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【アジアで会う】とうふ工房 卯の花チェンマイ 山口薫さん 第389回 こだわりの豆腐を世界に広げたい(タイ)

やまぐち・かおる 1964年山形市生まれ。山形大学教育学部卒。タイ北部の古都チェンマイで豆腐などの製造・販売を手掛ける「卯の花チェンマイ」を運営している。タイ人の妻、大学生の長男、長女と4人暮らし。週に一度の休日である土曜日は専らゴルフを楽しんでいる。

大学卒業後、不動産開発を手掛ける企業に入社した。スキーリゾートの開発に携わりたいとの希望からだったが、折悪く日本のバブル経済がはじけ、会社の経営は急速に悪化。「これからは日本のリゾート開発は難しくなる」と見越して、けさや法衣などを扱う専門アパレルメーカーに転職した。転職早々の山口さんへの命令は、「何でもいいからタイで新規事業を立ち上げろ」というものだった。それまで海外で働くことは考えもしなかった山口さん。「何でもいいからと言われても」と戸惑いながら、2~3年後には日本に戻るつもりで赴任した。

暗中模索の中、始めたのは少数民族を使った縫製の請負事業。タイ北部の山岳民族には、古くから受け継がれてきた手工芸品の技術があり、手先の器用な女性が多い。スーツやワンピースドレスなど向けの細緻な刺繍も難なくこなす。加えて、当時の日給は160バーツ(約600円)と破格の安さだった。丁寧な仕上げとコストの低さから、日本の商社経由で国際的な著名ブランドの仕事も請け負うことができた。一時は最大120人ほどを使うほどの規模に成長した。

しかし、タイ政府が2013年、法定最低賃金を全国一律1日300バーツにしたことで風向きが変わった。賃金が2倍に上昇したことで、価格競争力は一気に低下し、それまでの付加価値の高い請負は激減した。

■アパレル駐在員から豆腐作りに転身

そんな折に出会ったのが、「とうふ工房 卯の花」の社長だった。市場や大豆の仕入れ先の調査でチェンマイなどを視察に来た際に山口さんがアテンドした。「一目見てピンときた」という社長に、熱心に豆腐作りに誘われた。山口さんは50歳を過ぎて未経験の仕事を始めることに不安を感じたが、「自分が豆腐作りを始めたのも50歳過ぎ。君なら絶対にできる」と熱心に口説かれ、アパレルから豆腐の世界に転身することになった。

後になって分かったのは、卯の花の社長が豆腐づくりの修行を行ったのが、山口さんの出身地である山形市だったことだ。「何か不思議な縁に導かれて豆腐づくりの世界に入った気がする」と話す。

■徹底した品質管理で信頼を確保

日本人が数多く暮らすタイということもあり、日本品質の本格的な豆腐は人気が高まった。現在、「卯の花」ブランドの豆腐は、首都バンコクを中心に、主に在留日本人が多く利用するスーパーマーケットなどで販売しているほか、日本食店などに納めている。スーパーでは、全店頭で毎日、全商品を入れ替え、工場から出荷当日の商品だけが店頭に並ぶようにしている。無添加・成分無調整、加工後の熱処理なしの生豆腐・生豆乳・生納豆を提供し、全商品「生」の風味、味、食感にこだわった商品だ。

熱帯のタイで日本と同様の質の高い豆腐を提供するには、原料選びから製造、物流、店舗での陳列まであらゆる場面で管理徹底が重要だ。一方で、新鮮さを売りにしているだけに、工場のあるバンコク以外への販路拡大が難しかった。

バンコクに次いで、日本人が多く暮らすチェンマイで販路を拡大するため、「卯の花」ブランドをのれん分けする形で、山口さんが「卯の花チェンマイ」の運営を始めたのが1年前。衛生管理を徹底することで消費期限を延ばそうと、最新の消毒設備も導入した。しかし、折悪く新型コロナウイルス感染症の影響で、主な納入先である日本食店の営業が制限される中、我慢の時期が続いた。

始めた当初ということもあり、人は雇わず、妻のほか、新型コロナの影響で自宅学習中の長男と長女に手伝ってもらう形で製造・販売を続けてきた。飲食店の営業が再開された現在、新たな豆腐ブランドの立ち上げを構想している。販路もチェンマイ以外に拡大するため、東奔西走中だ。

1996年から26年にわたってタイに暮らしている山口さん。不思議な縁で、タイで豆腐作りを始めることになったが、今はその奥深さに魅せられている。定年を間近に控えた同世代の友人などからは古都チェンマイでの豆腐作りをうらやむ声も聞くという。ブータンやフランスの関係者からは「健康食である豆腐の作り方をぜひ伝授してほしい」と依頼も受けている。新ブランドの運営が軌道に乗った暁には、タイ以外の国・地域に豆腐作りを広げていきたいと考えている。(タイ版編集・須賀毅)


関連国・地域: タイ日本
関連業種: 食品・飲料社会・事件

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