【ASEAN】ベトナム医療は魅力的な投資機会か?(11)

2017年12月15日付NNA記事「米GEヘルスケア、ビングループ系と提携」(https://www.nna.jp/news/result/1701306

によると、米ゼネラル・エレクトリック(GE)傘下の医療機器メーカー、GEヘルスケアが、ベトナムのコングロマリット(複合企業)であるベトナム投資グループ(ビングループ)医療部門のビンメックと、包括的な業務提携を結んだという。

ビングループは、19年にビンメック医療科学大学(VUHS)を設立するとともに、20年までに経営する病院を10カ所に増やす目標を掲げている。ビンメックはGEヘルスケアとの提携により、医療現場への先進的技術の導入と国際水準の人材育成を目論んでおり、VUHSを医療教育の中心となる大学病院に発展させ、次世代の臨床医を育てたい考えだ。

一方でGEヘルスケアは医療画像や超音波、麻酔などの最新機器を提供し、またベトナムにおける人材育成として、主に循環器、腫瘍学における指導的立場の育成に協力する。

同記事によれば、GEヘルスケアの東南アジア担当者は「教育や能力開発は、持続可能な医療システムの構築に不可欠。市民の医療へのアクセス、医療の質向上に長期的に貢献する」と強調している。

■今後も欧米系企業の進出が予想されるベトナム医療セクター 

成長するベトナムの医療分野には、今後国外から多くの事業参入が行われてくるだろう。経済成長と高齢化により、医療ニーズの高まりが明確な中で、その成長するパイを確保するため、トップレベルの欧米系企業のより本格的な進出が予想される。

日本企業が進出リスクを逡巡している中で、他の外国企業による積極的な準備が着々と進められていく。気が付いたら、より資本力や高度な技術を持つ欧米企業と、力をつけてきたベトナム現地企業の狭間の中で、日本企業の取りうるベトナム医療関連市場のパイは少なくなっていくかもしれない。

そうなる前に何をすべきだろうか。それには、リスクをマネージしながら、日本の持つ強みを現地で受け入れられる価格で提供していく必要がある。そのためのヒントが前回(https://www.nna.jp/news/show/1709820)記載したバンコク病院の発展の歴史の中に隠されている。

このシリーズのまとめとして、下記の10の医療サービスの進出の際に考慮すべき主要な点について、ベトナムにおける医療環境と私立病院の拡大の難しさ、そしてタイにおけるバンコク病院の拡大の歴史を見ながら、取るべき策について考えてみたい。

(1)現地で十分な患者数、また今後の患者数の拡大は見込めるか

(2)日本医療が現地での医療ニーズに対して十分効果的か

(3)(日本から医師を派遣する場合)現地で日系の医師が市民に対して医療行為を行うことが法規上可能か

(4)現地で日系の病院が提供するサービスに対して支払える「購買力」があるか(現地の所得水準が、日系医療サービスに対して支払えるレベルにあるか)

(5)日本企業に準じる、または上回る医療技術やサービスを提供している現地の医療機関はどの程度あるか(日系病院の強みが競合と比較してどの程度発揮できるか)

(6)現地で医療人材の確保が可能か

(7)集客面で好ましい立地の確保が経済的見合う形で可能か

(8)医薬品や医療機器など、現地において経済的に見合う水準での調達は可能か

(9)(日本から医師を派遣する場合)日本から安定して医師を派遣できる環境か

(10)現地で医療機関の設立が可能か(資本比率や許認可関連)

■ベトナムにおける医療需要の今後の高まり

「(1)現地で十分な患者数、また今後の患者数の拡大は見込めるか」では、ベトナムはアセアン諸国の中でも比較的確実に患者数の拡大が見込める国と言える。その理由の1点目として、ベトナムの人口が現段階において9,000万人超存在しており、かつ人口が増加していることだ。加えて、1人当たりのGDP(国内総生産)も堅調に増加していく中で、今後より医療にかける金額も高まっていくだろう。

理由の2点目としては、ベトナムにおいては人口動態的に、高齢化社会の到来が今後予想されていることからだ。今回のシリーズの第1回(https://www.nna.jp/news/show/1646128)で詳細の説明をしたが、50年代にベトナムは今の日本とほぼ同じ水準の高齢化社会を迎える中で、医療ニーズは大幅に高まっていくことが予想される。

「(2)日本医療が現地での医療ニーズに対して十分効果的か」については、そもそも現地における疾病構造が、日本の医療機関が得意としている分野の割合が多いのかを確認する必要がある。

今回シリーズの第3回(https://www.nna.jp/news/show/1618962)において、ベトナムにおける疾病構造を確認した。そこでは、ベトナム保健省の発表しているデータが実態を反映していないことを見た上で、ベトナムではがんの発生割合が発表よりも多い可能性を指摘した。

実際、より実態を正しく表していると思われる現地の保険会社が発表している病気別保険金金額割合を見ると、がんが最も高くなっている。図表1は、保険会社のベトナムManulifeが発表している16年の同社保険契約者による保険請求内容統計だが、がんが他の疾病を大きく上回り、ベトナムでの保険請求における最大の要因となっている。

■ベトナムにけるがん発生率の世界ランキングは?

世界の中で比較して、ベトナムはがんの発生割合がより多いのだろうか。下の図表2は、WHO(世界保健機関)の発表しているがんの国際比較データ「Globocan, IARC statistics 2012」から、世界のがん発生率の比較のうち、東南アジア主要国および日本、世界平均、アジア平均、東南アジア平均の数値を抽出したものだ。

ここでNumbersは発生総数を表し、ASRは人口10万人当たりの発生割合に対して、その国の高齢化の進展度合いを加味して調整された、高齢化率調整後のがんの発生率数値になる。高齢化がより進展している国の方がよりがんになる人の割合が高い傾向にあり、実際このランキングの上位国は基本先進国で高齢化率の高い国が占めている。

この結果を見ると、実際高齢化のより進んでいる日本は174カ国中48位で、今回の対象の中では最も高い。加えてシンガポールが54位で、ここまでが世界平均及びアジア平均より上である。ベトナムはがん発生割合で174カ国中105位と、アセアン主要国の中ではミャンマーに次いで2番目に名高い。東南アジアの平均が世界平均と比較して低いので、世界ランキングとしてはそれほど高くはないが、域内ではより高いのがベトナムの現況のようだ。

■ベトナムで多いがんは、肝臓がん、肺がん、胃がん、乳がん

このWHOの統計では、国ごとにどのようながんが多く発生しているかの統計も集められている。ベトナムの場合、下記の図表3にあるように、肝臓がん、肺がん、胃がん、乳がんが発生数でより上位に来る。

したがって、「日本医療が、現地における医療ニーズに対して十分効果的か」を考える際に、こうしてベトナムで比較的多く発生しているがんに対する日本での知見の活用は一つの大きなテーマになるだろう。なかでも、上記で挙げられるベトナムで比較的多く発生するがん分野について、より日本での経験を活かしていくかが重要な論点になる。

次回は、「(3)(日本から医師を派遣する場合)現地で日系の医師が市民に対して医療行為を行うことが法規上可能か」から見ていきたい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: ベトナム日本
関連業種: 医療・薬品

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