。だったら自分もやるしかないと、気持ちを切り替えられました」。建設会社の門が閉ざされたのならコンサルタントという道がある。海外案件を扱う数社の建設コンサルに連絡を取り、現在の会社に再就職した。

■次の世代を育てたい

新しい職場では、中国やカタールを経て、2007年にインド・デリーの地下鉄整備にトンネルエンジニアとして着任した。インド人は新しい技術を導入することには積極的だが、安全管理や環境向上への意識はまだ薄い。そこで、コンサル会社を軸として、メトロ公社や国際協力機構(JICA)、神戸大・山口大の教授や学生、施工業者の協力で建設現場の安全確保と環境対策のプロジェクトを立ち上げた。構造物の危険度を自動判定してLED信号で周囲に知らせる機器を設置したほか、スマートフォンを持つ作業員に粉じん計測アプリを導入した。

「口うるさいマダムと思われたでしょう」と振り返るが、作業員が安全や環境に注意を払う姿を見るのはうれしかった。

14年にインド現地法人の社長に就任し、今年4月からは現場を離れて経営に専念している。日本の新幹線技術を導入するムンバイ―アーメダバード間の高速鉄道整備の準備業務をはじめ、現地法人は複数のメトロ・鉄道案件を手掛ける。現在200人のスタッフは、数年後には1,000人規模に膨らむだろう。インド人が指導役となって業務を動かす体制を築くことが目標だ。

今後の自身の展開についても少しずつ考え始めている。「開発途上国での経験を次世代につなげたい。そして、安全対策や環境対策を研究していきたいと思っています」

トンネル工事の分野で歩み続けた30年の間には、何度も困難に突き当たった。そのたびに周囲の助言や協力に支えられ、前へ進むことができた。四面楚歌には上がある。「私の場合、下に掘ってしまったわけですが」。逆境を笑い飛ばす強さも身に付けた。(インド版編集・成岡薫子)


関連国・地域: インド
関連業種: 社会・事件

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