【アジアで会う】和泉孝一さん 興南(タイランド)社長 第183回 会社人生の集大成として描く設計図(タイ)

いずみ・こういち 1952年生まれ。岡山県倉敷市出身。子どもの頃からの機械好きが高じて、地元の興南設計に入社、設計士の道へ。約40年にわたり日本で勤務した後、2011年の現地法人の立ち上げを機に、初の海外駐在先となるタイに赴任。公私ともに精力的に活動する毎日で、最近はフルマラソン完走を目標に掲げている。

タイではまだ数少ない日系の機械設計会社で、主に自動車産業で使用される生産機械や生産ライン、治具などの設計業務を担い、製造業の発展を陰ながら支える。唯一の日本人として、マネジメント業務だけでなく営業活動もこなすなど忙しい毎日を送る。

「一人前になるには最低10年が必要」とされる設計の世界で、長期的な視野に立ち現地人材の育成に取り組む。新卒で採用したタイ人を日本に派遣し、設計現場で3年にわたる研修を行い、技術とともに「日本流の働き方」を学ばせる。ジョブホッピングが盛んなタイでは、長期研修にはコストに対する退職リスクが伴うが、離職率は比較的低く、「家族経営的な雰囲気に居心地の良さを感じているのかも」と育成に手応えを感じている。

■日本の高度成長期と重なる

2007年11月に投資ミッションで訪れたことを機に、事業展開先としてタイに注目するようになった。街に若者が多く、活気あふれる雰囲気は、自らが青春時代を過ごした日本の高度成長期と重なり、一層の成長を確信した。すぐにでも進出の準備を始めたかったが、直後に米国でサブプライムローン問題が浮上。それに伴うリーマンショック、世界金融危機の対応に追われ、進出はいったん遠のいた。

再びチャンスが訪れたのは、日本で事業が安定を取り戻した3年後。数々のプロジェクトに携わった自身の人生を振り返り、「会社員として残された時間はあとわずか。最後に何か形あるものを残したい」と感じていた頃だった。タイ法人の立ち上げを改めて会社に進言し、自らその担当者に名乗り出た。

初の海外駐在、タイ経済の勢いは3年前よりも増していたが、取引先や関係会社が全くないゼロからのスタートは困難を極めた。現地の法律や商習慣も分からず手探りの状態。セミナーや商談会、展示会、イベントと、外部の人と交流する機会があれば積極的に顔を出し、交換した名刺を頼りにネットワークやノウハウを構築。「友達の友達は皆友達と、まさに友達の輪を広げていくような状況でした」と当時を振り返る。

そうした地道な努力の積み重ねが実を結び、次第に引き合いが出始めた。現地日系メーカー間で現地調達率を引き上げる機運が高まっていることと相まって、問い合わせは増加傾向にあり、現地人材の重要度がさらに増していると感じている。

■「タイの機械はタイで作る」

自動車産業が集積していることから「東洋のデトロイト」とも呼ばれるタイだが、実際に現地で事業を開始すると、機械設計の会社が意外と少ないことに驚いたという。タイ政府は、最近になってようやく研究開発(R&D)部門の強化など産業の高度化を目標に掲げるようになったが、機械工学系のエリートはモノ作りよりもマネジメントに目が向きがちな傾向もあり、底上げには時間を要するとみている。

自社でも、現状ではタイ人スタッフは日本で設計した図面を引く作業が中心で、現地で一貫した設計を担うまでには至っていない。そのため、「自分の国で使われる機械は自分たちで作ろう」を合言葉にスタッフの奮起を促している。

長期的にタイ法人が一本立ちできる体制を目指す一方で、現時点でも手応えを感じられる仕事をスタッフに与えようと、展示会や商談会ではタイ法人だけでもできる業務の発注元を探す親心も。「いつか自分がタイを離れる時が来る。だからこそ、従業員には自分たちで会社を大きくしていくという思いで働いてほしい」と願う。

設計士という独立が比較的容易な職業でありながら、会社にとどまり、会社と共に成長することにこだわった自身の人生。その集大成としてタイで描き始めた未来設計図が徐々に形になりつつある。(タイ版編集・中島政之)


関連国・地域: タイ日本
関連業種: 製造一般

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