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韓国民主主義の危機? 朴槿恵リーダーシップを問う

韓国の朴槿恵政権が「陰の実力者」による国政介入疑惑に揺れている。韓国メディアは、大統領の長年の友人で大統領府の内部文書を受け取っていた崔順実氏を激しく批判。ソウル市内では、朴大統領の退陣を求める集会が開かれ、政権の支持率は1桁台にまで急落した。一体、韓国メディアと韓国国民は何に強い怒りを感じているのか?韓国政治の専門家、新潟県立大大学院国際地域学研究科の浅羽祐樹教授は「崔順実スキャンダルはあくまでも朴大統領のリーダーシップの問題」とした上で、「自分たちが勝ち取った民主主義のレベルが実はこの程度だったのかという、怒りと虚無感がない交ぜになっている韓国人の心情が行動として現れた」と分析した。

――韓国メディアは連日、崔順実氏による国政介入疑惑を紙面や番組のトップで報道しています。韓国国民や韓国メディアは一体何に、強い怒りを感じているのでしょうか?

韓国国民は、民主主義の根幹が一夜にして足元から崩れたことに対する驚き、失望、怒り、虚無感がない交ぜになった心境だ。組織の中で専門スタッフの補佐を受けて、政策を立案し、執行する反面、国民から業績に基づいて評価を受けるというのが民主主義時代におけるリーダーシップの本来のあり方である。にもかかわらず、自分たちが選んだ大統領自身が、このメカニズムを蔑ろにしていたことが分かったため、思いが行動につながった。

朴大統領は青瓦台(大統領府)や内閣の陣容を刷新して難局に対処しようとしているが、問題の核心は朴大統領というリーダー自身にある。スタッフを代えただけでは、朴大統領のリーダーシップのスタイルが変わったとは受け止められないだろう。朴大統領は「非正常の正常化」を政権運営のスローガンに掲げていたが、「朴槿恵」というリーダーこそが「非正常」だったというのは皮肉であり、韓国民主主義の悲劇である。

――朴大統領は10月24日の国会演説で任期内の憲法改正に意欲を示しました。今回の事件との相関関係はあるとお考えですか?

今となって見れば、「崔順実のタブレット」という決定打が出る前、状況証拠が次々と明るみに出ていた段階で、朴大統領がスキャンダルから国民の関心をそらそうとしたのは間違いないだろう。

ただ、それとは別に、朴大統領が提起した「1期5年の大統領制」の見直しは一考に値する。再選が禁止されている現行の1987年憲法体制下では、国民が内政や外交の仕事を委任した大統領にアカウンタビリティー(説明責任)を問いにくいためだ。朴政権の支持率は1桁台にまで落ちた。日本のような議院内閣制ならば、内閣が総辞職せざるをえない状況である。再選という、国民の審判を仰ぐ機会がない制度的な環境も、国政介入疑惑を招いた要因の一つとして挙げられるだろう。

――韓国政界では「挙国一致内閣」の構想が上がっていましたが。

朴大統領は結局、盧武鉉政権期の大統領府高官だった人物を首相に指名したが、今回も誰とも相談せずに決めた。これでは「挙国一致」にはならず、リーダーシップのスタイルは相変わらずのようだ。国会で過半数を占めている野党は早速反発している。セヌリ党からも、これではとても事態を収拾できないという諦めの声も出ている状況だ。

――最近は日韓関係が以前と比べて安定しているとの声を日本人駐在員の間でもよく聞きます。昨年末に結んだ慰安婦問題での日韓合意によるものだと思いますが、今回の事態は今後の日韓関係に対してどのような影響を与えるとお考えでしょうか?

残念ながら、最終的に政治決断にかけるしかない少女像の移転は、その可能性も完全に飛んだ。挙国一致内閣を拒否した大統領は、まだ「外交安保」分野は手放さないという姿勢だが、政権のレームダック(死に体)化はすでに決定的で、何か新しいことをすることは不可能な状況である。日韓でインテリジェンス(戦略判断につながる情報)を共有するために必要な軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結を進める政治的資源はもう残っていない。12月に東京で日中韓首脳会談が開催される予定だが、朴大統領の就任後初来日を機に、新しい日韓関係の構築を目指すシナリオの実現は深い「霧の中」だ。

――来年12月に行われる大統領選への影響について。

もし朴大統領が辞任したり、国会による弾劾追訴が憲法裁判所でも認められたりした場合、大統領選挙は前倒しとなる。今のところ、その可能性はまだ高くないが、「次」を目指す政治プレーヤーたちは万が一のシナリオを含めて様々な計算をしている。

衆目の一致する有力候補がいないセヌリ党は一層、厳しい立場に追い込まれることは間違いない。「親朴」執行部の刷新に加えて、朴大統領の離党が「再出発」に向けたスタートラインになる。

野党の「ともに民主党」と「国民の党」には、ある意味で千載一遇のチャンスがめぐってきた。朴大統領と与党に「失敗の烙印」を押したいところだ。しかし、党利党略に走りすぎると逆に国民の反発を買う恐れがある。「ともに民主党」の有力候補である文在寅氏は、韓国民主主義が直面しているリーダーシップの危機にいかに対処するかで、「政権担当能力」を厳しく検証されることになる。

――日本人駐在員へのメッセージを一言。

セヌリ党代表は朴大統領の謝罪後もなお、「わたしもスピーチを知人友人に見てもらっている。なにが悪いのか」と庇い失笑を買ったが、直言してくれる正しいスタッフを周囲に置くことができるのも、リーダーの力量である。朴槿恵リーダーシップは、組織運営の典型的な失敗事例として「教訓」となる。(聞き手 坂部哲生)

<プロフィル>

浅羽祐樹:新潟県立大大学院国際地域学研究科教授。北韓大学院大学校(韓国)招聘(しょうへい)教授。早稲田大学韓国学研究所招聘研究員。専門は、比較政治学・国際関係論。1976年、大阪生まれ。立命館大学国際関係学部卒業。ソウル大学校社会科学大学政治学科博士課程終了。Ph.D(政治学)。九州大学韓国研究センター講師(研究機関研究員)、山口県立大学国際文化学部准教授などを経て現職。著書に『「憲法改正」の比較政治学』(弘文堂, 2016年)、『日韓関係史 1965-2015』(東京大学出版会, 2015年)などがある。 https://twitter.com/yukiasaba


関連国・地域: 韓国
関連業種: マクロ・統計・その他経済政治

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