• 印刷する

【ASEAN】ベトナム医療は魅力的な投資機会か?(2)

8月4日のNNA記事「政府、20年までに医療・健康分野に19兆ドン」(https://www.nna.jp/news/result/1644203)によると、ベトナム政府は2016~20年までに医療・ヘルスケア分野の発展に向け19兆3,800億ドン(8億5,000万米ドル、約935億円)を投じる方針という。

同記事によると、「発展プログラムでは、予防医療や病気の早期発見、HIVをはじめとする感染症の拡大防止など、国全体の健康促進を目指す」といい、疾病の予防や感染症の拡大防止など8分野の発展を目指している。

加えて、医療だけでなく、人口の規模を維持する水準の出生率を保つことや、国民の栄養状態の向上なども視野に入れ、医療サービスが手薄な地方・農村部についても、対策を講じる方針だ。

この記事でもある通り、医療環境の向上は、ベトナム政府にとっても重点課題の一つに挙げられている。果たして、ベトナムは他の東南アジア諸国連合(ASEAN)と比較して、医療の環境はどの程度なのだろうか。

■実はASEANでもシンガポールに次いで長いベトナムの平均寿命

このシリーズでは、ベトナムの医療環境を見ながら、そこにおける事業機会と、参入の可能性を探っていく。前回記事(https://www.nna.jp/news/show/1646128)では、ベトナムにおける人口構造と今後の推移から、2050年以降にはベトナムが本格的な高齢化社会を迎えることをお伝えした。今回は、そうした今後の高齢化社会を迎えるベトナムにおける医療環境について、特に近隣諸国と比較してその特徴を見ていきたい。

まずは、東南アジアの近隣諸国と比較しての、ベトナムの平均寿命と乳幼児死亡率について見て行こう。下記の図表1は、東南アジア主要国における平均寿命と、乳幼児死亡率だ。このグラフを見てみると、平均寿命についてベトナムはASEAN諸国各国と比較しても、シンガポールに次ぐ2位の76歳と比較的高い水準にある。一人当たりGDP(国内総生産)ではベトナムより上にあるマレーシアやタイよりも、むしろ高い水準にあることに少し驚かされる。

一方で、乳児死亡率を見てみると、1,000人当たり19人と、シンガポールの2.2人はおろか、マレーシアの7.2人やタイの11.0人よりも高い水準にある。乳幼児死亡率は、今まで出てきた国を見ると、一人当たりGDPの高い順に、低い数値となっており、平均寿命と比較して、より経済環境に比例していることが見えてくる。生活環境や習慣などが影響してくる平均寿命と比較して、乳幼児死亡率のほうが病院の設備状況など現地の医療環境の差が直接数値に影響しているようだ。

それでは、その乳幼児死亡率について、今度は時系列での変化を追ってみよう。

これを見ると、ASEAN主要各国において、乳幼児死亡率が着実に改善している状況が見て取れる。特に、タイやインドネシアの改善度合いが大きいが、それと同様にベトナムも着実に良くなっている。

図表3では、日本と比較してのベトナムの妊産婦死亡率を載せている。妊産婦死亡率は1990年から2005年あたりまでは順調に改善が見られたが、その後下げ止まっている。このあたりに、ベトナム医療の構造的な問題が存在するのかもしれない。

■ベトナムにおいて感染症の割合は着実に低下

さて前述の記事において、ベトナムにおいて「感染症の拡大防止など、国全体の健康促進を目指す」との記述があった。一般的に、発展途上国においては疾病や死因において、感染症や栄養失調の割合が高い。経済の成長とともに、感染症や栄養失調の割合が減り、その分それ以外の疾病要因が割合的に増えてくる。

下記の図表4は、ベトナムにおける疾病構造について、1986年と2014年で比較している。こちらにあるように、ベトナムにおいてはこの30年弱の間に、感染症の割合が60%程度から、22%程度に大幅に減っている。その一方で、感染症や事故の割合が相対的に増えてきている。これだけ見ていると、ベトナムの医療環境の改善は今まで確実に進んできているように見える。

経済状況の発展に伴って、感染症の割合が減少したのであれば、ベトナムの感染症の割合は、タイやマレーシア等一人当たりGDPがより高い国と比較して、高いことが予想される。実際のところはどうだろうか。

図表5は、ASEAN主要国における、疾病の割合を比較したものである。ここでは、より分かりやすいように、疾病要因を感染症・栄養失調、非感染症疾患、傷病の3つに分けている。

この表を見ると、ベトナムの感染症・栄養失調の割合は16%と、シンガポールやタイの17%比較しても同等かそれ以下の水準にある。また、マレーシアやインドネシア、フィリピンが24%以上の数値であることと比較すると、より良い環境にあるかのように見える。この数値は正しいのだろうか?また仮に正しいのであれば、どうした理由に基づくのだろうか?

■一人当たりベッド数では有数のベトナム

前述の感染症・栄養失調の割合一つだけを取り出して、ベトナムの医療環境が他のASEAN主要国と比較して良いとは言えないだろう。ただ、ベトナムの医療はそれなりに検討しているのではと思われるデータは他にもある。

図表6はASEAN主要国における国民1,000人当たりのベッド数だ。この数値を見ると、ベトナムの国民あたりのベッド数は、一人当たりGDPがより高いシンガポール、マレーシア、タイよりも多く、フィリピン、インドネシアよりも2倍以上多い。

また、ベトナムの特徴として挙げられるのが、公立病院の割合の高さだ。図表7は上記のASEAN主要国における病院数と公立病院の割合を比較したものだ。ベトナムは公立病院の割合が85%と、他のASEAN諸国と比較してもより高い水準にある。社会主義の国であることも、その要因に挙げられるだろう。

■ベトナムは実は医療優良国?

こうして、ASEAN諸国と比較してみてくると、ベトナムは国民あたりのベッド数も多く、感染症の割合も低く、平均寿命も長い、いわば医療の優等生のように見えてくる。ただ、今まで見てきたのは、あくまで表面上の統計数値の比較だ。実際の医療の状況は、医療現場に行かないと見えてこない。次回以降では、ベトナムの医療の現状について、より実際の現場の視点で見ていきたい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: ベトナム日本
関連業種: 医療・医薬品マクロ・統計・その他経済

その他記事

すべての文頭を開く

テイクオフ:近所のヨガスタジオに通…(10/16)

18年度外国投資は3割増 開放政策で、シンガポールけん引(10/16)

【予定】16日 9月の訪日外国人旅行者数(10/16)

【躍動する地方都市】クアンニン、外国投資が拡大 「日本企業を第一に」=省投資局(10/16)

手技整体「平松式」が海外1号店 健康維持に貢献、人材育成も視野(10/16)

新自動車政策、年内発表へ 恩典明文化されるか焦点(10/16)

曺氏辞任で政権運営厳しく 日韓関係の展望、木村教授に聞く(10/16)

【人事】駐韓国大使に冨田浩司氏ほか(10/16)

トヨタ、カローラアルティス新型モデル発売(10/16)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン