メルボルン総領事館が所在するビクトリア(VIC)州では、褐炭水素サプライチェーン実証プロジェクト(略称:HESC)が、年内には実際に日本へ向けた液化水素の積み出しを行う予定としており、正に大きなマイルストーンを迎えようとしています。
同プロジェクトは、褐炭から水素を製造し液化した上で船積みし、ビクトリア州から日本(神戸)へ向けて海上輸送することが可能であるか実証を行うプロジェクトです。
日本企業とオーストラリア企業の協力関係に加え日豪(州及び連邦)両政府からの支援の下で事業は進行しており、昨年11月に行われた菅総理大臣とモリソン首相との日豪首脳共同声明の中でもその進捗(しんちょく)について言及されています。
具体的には、昨年後半には褐炭からの水素製造施設及び水素の液化施設が完成し、本年3月にはラトローブの褐炭炭鉱の近傍の会場で施設の完成披露式典が、山上在オーストラリア日本大使、島田在メルボルン総領事、テイラー連邦エネルギー担当相、地元選出のチェスター連邦退役軍人相、パラス州財務相などの立ち合いの下で開催されました。実際の水素製造と液化試験は現在も継続的に行われており、純度の非常に高い水素を安定的に製造することに力を注いでいます。
褐炭ガス化・水素製造施設 ビクトリア州ラトローブバレーのロイヤン炭鉱のすぐそばに実証試験施設を設置し、炭鉱の褐炭をガス化、水素ガスを製造しています。この水素ガスはヘイスティングスにある水素液化施設向けの輸送トレーラーに充てん、輸送される予定です。
水素を海上輸送する世界初の液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」は2019年12月に進水式を行い、その後液化水素タンクの取り付けを行った上で、海上運航試験を日本近海で実施しており、全ての試験が終了した後オーストラリアへ向けて出港することとなります。
電気分解による水素製造が一般的である中で、なぜ水素の原料が褐炭なのかという点では、ビクトリア州には世界でも有数の褐炭が埋蔵されており、その量は日本が消費する電力を200年以上も賄うことができると言われていることが大きな理由です。
一方で褐炭はその水分含有量の多さや、乾燥すると自然発火するという性質があるため、輸送や輸出には向かず、これまでは地元での発電燃料としてのみ活用されていました。しかし、これが水素という新しいエネルギーに変換されることで、新しい技術開発や将来的な商業化の道も見えてきます。
水素液化・積荷基地 モーニントン半島に所在するヘイスティングス港にて、ラトローブバレーで製造された水素ガスを液化し、液化水素運搬船に積み込むための設備を設けました。 液化することで体積が800分の1に減少し、運搬の効率を飛躍的に向上させることができます。
もちろん褐炭から水素を製造する際に発生する二酸化炭素の捕捉・保存(CCS)も、環境保全の観点からは重要な要素です。ビクトリア州には二酸化炭素の地下での貯留に向いた地層も確認されており、この分野での研究も行われています。
オーストラリアでは連邦政府が水素戦略を策定しているほか、それぞれ各州において水素関連プロジェクトが進行中であることは、皆様ご存じの通りですが、HESCは褐炭を原料としていることが特徴的なことに加え、日豪間で最初の水素サプライチェーンをつなぐものになるということに期待が高まっています。
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