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【アジアで会う】成瀬貫さん 琉球大学准教授 第353回 不思議な新種のカニ発見(シンガポール)

なるせ・とおる 1975年生まれ。愛知県瀬戸市出身。カニの分類を専門とする生物学者。琉球大学理学部で博士後期課程を修了後、2006年~08年末までシンガポール国立大学(NUS)の研究施設で博士研究員として過ごす。09年に沖縄に拠点を移し、15年から准教授を務める。年に1~2回はシンガポールを訪れ、シンガポール国立大学の仲間らと研究を行っている。趣味は釣り。今年6月に、世界初の発見となる「生殖器が左右非相称のカニ」の新種について論文を公表したばかり。

(本人提供、撮影:Tan Heok Hui)

(本人提供、撮影:Tan Heok Hui)

カニの魅力はと尋ねると、はにかみ笑いとともに「形がかっこいいですよね」との答えが返ってくる。カニの造形や色の美しさに成瀬さんが魅了されたのは大学院生の時。それ以来、約20年にわたりカニ一筋で研究を重ねてきた。専門は生物学の中でも基礎中の基礎に当たる「分類」だ。このカニの種類は? 既に発見、命名されているのか? 全くの新種なのか? といった疑問に取り組んでいる。

昆虫と同様に種類が多く、さらに研究者が少ないカニには、まだまだ多くの新種が発見されている。成瀬さんがこれまでに発見した新種のカニは100種類以上。それらに名前を付けてきた。

そんな成瀬さんは今年6月、沖縄の海で全くの新属新種のカニを発見したと発表した。世界中に7,800種以上確認されているカニだが、そのどれにもない「生殖器が左右非相称」という特徴を持つ不思議なカニだ。シンガポール国立大学のピーター・ウン教授、かんきょう社(沖縄県浦添市)の研究者との共同研究で見つけた新種という。

成瀬さんらはこの新種に、沖縄の言葉にちなんで「マブイガニ」と命名した。通常カニは、雌雄ともに左右に1つずつ対になった生殖器または生殖孔を持つ。マブイガニは成長しても1センチメートルにも満たない小さなカニで、オスの生殖器は左側だけ、メスの生殖孔は右側だけが発達した偏った構造をしている。他のカニのように「対」の生殖器ではない。

成瀬さんらが世界で初めて発見した左右非相称の生殖器を持つ「マブイガニ」

成瀬さんらが世界で初めて発見した左右非相称の生殖器を持つ「マブイガニ」

成瀬さんらがマブイガニに初めて出会ったのは2010年のこと。それ以来、このカニがどのグループのカニに近いのか、なぜ生殖器が非相称なのかなどを調査し続けてきたが、現時点では理由は全くわからないという。11年越しとなったが、全くの新種だと確信が持てたことから、マブイガニの命名と公表にいたった。沖縄では驚いた際に身体から魂(マブイ)が落ちるとされる。このカニの発見がまさに驚きだったことに由来している。

新型コロナウイルスの流行でこの2年は滞っているものの、年に1~2回はシンガポールを訪れている。世界中から研究者が集まり情報交換がしやすいほか、自身が特に専門とする沖縄周辺の海のカニには、東南アジアを起点として広がっている種類が多いためだ。

成瀬さんの研究人生において、シンガポールは特別な存在だ。博士研究員として国立大に在籍していた約3年間は、朝から晩まで研究に没頭し、充実した時間を過ごした。当時は収入が良いとはいいがたく、公営住宅の小部屋を間借りし、質素な暮らしをしていた。ホーカー(屋台)でポークヌードルや肉骨茶(バクテー)を食べ、大家に禁止される中、布団の中でこっそりとプルタブを開けた缶ビールが懐かしいという。

シンガポールから、マレーシアやフィリピンなど他国でのフィールドワークに出かけた。時には欧州の博物館まで出向き、植民地時代に東南アジアで採取されたさまざまな標本を見分するのも成瀬さんの研究の一環だ。

「研究が基礎的過ぎて、なかなか職に就けず大変だった」と振り返るが、現在は沖縄の琉球大学を本拠に研究を続けている。夢は琉球列島のカニを網羅した図鑑を作ることと話す成瀬さんの目は、自身が愛する沖縄・東南アジアの海と同様にきらきらと輝いている。(シンガポール&ASEAN版編集・鈴木あかね)


関連国・地域: シンガポール
関連業種: 社会・事件

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