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【NNA特集】コロナ下の企業マネジメント (上) NNA業界座談会第5弾

世界的に新型コロナウイルスへの対策がめまぐるしく変化する中で、オーストラリアとニュージーランド(NZ)で展開する多くの日本企業が、試行錯誤のマネジメントを続けている。在宅勤務が定着する中で、どこまで従業員の権利を認め、従業員のパフォーマンスをどう管理するのか。NNA豪州はこのほど、オーストラリア4州とNZの5カ所で展開する主要日本企業5社(丸紅オーストラリア・日本製紙・INPEX・タダノオセアニア・マキタNZ)の代表に集まってもらい、コロナ下でのマネジメントについて自由に語ってもらった。【進行役・西原哲也(NNA豪州)】

【NNA・西原】最初に会社と自己紹介からお願いします。

【丸紅・小林(NSW州)】丸紅の小林と申します。私はオーストラリア2回目でして、2018年3月に日本に帰任したのですが、去年のまさにロックダウン(都市封鎖)中に再び赴任してきました。

丸紅オーストラリアの小林伸一社長(本社常務執行役員)

丸紅オーストラリアの小林伸一社長(本社常務執行役員)

丸紅は事業会社が25社ありまして、駐在員35人、全体ですと約100人おります。鉱山業やアルミといったビジネスが多いのですが小売りもありまして、ニューサウスウェールズ(NSW)州レンジャーバレーで牛肉も生産していたり、一般機械販売や太陽光パネルの販売もやっています。コロナ初期の半年はかなり入金が滞ったりしましたが、その後半年で再び成長状態になりました。

NSW州のコロナ対応を、私は非常に評価しています。オーストラリアは世界でも一番きっちりやっている国の一つですが、NSW州のやり方はビジネスを大事にする一方で、規制もしっかりやっていて、一番管理ができていて感謝していますね。

【日本製紙・野津(VIC州)】日本製紙の野津と申します。私は14年8月に来まして、駐在ではやや長い8年目に間もなく入ります。日本製紙はオーストラリアン・ペーパーという製紙会社を09年に買収しまして、これまではコピー用紙の「Reflex」とかオフィス文房具や封筒、段ボール原紙等を製造しておりました。

昨年4月末にオローラ(ORORA)というオーストラリア証券取引所(ASX)上場会社から紙パッケージ事業を買収しまして、紙からパッケージングまで一貫してつなぐ紙総合パッケージング事業にかじを切る形で、新しくオパールというグループを発足した状況です。そのため、現在はオーストラリアとNZ合わせて従業員全体で約4,500人、駐在員は16人おります。製造拠点は主力の紙、段ボールの他、日用消費財パッケージ、ファストフードで使われる持ち帰り容器、封筒文房具なども合わせると約30拠点あります。

ビクトリア(VIC)州メルボルンで4回目のロックダウンに入った時にはさすがにへこみました。一部州民の間では不満や抗議活動はありますが、それでもロックダウンに対する耐性ができていて、比較的落ち着いて対処している感じです。

ビジネスができなくなっている人もいますが、コロナを抑え込むことにフォーカスしていますから、その方向性が明確に見えているとも言えますね。

INPEXの大川人史・パース事務所長(本社常務執行役員)

INPEXの大川人史・パース事務所長(本社常務執行役員)

【INPEX・大川(WA州)】INPEXの大川と申します。我々はオーストラリアで液化天然ガス(LNG)開発・生産を行っており、今現在日本のエネルギー需要の約10%のエネルギーを供給しています。従業員は作業現場がオフショアとオンショアに分かれており、コロナが始まる直前までに約5,500人のスタッフを抱えていました。コロナ禍では、彼らの安全を確保することが、最大の課題でした。

私自身はこの業界に入って約35年で、もともと98年に西オーストラリア(WA)州パースに来てINPEXの事務所を立ち上げました。いったん02年に東京に戻るんですが、05年に再び戻ってまいりまして、通算でパースに約20年おります。コロナによって事業環境が大きく変わりました。

というのも、コロナが始まって1カ月後ぐらいにコロナの影響により、原油相場がクラッシュしました。価格暴落のひどい状況の中でコロナの感染拡大を防ぐために作業現場の人員を削減しなければいけない。しかも生産は維持しなければいけない、という極めて困難な課題に直面しました。

コスト削減に迫られて、我々の業界他社は大幅に人員を切ったのですが、我が社はひとりも解雇はしませんでした。本社とコスト削減に関して厳しいやり取りがありましたが、従業員の生活を守ることを最優先して、人員削減によるコスト削減は先送りしました。ただこの結果、INPEXは人を大切にする会社として評価されることになりました。

現場の作業員は3分の1に減らしたのですが、2週間隔離させてから乗船させるというローテーションを組んだので、バックアップの人員も合わせると結局相当数の人員を確保しなければならなかった。連邦政府の給与補助金「ジョブキーパー」も全く使いませんでした。本当に耐え忍んだ感じです(苦笑)。

【タダノ・楠本(QLD州)】タダノの楠本と申します。私がオーストラリアに来たのは18年1月ですが、学生時代に1年間ワーキングホリデーで来まして、オーストラリア全土をサーフボードを担ぎながら旅行しました。いつかこの国に帰ってきたいと思っていたので、その夢がかなうことになりました。

弊社は四国の香川県に本社があり、建設用移動式クレーンや高所作業車を製造、販売しております。オーストラリアではクイーンズランド(QLD)州ブリスベンに本社がありまして、パースやシドニー、メルボルンと4カ所に拠点があり、約85人の従業員がおります。

我々は建設用移動式クレーンを主に日本、ドイツ、米国で生産して、NZやパプアニューギニアも含めてオセアニア地域で輸入して販売とサービスをしています。

コロナ初期の3~5月は売り上げもスローになったのですが、その後政府がインフラプロジェクトを追加支援しましたし、資源価格も回復したので、弊社の製品需要は昨年に比べると今年は非常に高まっている状況です。

【マキタ・芹川(NZオークランド)】マキタ・NZの芹川と申します。私は08年から15年までマキタの米国法人にいまして、それから直接オークランドに出向という形で来ました。弊社は、建築業界の電動工具の販売が主要業務です。

NZは良くも悪くもコロナには厳しいですね。国民も支持している人が多いと思います。プライベートは厳しくても構いませんが、ビジネスや出張もプライベートと一緒に国境封鎖しているので、そこまでしなくていいのではと思います。特にレストランや小売業の首を絞めすぎだという声はありますね。

■在宅勤務の課題は?

【西原】皆さん、コロナ禍のマネジメントで課題になったのはどんな点でしょうか?

【小林】我が社の場合、一番課題だったのはIT設備を整えることでした。ちょうど社内にプロ並みのIT専門家がいたおかげで、個人のiPadなどとプリンターやスキャナーを接続するインフラを比較的早く整えて、100%の在宅勤務を実現できました。

ただNSW州が比較的経済を優先していたので、出社率を10月の3分の1から徐々に上げました。今年1月からは3分の2体制でやっています。逆に言えば在宅でもできるということ、商社の投資管理や決済とか、在宅でも一部はできることが分かりました。永久的ではないですが、特別な場合を除いて、今後も3分の1は在宅を認めようという方針ですね。両親の面倒をみたりとか、チャイルドケアとかにコストがかかるので権利を認めてほしいという需要も多かったです。各社員が事前申告して、バランスが良く回るような形で月次ごとに管理しています。

【西原】丸紅さんはいろいろなビジネスがありますが、在宅勤務で問題はありませんでしたか?

【小林】私自身は営業畑が長いもので、実は新規のビジネス委託や新しい事業開拓を、在宅でできるのかという不安を持っているのは確かです。

国内出張は簡単なようで難しくて、去年赴任して以来8回国内出張しましたが、そのうち2回が他州のロックダウンとぶつかってしまいました(苦笑)。そのため営業マンも州をまたぐことに慎重になっています。ただし、本当にややこしい話や、新規ビジネスの場合はウェブで本当にいいのかという葛藤はあります。

ジョブキーパーについては、消費者と対応する事業会社はお世話になりましたが、丸紅豪州本社や鉱山会社などは使わずに済んだのが幸いです。

【野津】弊社の紙やパッケージ製品は、食品や医薬品を運ぶための梱包(こんぽう)物として必需産業とされたので、ジョブキーパーなどにはお世話にならずに済みました。ただし、コロナは非常にインパクトがありました。特にロックダウンによる消費者のパニック買いです。スーパーの陳列棚から商品が瞬く間に消えたのは記憶に新しいと思います。このパニック買いにより、各メーカーの生産計画も狂ってしまったことで段ボールのオーダーが大きく上下動し、弊社の生産計画にも影響するなど混乱がありましたし、納期対応にも苦心しました。ダイレクトに消費者の行動が、すべて跳ね返ってきてしまったのです。

オパール(日本製紙)の野津誠也・取締役(CEO戦略室執行役員)

オパール(日本製紙)の野津誠也・取締役(CEO戦略室執行役員)

毎週、コロナ対策・連絡会をやり、どこでアウトブレイクやロックダウンがあって、どうなっているのかを逐一確認し、対策を決めていく。これは今も週次で継続しています。

もう一つ。ちょうどコロナが蔓延(まんえん)し始めた時期に買収を完了し、新組織でスタートしたばかりの混乱期にロックダウンが来た、というタイミングでもありました。買収で切り出した事業の経営陣と、我々の経営陣をドッキングさせ、きちっとした経営体制を整える必要がありましたが、ワークショップやチームビルディング、飲み会など、直接会って共に時間過ごしながら信頼関係を構築して経営陣を一体化させていく、という一連の買収プロセスが思うように進められなかったのです。

コロナのような緊急事態の際に、経営陣がどう対処するかは、あいつに任せておけばOKだ、という信頼関係が確立されればいいのですが、それがほとんどない状態からスタートせざるを得なかったのです。

そうした環境下でパニック買いをはじめ、コロナ禍のイレギュラーな状況に対応していくのが非常に難しく、苦労は相当ありました。そうした中でもなんとか信頼関係は構築できるものだな、という感慨もありましたが、それでもやはり、心理面でがっちり押さえたマネジメントにならない部分があるのかもしれない、という懸念はありましたね。

【西原】在宅勤務はどうしていますか。

【野津】必需産業ということで、工場の生産現場は基本的に出勤しますが、スタッフは州の規制に準じて、在宅勤務を継続してきました。コロナ感染者数が抑えられている現在も在宅勤務を求める声は強くなっているので、その制度を新会社として整えて出そうと準備しているところです。

【大川】「ニューノーマル」という言葉が使われていますが、当初から明らかに在宅勤務は相当数残るなと思いましたので、直ちにオフィススペースを3割カットしました。

我々も100%在宅勤務から徐々に戻したのですが、今に至っても結局最大7割という形で、各部門が出社人数を制限しています。それでもまだ5割も戻っていないですね。在宅をエンジョイしているようで、特に月曜と金曜の出勤率が極めて悪い(苦笑)。

そんな状況で本当にパフォーマンスが維持できるのだろうかと疑問に思い、各部門長には、パフォーマンス管理をしっかりやれと言っています。今の状況で生産性が上がっているとは思えなかったのです。しかし顕著に落ちている、とも言えないので、パフォーマンス管理をどうするかは重大な課題ですね。

■ひっ迫する雇用市場

【小林】INPEXさんは一番厳しい時も人員削減しなかったのは素晴らしいですね。今WA州では人材不足で大変です。トラック運転手や鉄道運転手など、労働者の奪い合いです。おそらくINPEXさんが一番成功されているでしょう。弊社がWA州で出資するロイヒルという鉱山会社では1,500人従業員がいますが、300人が州外の人材なのです。現在は、資源バブルの時以上に難しい状況になっていて非常に苦労していますので、INPEXのスタッフは、長期的視野では非常に戦力になるのではとうらやましいですね。

【大川】州間の移動が難しくなるだろうと思い、FIFO(州外からの臨時労働者)を事前にオペレーション施設のある北部準州およびWA州に可能な限り移動させました。これは後に組合ともめたのですが、それでも州の中で確保しない限り作業が滞ってしまう危機感がありました。

ただし、WA州は安全なので、州内に他州から人が流れて来ており、駐在員の住宅確保が難しくなってきています。また、マイニングを含む資源関連事業が回復基調にあり、人材確保は難しい状況になって来ました。日本人駐在員が100人強いるのですが、駐在員の家賃が上がっていて、その予算を変更しなければいけないほどです。

タダノオセアニアの楠本雄宏・取締役

タダノオセアニアの楠本雄宏・取締役

【楠本】弊社でも、特にWA州での人材確保が喫緊の課題でして、弊社も解雇は一切しておらず、むしろ増やす方向で進めてはいるのですが増やせていません。マイニング関係の人件費が高騰しているのも一因です。

今働いている従業員の給料と市場の給料との中で板挟みにあいながら、給料を一気に上げることはできず、かといって出さないと来てくれないので、オペレーションの難しさは感じていますね。

パースにもオフィスがあるのですが、弊社で採用したい人材対象が、マイニングで働いている方々の職種とかぶってしまい採用が大変で、なかなかうまくいきませんね。

■高騰する給与水準

【西原】WA州では給与水準もかなり高まっているのですね。

【大川】我々の業界の給与水準は極めて高く、パースとノルウェーで常に世界一を争って来ました。そういう世界一の給与水準の中で人を確保していかなければならない事情がありました。ただし、コロナ禍で同業他社が結構人を解雇したので給与水準はかなり下がり、良い人材を安く確保できた時期でもあり、逆にピンチがチャンスになったこともありました。

【芹川】パースでは、例えば倉庫の一般的ピッカー労働者の給料はどれくらいでしょうか?

【楠本】調査機関が毎年、州別に給与の基準を出しているのですが、それによると大体5万~6万豪ドル(約420万~500万円)くらいですね。でもパースはなぜか、7万~8万豪ドルくらいです。

【大川】残念ながら我々の業界は最低賃金をはるかに上回る世界で、私の部下が私の給料より高く、これに慣れるのに時間がかかりました。驚かれるかもしれませんが、弊社従業員の平均給料は20万~30万豪ドルです。もう異常ですよね。

【一同】(苦笑)

【芹川】NZもオーストラリアも同じだと思いますが、今、皆が物を欲しがるのに物がないという物不足で、結果として価格が上がる状況が沸き起こっています。マキタの電動工具を扱う特に建設業では、木材や工具需要の高まりはあと1年は続くと思っています。コロナの前後で変わった点として、今まで分からなかった、物のありがたさに気づかされたと私は見ています。

【楠本】それは弊社のクレーン業界でも起きていますね。製造拠点が2カ所あるドイツからクレーンを仕入れているのですが、ドイツでもロックダウンや規制でサプライヤーからの納期遅延が発生し、生産計画がなかなか組めない中で、納期が読めない状況が発生しています。その一方で、オーストラリアの資源やインフラのプロジェクトが活発で、高まる需要に十分に応えられず、予測発注も非常に難しい状況ですね。資源国なので、需要が減速する時は早いという心配もありますが、人口も増えているし、政府も景気対策を行うので、昔のように需要が急減することはないだろうとは思いますがどう思われますか?

マキタNZの芹川学・統括責任者

マキタNZの芹川学・統括責任者

【小林】今回の連邦予算では、雇用対策を一番中心に置いてますよね。なので、苦しい業界を支援していますし、例えばインフラや鉄道、シドニー第2空港など雇用を生むプロジェクトは今後10年にわたり政府が発注すると思いますから、大丈夫ではないかと楽観しています。

【大川】やはり雇用ですよね。雇用確保のために、ビジネス機会を作っていく動きが活発です。そこで注目しているのは、気候変動予算が急に増えている点です。

オーストラリアも2050年には炭素排出ゼロと言っていますから、具体的なプロジェクトを立ち上げなければならない状況になってきています。今回の予算では、特にその予算が大きく付いた印象です。事業になると雇用につながるからです。ただ事業化するためには国の補助が相当なければいけない。

二酸化炭素を地下に埋める「炭素回収貯留事業」だと、ノルウェーでは、一つのプロジェクトだけで約70%の補助金を出している例もある。そのくらい巨額投資が必要になります。

そうした事業を義務付けられると、我々のプロジェクトの試算が完全に狂ってしまう。オーストラリアはノルウェーのように本気で事業にコミットできるのか。キャンベラに先週行ってきたのですが、担当大臣と話をしても具体的なアイデアを持っていないのでは、と心配ではありますね。

◇【敬称略・続きは明日7日付で掲載します】


関連国・地域: オーストラリアニュージーランド日本
関連業種: 医療・医薬品天然資源小売り・卸売りマクロ・統計・その他経済雇用・労務社会・事件

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