香港の新界地区・葵涌の集合住宅で、100人を超える新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した。政府は22日までに集合住宅の複数の棟を封鎖。数千人の居住者に5日間の外出禁止を強いる。政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、感染力の強い変異株の流入で「過去2年間で実施したことがない厳しい措置をとる」と説明。「オミクロン株」による感染爆発への懸念が高まっている。
林鄭氏は22日、食品・衛生局など関係当局とともに会見を開き、クラスターの状況と一連の措置を発表した。
クラスターが発生したのは、16棟から成り約3万5,000人が居住する葵涌の公営住宅「葵涌邨」。22日の午後時点で、16棟のうちの3棟で105人が感染確定または陽性となった。内訳は「逸葵楼」が96人、「映葵楼」が8人、「暁葵楼」が1人。政府は複数の感染が確認された2棟の封鎖を決めた。
2,700人が住む逸葵楼は21日から、2,000人超が住む映葵楼は22日から封鎖となった。期間はそれぞれ5日間。当局は250人を超える人員を配置し、住人に1日3回の食事や日用品、医薬品などを支給する。
5日間の封鎖を行わない14棟でも対策をとる。4棟では住人のPCR検査の結果が分かるまで、短時間の封鎖を実施。残り10棟の住人も一定期間、PCR検査を数回受けることになった。今後、封鎖となる棟が増える可能性もある。
■清掃員から170人に感染広まる
今回のクラスターは、16日の新規感染者に計上されたパキスタン籍の女性の感染が発端となった。女性は昨年12月に香港に到着し、21日間の強制検疫(隔離)中にホテル内でオミクロン株に感染。感染が判明したのは自宅に戻ってから4日後で、家族らに感染が広まった。
林鄭氏によると、パキスタン籍女性から感染したうちの1人が葵涌邨・逸葵楼のごみ置き場を訪れ、逸葵楼のごみ回収員が感染したことで「感染爆発が起こった」。ごみ回収員は各階でごみを回収しており、逸葵楼ではごみ置き場やエレベーターのボタンからも陽性反応が出た。食品・衛生局傘下の衛生署衛生防護センター(CHP)は、住人がごみを捨てる際などにウイルスに触れ、ウイルスが口、鼻、目を通じて体内に入り、雪だるま式に感染者が増えたと説明している。
逸葵楼の感染者・陽性反応者は20日時点で9人だったが、翌21日には20人に倍増。22日には映葵楼と暁葵楼を含め105人と5倍に膨れ上がり、23日夕の時点で170人を超える感染者・陽性反応者が確認された。
ごみ回収員の感染が分かった後、別の清掃員1人の感染も判明。ごみ回収員と清掃員は、それぞれ葵涌邨の映葵楼と暁葵楼に住んでいる。
政府は葵涌邨で働く40人余りの清掃員・ごみ回収員を、大嶼山(ランタオ島)の竹コウ湾(ペニーズベイ、コウ=たけかんむりに高)にある検疫センターに移送した。
■営業制限は再延長濃厚
香港では今年に入ってからオミクロン株のクラスターが相次ぎ、別の変異株「デルタ株」の感染も確認されたことから、政府は危機感を募らせている。林鄭氏は22日の会見で、2月3日までとしている飲食業などへの営業制限について「2月4日から大幅に緩和できる可能性は薄い」とコメントした。
ただ、現行の制限を全面的に維持するのではなく、ワクチン接種済みの人に出入りや利用を認める「ワクチンバブル」を導入して一部緩和するなど、各業界の負担や市民のストレスが軽減できないか、検討していく考えを示した。
■ゼロコロナ政策は継続
22日の会見では、記者から「ゼロコロナ政策」の効果や継続を疑問視する声も上がった。
これに対し林鄭氏は、香港のゼロコロナ政策は「感染が分かるたびに抑え込みに動く姿勢」であると説明。完全な感染ゼロではなく、散発的な感染発生に対処する能力を強化し、できるだけ早期に変異株のまん延を抑え込むことが、政府の重要な任務だとの認識を示した。
その上で、香港はワクチン接種率の低さなどから「ウィズコロナ政策」にかじを切れる段階ではないと語り、ゼロコロナ政策を続ける方針を示した。
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