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【外国企業の日本戦略】東京で外国人向け学生寮 英国発祥のGSA、目標2万ベッド

日本の大学の国際化や競争力強化に貢献しようと、東京都心で外国人留学生と日本人学生が一緒に暮らし学ぶ「混住型」の学生寮の建設・運営に参入する外国企業が登場した。英国発祥だが現在はドバイに本拠地を構え、オーストラリアや中国など世界8カ国で学生寮を運営するGSAだ。日本の不動産関連資産を主な投資対象とする独立系投資運用グループのスターアジアグループと共同で設立したGSAスターアジア(東京都港区)が、同社にとって日本初の学生寮「Hakusan House」を文京区白山に完成させ、今月末にオープンする。大学の国際化が進む中、外国人向けの学生寮の需要は底堅いとみて、将来は東京圏で2万ベッド分の学生寮を建設・運営する目標を立てている。

「Hakusan House」の1人部屋の家賃は13万円ほど。このほかに6人部屋、2人部屋もある。ベッドやデスクなどは備え付けで、電気・ガス・水道代やインターネット代も賃料に含まれている=東京都文京区(NNA撮影)

「Hakusan House」の1人部屋の家賃は13万円ほど。このほかに6人部屋、2人部屋もある。ベッドやデスクなどは備え付けで、電気・ガス・水道代やインターネット代も賃料に含まれている=東京都文京区(NNA撮影)

都営地下鉄三田線の白山駅から平坦な道を歩いて3分ほどで、そびえ立つ高級マンションのような真新しい建物が目に入る。GSAスターアジアが日本で初めて手掛けた外国人向け学生寮「Hakusan House」だ。

8階建てで延べ床面積は4,500平方メートル、364ベッドを設けた。1階は丸テーブルやソファなどが並ぶ広い交流スペースで、流ちょうな英語を話す30代前後の若いスタッフが笑顔で迎えてくれた。簡易なパイプ椅子が並ぶ食堂で“東京のお母さん”的な寮母らが出迎える昔の学生寮のイメージは覆されてしまう。エレベーター付きで、各階の部屋の入り口もオートロックを装備。学生が寝泊まりする各部屋は清潔感があって、カジュアルな色合いの内装が印象的だ。

GSAスターアジアの滝沢洋代表取締役は「外国人向け学生寮の運営は典型的なオペレーションビジネス。私たちがこだわったのは設備だけではない。ホテルでコンシェルジュなど顧客対応の豊富な経験があり、英語や中国語などが話せるスタッフをそろえた。世界から来た外国人留学生のちょっとした相談に乗り、海外の保護者からの電話での問い合わせにも対応できる体制を整えた」と話す。

東京でも外国人向けの学生寮が増えつつあるが、いずれも大学が自校の外国人学生だけを対象に設けたもの。運営マニュアルも既存の日本人向け学生寮の運営ルールを英語に直訳しただけで、さまざまな大学、さまざまな国・地域からやってくる文化や習慣が異なる学生を一緒に住まわせる外国人向け学生寮運営の経験やノウハウは持たないことが多いという。

GSAは、大学生の半数近くを外国人留学生が占めるオーストラリアや世界各国から優秀な学生が集まる英国などで学生寮の運営ノウハウを蓄積してきた。日本の学生寮が持ちえない外国人向け学生寮の運営ノウハウに優位性があるとみて、日本へ進出を果たした。

滝沢氏は「東京圏でも郊外を中心に一戸建てや団地などで空き家問題が深刻化するなど住宅の数だけは足りている。だが、今どきの外国人留学生が住みたいと思える物件は足りない」と指摘する。アジアなどからの「貧乏留学生」というイメージは過去のものになりつつあり、経済的に豊かになった彼らは、友人にも自慢できる都心部のしゃれた地域の、写真映えする建物での生活を望むようになっているためだ。

■日本人学生との「混住」

「世界で外国人留学生の争奪戦が激化する中、安心・安全でリーズナブルな『混住寮』の提供は日本が選ばれる重要な要素のひとつとなりえる」と話すGSAスターアジアの滝沢洋代表取締役=6日、東京都港区(NNA撮影)

「世界で外国人留学生の争奪戦が激化する中、安心・安全でリーズナブルな『混住寮』の提供は日本が選ばれる重要な要素のひとつとなりえる」と話すGSAスターアジアの滝沢洋代表取締役=6日、東京都港区(NNA撮影)

Hakusan Houseは、「外国人学生だけで埋めるつもりはなく、日本人学生も積極的に受け入れていき、外国人と日本人に『混住』してもらう方針」(滝沢氏)が最大の特徴だ。

「外国人留学生だけが入居するかつての留学生会館だと、日本に留学に来たメリットは薄れてしまう」と滝沢氏。今どきの外国人留学生は、例えば本場の「アキバ」やアニメなどのカルチャーに詳しい日本人学生と友達になることも期待している。ガイドブックに載っている観光地には旅行者でも行けるが、日本人の仲間がいるからこその日本を深く知りたいと考えているはずだ。混住型の学生寮が、こうした外国人学生たちに交流のチャンスを提供することになる。

一方、海外に興味がなく内向きだとされる日本人学生だが、英語などのコミュニケーション能力を磨きたいと思っている学生も一定数存在する。彼らがここHakusan Houseに住めば、まずは外国人学生と簡単なコミュニケーションから始められる。留学をする前に英会話で自信を付けることもできるかもしれない。各階にキッチンを兼ねたおしゃれな交流スペースを設けたのも、学生同士での会話や食事、パーティーなどを楽しむことができるように配慮したためだ。

家賃は6人部屋で1人当たり6万9,000円から。2人部屋は11万~12万円台、1人部屋が13万~14万円台。これら家賃には光熱費やインターネット料金、管理費も含まれる。近くでワンルームアパートを借りると家賃は7万~8万円程度だが、3~4カ月分ほどの家賃に相当する敷金・礼金のほか、インターネット料金、光熱費、家電や家具代などを含めると、実質的な負担は月当たり13万~14万円になるため、「近隣の相場に合わせた合理的な家賃設定に抑えた」と滝沢氏。海外大学の日本校などからの大口での予約や、国立大学の交換留学生向けの予約、中国や日本の学生の個人での申し込みもあり、いよいよ今月末から入居してくる学生たちの新生活がスタートする。

■世界最大規模の大学生市場・東京

「Hakusan House」の外観(上)。外国人留学生と日本人学生がコミュニケーションを図れるよう共有スペースが多く確保されている(左下)。キッチン設備も充実(右下)=東京都文京区(NNA撮影)

「Hakusan House」の外観(上)。外国人留学生と日本人学生がコミュニケーションを図れるよう共有スペースが多く確保されている(左下)。キッチン設備も充実(右下)=東京都文京区(NNA撮影)

世界の大学生は2億人を超え、急増の勢いは止まらない。東南アジアや中国など豊かになる新興国で、子供を大学に通わせることができる中間層以上の家庭が増えたことが、大学生増加の背景にある。彼らの一部が欧米など先進国の有名大学で高度な知識習得を目指すようになっている。

その中で、日本の大学に入学する外国人学生も増えつつある。日本学生支援機構によると、2017年5月時点で、外国人学生は前年同期比11.6%増の26万7,000人に達した。文部科学省は2008年に「留学生30万人計画」を発表し、当時14万人だった日本への留学生を20年までに30万人に増やす目標を掲げており、目標は達成できる見通し。

あまり一般には知られていないが、首都圏だけで100万人を超える大学生が存在するのは、世界でも東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県)だけ。このうち外国人留学生数は約20万人。「100万人もの大学生と20万人の留学生が集中する都市圏は、世界でも非常にまれだ」と滝沢氏は強調する。

少子化で日本人学生が減少する中、国際化を進める大学に対して補助金を支給する文科省の「スーパーグローバル大学創成支援」が14年から始まった。各大学も留学生の招致などに力を入れ、混住型の学生寮も増えつつある。

こうした巨大な学生寮市場である東京圏への投資が、世界の投資家からも注目されるようになっているのだ。Hakusan Houseに投じた数十億の投資資金も、ほとんどが欧米の機関投資家などから集められたものだという。

滝沢氏によると、世界の投資家らが学生寮ビジネスに投資したがる理由は、景気に左右されない安定性の高さだ。08年のリーマン・ショックでも英国や米国などの学生寮の空室率は上がらず、オフィスや住宅が供給過剰となったのとは対照的だった。リストラされた人員がもう一度、大学で学び直して専門性を高めようとする気運が高まったほか、就職難な時代だからこそ子供を大学に通わせたいという保護者が増えたことが要因とみられるという。

■留学生から選ばれる日本にするために

ただ、世界で増える外国人留学生から選ばれる日本であるよう、高等教育の国際競争力の強化、そして現場づくりを社会全体として支援していくことも大切になってくる。大学は英語だけで学位を取得できるよう、教員の国際化も進めつつある。日本に留学生を増やすだけでなく、日本人学生たちの国際化も必要になってくる。さらに大学の国際化だけでなく、地域社会の理解も求められてくるだろう。滝沢氏は「日本人と外国人が共に暮らす学生寮が地域社会で受け入れられるよう、地域住民との交流の機会も増やしていきたい」と話す。

GSAスターアジアは、東京圏で近い将来、2万ベッド分の学生寮を建設・運営する目標を掲げる。毎年、数棟ずつ新たに建設していかないと追いつかない計算だが、20年の東京五輪に向けて地価や建設費も高くなっているため、既存の建物を買い取ってリノベーションすることも検討しながら、「混住型の学生寮のビジネスを成功に導いていきたい」と意気込む。(吉沢健一)


関連国・地域: オーストラリア日本欧州
関連業種: 金融建設・不動産サービスマクロ・統計・その他経済社会・事件

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