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【外国企業の日本戦略】高級不動産の需要まだ根強い 台湾の信義房屋、仲介で存在感

外国人の対日不動産投資が熱を帯びる中、台湾の不動産仲介最大手である信義房屋が日台の「架け橋」として存在感を増している。信義房屋は2009年に、本格的なグローバル展開の第一歩として東京で日本法人を設立。主に台湾人に向けて東京都心部の高級マンションなどの仲介を手掛ける。10年に約50件だった年間成約件数は、低金利や先高観も背景に現在約400件まで増えた。20年の東京五輪開催後も需要は根強く、不動産景気が腰折れする可能性は低いとみて、今年からは日本人向けのサービスにも手を広げる方針だ。

信義房屋は1981年の創業で、資産管理会社をはじめとした複数のグループ企業を持つ。台湾ビジネス誌「管理雑誌」が実施する「理想のブランド調査」の不動産部門で24年連続1位に選ばれるなど、台湾でのブランドイメージは高い。93年からは上海市を皮切りに中国でも事業を展開している。

「日本でもローカライズを通じて、誰でも知っている不動産大手を目指したい」という信義房屋不動産の何社長=東京都渋谷区(NNA撮影)

「日本でもローカライズを通じて、誰でも知っている不動産大手を目指したい」という信義房屋不動産の何社長=東京都渋谷区(NNA撮影)

日本での現法設立は、台湾でかねて提携していたオリックスグループからの提案がきっかけ。続けて実施した台湾の消費者に対する意識調査で、日本の物件購入を希望する声が多かったこともあり、本格的な進出に向けてかじを切った。

現在はオリックスの子会社となっているマンション大手の大京グループの協力も得て、2009年に設立に向けた手続きを開始。同年末に渋谷区で日本本社を開設し、中華系の不動産仲介大手による初の日本進出として話題を呼んだ。信義房屋の日本法人、信義房屋不動産の何偉宏社長は「日本の物件を取り扱う企業はその前にも存在したが、正規の手続きを踏んで日本で許可を取得し、全ての条件をクリアにしたのはおそらく信義房屋が初めて」と話す。

信義房屋にとって、日本は文化や習慣が共通する中華圏以外で初の海外進出先。中国では既に一定の結果を出しているが、日本は状況が大きく異なるだけに「グループが今後グローバル展開を加速するに当たり、日本で出した結果が大きな判断材料になる。日本法人は戦略的に大きな意味を持つ」(何社長)。17年7月には日本に続いてマレーシア進出を果たしたが、「ビジネスモデルは日本での経験を基礎にしている」という。

■台湾からみた魅力

台湾人の目から見て、日本の不動産市場は魅力的な要素が多い。「台湾の不動産価格が高止まりする一方、バブル崩壊後の『失われた20年』の影響で、東京の不動産価格は世界の主要都市でも比較的低い水準にあった。また他の国・地域は外国人の不動産所有数を制限したり、購入に厳格な審査が必要だったりと条件が厳しいが、日本では台湾人と日本人の待遇がそう変わらない」(何社長)ためだ。

日本に好意的な市民がもともと多いことに加え、台湾と比べて日本の物件の収益性が高いことも需要につながっている。「特に12年から13年にかけて、日本の表面利回りは新築物件で平均5%超と、台湾の2%以下を大きく上回った。ここ最近は都心部の不動産価格が上昇したため日本の表面利回りも4%を割り込んだが、それでも台湾よりはまだ高い」。東京には品質や住環境の良さでも特筆すべき物件が多いといい、低金利政策が続いていることも相まって「世界中の投資家が日本の物件に注目している」と何社長は指摘する。

物件を紹介する信義房屋不動産のウェブサイトには、東京都港区や千代田区などの高級マンションの名前がずらりと並ぶ。東京本社の成約数のうち、港区、中央区、新宿区、千代田区、渋谷区のいわゆる「都心5区」が占める割合は全体の8割以上。価格帯をみると2,000万~7,000万円の物件が全体の約6割で、1億円以上の物件も8%を占める。

何社長は「三菱地所レジデンスや東急不動産、大京など数多くのデベロッパーと良好な関係を構築し、情報交換を緊密にしている」と胸を張る。ここ数年の取引額は年250億~300億円前後、成約件数は400件前後で推移し、「基本的には年を追うごとに増加傾向にある」という。2010~17年の累計で取引額は1,578億円、成約件数は2,440件を超えた。

16年には大阪支店も開設し、大阪エリアの物件取り扱いもスタート。商業施設が多く都市再開発が進んでいることから、かねて物件の購入を希望する台湾人は多かったといい、大阪エリアの17年の成約件数は既に日本法人全体の15%に達した。何社長は「大阪エリアの占める割合は今後さらに上がる」と予測している。

■増える「自分用」

投資対象としての一面がクローズアップされることが多い日本の物件だが、直近の状況には変化も見られる。何社長によると「日本法人の開設当初は顧客のうち70~80%が投資目的だった。しかしこの2~3年は、約半数が自分のために物件を購入している」。日本で就労している台湾人がマイホームとして購入したり、日本に留学する台湾人が親の援助で買ったりするケースも多い。

以前主流だった「日本に住むなら賃貸でいい」の考えは変わりつつあり、「東京の不動産市場の先行きを見据え、家賃を払い続けるのをやめて物件を購入する動きが盛んになっている」(何社長)。セカンドハウスとしての需要もあり、投資にとどまらない「居住用」としての需要も全体を押し上げている形だ。

何社長はこのほか、20年の東京五輪開催など大型イベントが控えていることも追い風になると予測する。「個人的には、東京五輪で日本への注目度はさらに高まると考えている。市場への貢献度は高い」。実際に日本が五輪招致に成功した13年の成約件数は450件に上り、前年比で260%増えたという。

一部には20年を境に、日本の物件価格が急落するとの見方もあるが、何社長は「実際の不動産取引を左右するのはインフラなどをはじめとする環境。東京の不動産がもともと持っている優れた条件は五輪後も変わることはない。また五輪のためのインフラ建設は環境をさらに整える効果がある」と指摘。「過去に五輪が開催された都市でも、閉幕後に物件価格が上がったケースは多い」と述べ、不安要素は少ないとみる。

「ここ数年は物件価格の高騰に加え、19年10月の消費税引き上げを控えて、成約件数には確かに多少の波がある。だが日本の物件への関心は依然として高く、新規顧客も安定して増えている」(何社長)。16年には日本で新たに賃貸管理会社も設立、物件を購入して賃貸に回す顧客を対象に、ワンストップでサービスを提供できる体制も整えた。「大阪支店の規模拡大と併せて、可能な限り多様なサービスの提供を図る」方針で、日本事業拡充の手は緩めない。

緑と赤を基調とした信義房屋のロゴ。台湾では広く知られている=東京都渋谷区(NNA撮影)

緑と赤を基調とした信義房屋のロゴ。台湾では広く知られている=東京都渋谷区(NNA撮影)

■架け橋の次

足元の顧客を国・地域別に見ると約9割が台湾人で、ほか1割が中国人、香港人、シンガポール人など。顧客の大半は中小企業の経営者や大企業の幹部、退職後の公務員、医師や弁護士、会計士などが占める。

今後は日本事業の拡充に併せて、台湾人だけでなく日本人を対象としたサービスにも着手する。まずは今年下半期(7~12月)をめどに東京都内で同社初の路面店を開設し、日本人向けの不動産売買を開始する方針だ。

何社長は「台湾人ではなく、日本人を相手に日本の物件を取引する。とはいえ台湾とまったく無関係なわけではなく、中にはオーナーが台湾人である物件も多い。これまで販売してきた2,400超の優良物件のオーナーは弊社の顧客。売りに出す際も信義房屋経由で売却してくれるはず」と自信をみせる。将来は大阪支店でも日本人向け業務を始める計画で、日本人顧客の開拓を急ぐ。

「台湾では一定の知名度を誇るが、日本でも今後はローカライズを通じて、誰でも知っている不動産大手を目指したい。ゆくゆくは日本での上場も検討する」。何社長が見据える将来は、「架け橋」だけでは終わらない。(菅原湖)


関連国・地域: 台湾日本
関連業種: 建設・不動産小売り・卸売り

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