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【有為転変】第122回 若櫻たちの日章旗

7月末にダーウィンに出張した際の空き時間に、軍事博物館をのぞいてみた。博物館とはいえど目立った展示品が少なく、個人的にはあまり刺激的ではなかったのだが、唯一、日本人としては非常に興味深いものが展示されていた。寄せ書きの日章旗である。

太平洋戦争を振り返ると、ダーウィンは1942年2月19日に、旧日本軍の艦載機242機の部隊に2回にわたり爆撃された歴史を持つ。これにより243人が死亡し、街も大きな損害を被るなど、オーストラリア史上最大規模の「他国による攻撃」だった。

旧日本軍による真珠湾攻撃は世界的に有名だが、ダーウィン空襲は日本でもさほど知られていない。空襲は、連合国軍がダーウィンの飛行場を基地化するのを阻止するためだったとされている。

この博物館は、ダーウィンのイーストポイントに当時あった要塞の跡地を利用して65年に設立された。北部準州政府は2008年にこれをリニューアルしたのだが、その際、館長は「現代風の人気観光地ではなく、聖地のような戦争記念館にしたい」と、当時の公共放送ABCに語っている。

日章旗には「武運長久」の言葉が使われているケースが多い

日章旗には「武運長久」の言葉が使われているケースが多い

筆者が訪れた日は、小さな博物館にしては来館者が多かったが、中でも白人系の高齢者が多い。そして入館してすぐに、額縁に入れられた日章旗が目に入った。

オージーの来館者の多くが素通りしていたが、こちらは思わず立ち尽くして長考した。おそらく、このダーウィンか、もしくはパプアニューギニアなどで戦死した日本人兵士の遺体などから押収したものだと想像される。

太平洋戦争では、230万人以上の日本兵が戦死した。大半の日本兵は出征の際、家族や親戚縁者、級友などが寄せ書きした日の丸を形見として肌身離さず携えて出征した。当時の寄せ書き日章旗の多くは、「武運長久」という言葉が好んで書かれている。

■出征者の名前

この日章旗は、同じ姓がまとまりになって寄せ書きしているので、親類縁者などが書いたものと思われる。この時出征した人物の名前は「竹鼻庫治」氏だろう。(「竹」の字は、「升」に読めるのだが、寄せ書きの中に「竹鼻」姓の名前がいくつかあるので、これは旧草書体で書いた「竹」だと思われる)。

また、博物館内の別の小さな展示室でも2枚の日章旗を見つけた。そのうち1枚は損傷が激しいが、出征者の名前は「足立卓」氏と読める。

そして残り1枚は、なぜかマネキンの軍人の首に、裏返して粗雑に巻かれ展示されているので、思わず痛ましさを覚える。だが、持ち主の名前はなぜか偶然にも顔を出しており、「角田耕一」氏だと判読できる。

その横に、ほとんど現代では死語となった、「醜の御楯(しこのみたて)」という天皇を守る者としての謙譲語を使っていることが、戦争当時の臨場感を感じさせる。その横には「共に散らん若櫻」と、特攻兵であることを示唆する言葉もある。

■帰国できない3柱の英霊

さて、この場であえて日章旗にこだわって書いているのは、近年、海外にある旧日本兵の遺品を日本の遺族に返還する活動が、盛んになりつつあるからである。ダーウィンで押収された軍機や武器、軍服などは、旧日本軍が与えたものなので、それらがオーストラリアの博物館に展示されていたところで問題もないだろう。

だが、これらの日章旗については、戦後70年経ってもなお所有者が明確に判明できる、まぎれもない個人の所有物である。

さらに、日本政府はかねてから、戦死者の遺骨収集活動を積極的に行っている。例えば日本兵約15万8,000人が戦死したパプアニューギニアでは、そのうち約7万人の遺骨が回収されて日本に送られた。

こうした活動は日本政府だけでなく、オーストラリアや米国の政府も熱心である。国のために戦った戦死者を大切に扱うのはどの国も同じなのだろう。

日章旗は遺骨ではないが、同じように戦死者の魂が宿る。3柱の英霊が、ダーウィンの暗い小部屋で空襲の狂信的な加害者の遺品として奇異な目で見られ、帰国できないままでいるというのに、日本側は何もしないでいいのだろうか。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 社会・事件

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