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【アジアで会う】大草稔さん 社会的企業職員 第330回 引きこもり対策を支援(韓国)

おおくさ・みのる 1976年横浜市生まれ。大学2年生の時に、当時所属していた人形劇部の海外公演で初めて韓国を訪れたことをきっかけに隣国への関心が高まる。卒業後は、舞台監督や独学で習得した韓国語を教える仕事などに従事。現在は、社会的企業のK2インターナショナル(横浜市)韓国法人の教育部門チーフマネジャーとして、引きこもり支援の必要性を啓蒙(けいもう)する一方、支援プログラムを展開するなどの活動を行っている。

「シリアスな場面だったのに、なぜ観客が大笑いしたのか不思議でした」。ソウル市の小中高生を前に披露した人形劇公演の終了後に、大草さんが抱いた感想だ。脚本はオリジナル。人形劇俳優自身もせりふの途中で、思わず涙ぐんでしまうような場面だったのだが。

理由は単純だった。韓国語のセリフのアクセントがおかしかったのだ。「悔しかった。でもそれが、外国語学習への原動力になりました」と大草さんは振り返る。

大草さんは大学卒業後、ミュージカルや演劇の舞台関連のスタッフを派遣する会社に就職した。1年目は大道具を担当し、3年目には監督として、音響や照明、美術、小道具などのスタッフをまとめ上げて舞台を取り仕切った。

しかし、大草さんは「アジアと関わりのある仕事をしたい」という思いを抑えきれず、勤め先を突然辞めてしまう。2002年日韓サッカーワールドカップの興奮が冷めやらぬ中、大草さんの心は自然と韓国に向かった。

新宿区新大久保で日韓の若者を中心に発足した草の根団体「KJFAM」の立ち上げメンバーとして参画し、音楽や料理といった文化交流やゲーム大会など、さまざまなイベントを開催した。ここでも、舞台公演に関わった経験が生きた。

■独学で韓国語を習得

「やはり現地で生活してみたい」。大草さんは04年、ワーキングホリデー制度を利用して渡韓する。ソウル市や南東部・大邱市の語学学校で日本語を教える合間を縫って、テレビの画面にかじりついて韓国語を必死に聞き取った。ライティング力は、当時韓国ではやっていたコミュニティーサイト「サイワールド」での韓国の友人とのチャットを通じて鍛えた。1年後には韓国人から「大邱の生まれか」と尋ねられるほど韓国語の実力が上達していた。

帰国後は、韓国語を生かした仕事に就いた。そんな時、大草さんは、韓国の社会的企業「ノリダン(noridan)」の音楽パフォーマンスと出合う。高校を中退したり、就職に失敗したりした韓国の若者たちが、使えなくなった自転車の部品やいろいろな産業廃材などを楽器に作り変えて演奏していた。彼らの生き生きとした姿に感銘を受けた。

大草さんは仕事を辞めて、ノリダン日本支部の代表として活動を始める。東日本大地震が発生した時は、ノリダンのメンバーと共にボランティア活動にも携わった。

■引きこもりに理解を

大草さんは12年8月に日本での生活を整理し、再び渡韓した。しばらく離れ離れになっていた韓国人の彼女の近くで生活し、関係を修復するのが目的だった。しかし、仕事は簡単には見つからない。「韓国で引きこもり対策の支援を始める。手伝ってほしい」と知り合いのK2インターナショナルの担当者から連絡が入ってきたのは、そんな時だった。

韓国には現在、19~39歳で約13万5,000人の引きこもりがいるという。韓国の過度な競争社会についていけなかった人がほとんどだ。

韓国では、引きこもりに対する理解度は高くない。行政から老人や障害者のような「社会的弱者」として認定されていないため、支援の死角となっている。

日本でも韓国でも、引きこもりには共通した理由があるという。学校や家庭でいつも人と比較されているうちに自信をなくし、「ありのままの自分でいい」と思えなくなっているのだ。大草さんは「支援プログラムでは、周りの人に何かをしてあげることの喜びを伝えるようにしている」と話す。

大草さんたちの取り組みは少しずつ実を結び始めている。昨年、引きこもりの子どもを抱える両親たちの集まりがK2インターナショナルコリアから独立し、「韓国引きこもり父母協会」として発足。他の社会団体や専門家との連携も進め、韓国初の引きこもり支援のネットワーク組織「韓国引きこもり支援連帯(HSAK)」を発足させた。現在は連帯で提案したソウル市の「引きこもり支援条例」が成立するのを待っている。

■日韓で人と人つなげたい

支援のかたわらソウルの大学で日本語を教えていた時に、「大草先生のような人になりたくなった。日本で韓国語を教えながら若い人たちに希望を伝えたい」と言う学生に出会った。生活のための日本語教師の仕事が、ただ言葉を教えるだけでなく、日本と韓国をつなぐ「架け橋」であったことを知った。舞台も、日本語教師も、生きづらさを抱えた人への支援も、どれも人をつなげる仕事だった。

大草さんの目下の目標は、ユーチューバーデビューだ。日本人視聴者には韓国の現地の様子を伝え、韓国人視聴者には、引きこもり支援に対する啓蒙を行う。

政治・外交レベルでは対立が深まっている日韓関係。その一方で、引きこもりなど両国が抱える問題は共通したものが多い。日韓の交流と相互理解に向け、大草さんの草の根の活動はこれからも続いていく。(韓国編集部・坂部哲生)


関連国・地域: 韓国
関連業種: 社会・事件

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