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【アジアインタビュー】「MUJI HOTEL BEIJINGを文化発信の場に」

UDS代表取締役会長 梶原文生

生活雑貨ブランド「無印良品」のコンセプトを基にした「MUJI HOTEL」の北京店が6月30日に開業した。ホテルの企画・設計・経営を担うのは、不動産事業の企画や設計などを手掛けるUDS(東京都渋谷区)と、現地法人の誉都思(ユードゥースー)建築咨詢(北京)有限公司。東京・銀座で来年春の開業予定のMUJI HOTELの3号店も、良品計画提供の無印良品のコンセプトの下、UDSが企画から経営までを担う。無印良品ファンが熱視線を注ぐプロジェクトの陣頭指揮をふるうのが、同社の梶原文生代表取締役会長。穏やかで紳士的な口調ながら、熱くMUJI HOTELへの思いや経営ポリシーを語ってくれた。(文=NNA東京編集部 古林由香)

かじわら・ふみお 1965年東京生まれ。東北大学工学部建築学科卒業。大学時代はボート部に所属。リクルートグループの不動産会社勤務を経て92年、都市デザインシステム(現UDS)を設立

かじわら・ふみお 1965年東京生まれ。東北大学工学部建築学科卒業。大学時代はボート部に所属。リクルートグループの不動産会社勤務を経て92年、都市デザインシステム(現UDS)を設立

──ホテルが建つ「北京坊」(西城区)は、「胡同」(フートン)と呼ばれる細い路地が入り組んだ昔ながらの街並みを残しつつ、再開発されたエリアです。北京市の新たな文化発信的シンボルであり、天安門広場も目の前というこの場所で、ホテル建設に至った経緯は?

4~5年ほど前に、この地域を担当している広安グループという北京市の行政系開発会社からお声が掛かったのがきっかけです。広安はエリア一帯を再開発するにあたり、100年、200年前の建物が並ぶ古い街並みの保存と、発展を両立させることを考慮しました。街にはベンチマークとなるホテルが必要だが、地域文化をうまくくみ取った街に開かれたホテルがふさわしいとなったときに、私たちが設計・企画を手掛けたホテル「CLASKA」(目黒区)を、ご担当の方が以前に見てくださっていたことが縁となり、オファーをいただきました。

ご担当の方は、海外留学もしていた感度のいい方で、「格好いいホテルを作れる人は世界中にたくさんいるけれど、格好よくて、地域の文化をくみ取ったホテルを作りたい」とおっしゃっていました。私たちが設計・運営しているホテルでは、街に開かれ、街の魅力を発信する場としてイベントや展覧会、講演会なども催しているのですが、そういったサービス面や企画内容が広安側の考えとマッチしました。

──オファーがあった段階で、すでにMUJI HOTELの構想は?

MUJI HOTELの構想自体は、良品計画の金井政明会長と以前からお話させていただいていました。今回の素晴らしい立地でのホテルのお話しを受けて、ぜひMUJI HOTELをどうか、ということで金井会長にご相談し提案させていただきました。広安も私たちも、北京市の中心部に日系のホテルが建つことを懸念していたのですが、文化を伝えていくという意味でアジア的なデザインであれば問題ないということで、行政側からも許可をいただき、建設に至りました。

MUJI HOTEL BEIJINGが建つ「北京坊」の一帯は、昔ながらの商店街や四合院と呼ばれる伝統家屋が立ち並んでいた場所。「耐震性の問題などで再開発されることになったのですが、一部に古い建物が残されているほか、スクラップした建物の部品を再利用するなど、なるべく昔の街並みに近い感じを保存しています」(良品計画提供。以下同)

MUJI HOTEL BEIJINGが建つ「北京坊」の一帯は、昔ながらの商店街や四合院と呼ばれる伝統家屋が立ち並んでいた場所。「耐震性の問題などで再開発されることになったのですが、一部に古い建物が残されているほか、スクラップした建物の部品を再利用するなど、なるべく昔の街並みに近い感じを保存しています」(良品計画提供。以下同)

──UDSが設計・運営を手掛けるMUJI HOTELの3号店が、銀座の無印良品の旗艦店とともに来春オープン予定ですが、1号店が深セン(運営:深セン深業酒店管理有限公司)、2号店が北京と、中国で先にオープンした経緯は?

タイミング的に中国が先になってしまっただけで、あえて中国を一番にしたわけではありません。良品計画はグローバル企業ですし、どこの国を一番というより、いい条件で無印良品らしくできるところで、という基準で進めていたところ、深センと北京が先になりました。開業の順番は深センが先(18年1月)になりましたが、プロジェクト的にはほぼ同時期にスタートしていました。「MUJI HOTELはどうあるべきか」というところから始まって、概念を考えていこうと良品計画と何度もディスカッションを重ねました。

バスタブと洗面器はホテルのオリジナル。写真の客室はCタイプ

バスタブと洗面器はホテルのオリジナル。写真の客室はCタイプ

──概念を構築するにあたり、良品計画とどのようなやりとりを?

全体的なコンセプトは良品計画で設定いただいて、私たちはそれを基に企画を立てるという方法で、何度もやり取りを交わし進めました。金井会長もほとんどの会議に参加されて、いろいろな案を出していただきました。金井会長は考え方が柔軟かつ発想豊かで、とてもクリエイティブな方。博識ですし、概念を言葉にする能力もお持ちで、個人的にも尊敬する経営者のおひとりなのですが、金井会長が思い描いているものをどう具現化していくか、というのがMUJI HOTEL BEIJINGのテーマだったと思います。

吹き抜けの壁に商品を陳列し非日常感を表現

吹き抜けの壁に商品を陳列し非日常感を表現

ロビー横にある「BOOK LOUNGE」では約8,000冊の書籍を陳列・販売。手前にはイベントや展示などができるビッグテーブルも配置

ロビー横にある「BOOK LOUNGE」では約8,000冊の書籍を陳列・販売。手前にはイベントや展示などができるビッグテーブルも配置

──ホテルのコンセプトである「アンチゴージャス、アンチチープ」をどのようにデザインに落とし込みましたか?

アンチチープ(安っぽくないこと)は分かりやすいと思うのですが、アンチゴージャスは難しい課題でした。ゴージャスさを排除すると、ホテルに入るワクワク感が削がれてしまいかねないので。そこで、客室デザインには驚きがあったり、ほかのホテルにはない違いを出していくことを考えました。例えば、客室の端から端まですっと伸びたロングカウンター。客室に入ると「おっ」と驚きがある感じにしました。宿泊客によって求める快適さや客室の使い方も異なりますが、さまざまな使い方に対応できる設備として、ロングカウンターがうまく表現できたのではと思います。

また、店舗がある地下1階から3階までの吹き抜けの壁を無印良品の商品で埋め尽くし、無印良品らしさと非日常感を表現しました。この場所も驚きを感じてもらえると思います。

──建築するにあたり環境への配慮も考慮されたとか

環境に対する配慮は、良品計画も弊社も大事にしており、エリア再開発で建物が解体されるときに廃材として出たレンガを壁に組み込んだり、中国で馴染みのある素材である竹を使用しています。

──家具や小物などは無印良品の既存商品を配置しつつ、ホテルオリジナルのものもあるとか

バスタブと洗面器は今回オリジナルで作りました。良品計画は、さまざまなテストを重ねて、自分たちがいいと思うものを商品開発することを大事にされている企業。今後、MUJI HOTELからも商品開発をしていけたらという話も出ています。実際に商品化されるかはまだ分かりませんが、バスタブと洗面器の素材は少しマット感があり、シンプルだけれども美しく、値段もそれほど高くありません。自慢の作です(笑)。

MUJI HOTELの大事な意義のひとつは、お客様が無印良品の商品を滞在を通して体験できる場所であること。体験して納得して買ってもらうための場を提供する、というのが大きな役割だと思っています。

──開業し1カ月ほどですが、現在の客層は?

営業認可が下りてすぐに予約を開始し、開業した関係で、現在は中国の方がほとんどです。予約はホテルの自社サイトでのみで行っているのですが、オンライン・トラベルエージェンシー(OTA)を通さないので、OTAへの手数料が発生しない分、客室料金の形でお客様に還元することができます。無印良品の創業当初のキャッチフレーズである「わけあって、安い。」に近い考え方です。結果、客室の稼働率も上がる。おかげさまで連日ほぼ満室の状況が続いています。

また、共用施設である1階の飲食スペース「Cafe&Meal MUJI」は行列ができていますし、ロビー横にある、書籍を陳列・販売するスペース「BOOK LOUNGE」や地下の無印良品の店舗もとても賑わっています。近くに米コーヒーチェーン、スターバックスの旗艦店がオープンしたこともあり、MUJI HOTELに寄ってスターバックスに行くというのが新しい観光ルートにもなっているようです。

無印良品らしい商業施設としての賑わいと、ホテルとしての静寂感をどうミックスさせるかは難しい問題なのですが、賑やかなロビーを通ってエレベーターホールまで行くと、パッと静寂な空間に切り替えられるよう設計しました。

──サービス面の特徴は?

ホテルのスタッフとして現地法人の誉都思で60人ほど採用し、無印良品での店舗研修を受けさせました。ただ、当然ですが店舗とホテルは違うので、研修を通して学んだことを私たちなりにホテルのサービスとしてふさわしい応対に落とし込んでいきました。立ち上げスタッフとして日本人も多数採用しており、中には一流ホテルからの転職組もいます。全体的に元気な若手女性が多いです。

──梶原会長は1992年にUDSの前身である都市デザインシステムを設立。コーポラティブハウス事業をいち早く手掛けたほか、ホテル運営にも参入するなど事業拡大を続けていらっしゃいます。2013年に北京で現地法人の誉都思を立ち上げた経緯は?

もともと人口推移のデータを見るのが好きで、データ分析して経営戦略を練るということを昔からやっていました。弊社はホテル運営と企画設計の両方を手掛けていますが、設計業の立場として、日本の総人口1億2,660万人に対応する建築物はすでにもうでき上がっているのに、人口減少するこの先、新しい建築物が本当に必要なのかと疑問視していたんです。新築が減って行くというビジネス的な観点と、環境保全という意味で、古い建物を残して使っていくべきと考え、早い段階でリノベーション事業を始めました。今回、話に出ました「CLASKA」も古いホテルのリノベーションで、「ホテル カンラ 京都」は教育施設の校舎のコンバージョンです。

築34年のホテルをリノベーションしたCLASKA(UDS提供。以下同)

築34年のホテルをリノベーションしたCLASKA(UDS提供。以下同)

ただ、日本の人口減少の中での組織成長を考えると、やはり海外進出もしなければならないと考えました。私は需要と供給のバランスを常に意識しているのですが、日本は建築家の供給がとても多い国。建築の需要が減っていくのに、今も大学の建築学科が増えていて、需給バランスが崩れてきている。需要がたくさんあるのに建築家が少ない国はどこかと見てみたところ、挙がったのが中国やベトナムなどでした。06年くらいから事業を始め、手ごたえを感じたので、11年に家族で北京に移住し、13年に現地法人を設立しました。

中国は、3,000年、4,000年の中で常に経済的、文化的にトップを走り続けた国であり、文化性を重んじるDNAがあると感じます。ただ、文化大革命の影響などで文化の教育が一時寸断された時代があるので、建築の教育された人が足りておらず、大きなマーケットとの間に需給のミスマッチが起きていました。そういった意味でチャンスが多い反面、やはり手ごわい国ですので、単身赴任ではなく、腰をすえてやろうと家族を引き連れて移住をしました。最初は北京で2年間暮らし、現地法人を立ち上げ、次は上海に5年ほど滞在し、そこでもチームを作りました。現在、北京、上海合わせて設計チームのスタッフは40人ほど。ある程度、現地の経営者に任せられるようになったので、今春に日本に戻りました。

13億人もいればいろんな方がいらっしゃるし、中国でのビジネスは手ごわい面があるのは事実。けれども、とてもいい国ですし、まだまだ伸びる。私たちの現地法人もまだまだ伸びると思います。

北京の現地法人のスタッフ

北京の現地法人のスタッフ

──中国の好きなところは?

中国の方は「こういうことを将来やりたいんだ」と大きな絵(ビジョン)を描く方が多いんです。それに対し、「だったら手伝おう」という人たちも多い。大企業でも、政府でもそう。日本だと「派手なことはできないから、このくらいでうまく調整して」という感じなのとは対照的ですね。クリエイターとして楽しいしやりがいがあります。

──中国進出を考える同業他社にアドバイスをするなら?

中国は世界最大の成長マーケットで、ビジネスチャンスの宝庫というのが世界の見方。それに対し、日本人の中には歴史的な背景などで中国に対してうがった見方をする方がいたり、一部新聞は「中国の経済失速」と報じたりしていますが、日本の経済成長率が1%なのに、6.5%の国を失速とは言えないと思います。

ただ、競争が厳しく手ごわいのは事実で、生半可な気持ちで行ってもうまくいかないでしょう。私たちが今のところ順調なのは、時間をかけて現地のスタッフを育て、彼ら・彼女らが中心となって経営できる環境を作っているからだと思います。言語の問題があるので、原則は日本に留学していた中国人になるのですが、新卒者を採用して、一緒に肩を組んで行くぞ、という意識でスタッフを育てています。実際、中国にいた7年間、私は経営者というより、後継者となる経営者を育てることに注力しました。「私はこう思うが、判断は自分たちでしなさい」というスタンスで、横から見守っていました。

駐在員の赴任期間が3年程度という日系企業は少なくないですが、スタッフを育てるのが難しいでしょう。成功する日系企業は、責任者が現地に長くいらっしゃる企業が多いと思います。中国人は優秀な人が多く、勤勉で上昇志向が強いので育てがいがありました。私自身も経営を教えていて楽しかったです。

──UDSの今後の海外展開は?

韓国でも複数プロジェクトが進んでおりますし、米国やスリランカなどでも新しいプロジェクトができないかと取り組んでいます。

──改めて、マロニエゲート銀座2(旧プランタン銀座)向かいの読売新聞東京本社所有跡地に19年春に開業予定のMUJI HOTELについて

店舗が地下1階から6階の一部まで入り、6階の一部から10階までがホテルです。店舗とホテルの融合を課題にしていて、MUJI HOTEL BEIJINGで実現できたことを、より一層進めていく形になると思います。本拠地東京の、しかも銀座の真ん中ということでより気合も入り、いろいろなアイデアが出てきていて、今までにない面白いホテルになると思います。

銀座に来春開業するMUJI HOTELの完成イメージ

銀座に来春開業するMUJI HOTELの完成イメージ

※特集「アジアインタビュー」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2018年8月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 中国日本
関連業種: 観光

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