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【アジアで会う】堤雄史さん SAGA国際法律事務所代表:第74回 人を育て、国の発展に貢献を(ミャンマー)

つつみ・ゆうじ 1985年、佐賀県佐賀市生まれ。九州大学法学部卒業後、2009年、東京大学法科大学院卒。翌年、弁護士登録。アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て、12年からミャンマーに駐在。15年3月、SAGA国際法律事務所・SAGAアジア・コンサルティングを設立。趣味は旅行。中東のシリアなどを訪れ、アフリカも縦断。訪れた国は80を数える。

ミャンマーには日本のように一元化された法令集もなく、植民地時代の法律が生きているのかいないのか分からない。官報に当たる国営紙に新法令が必ず載るとは限らない。法律の条文と実際の運用が異なる――。民政移管後のミャンマーでは法整備が進むが、道のりは長い。「ミャンマーで未整備な法律分野だからこそ、外国人として現地に提供できるものがある」と堤さんは力を込める。

ミャンマーは英国統治時代の法律の基礎は残っているものの、半世紀にわたる軍事政権の支配下で司法が軽視され、弁護士も弱い。だが、民政移管後に海外からの投資が急拡大する中、「投資の際の契約などビジネス需要が拡大、国際的な取引には法律が必要だと、みんなが気付き始めている」からだ。

■変革期に飛び込む

法学部で1年を終えた2004年の春、ベトナムとカンボジアを旅行し、まだ貧しい街や人々を見て、何ができるかと自問した。社会の役に立つには、一定の地位や権力が必要と考え、「自分の努力でなれるのは弁護士」と決意、猛勉強を始めた。司法試験改革の過渡期で、学部時代は旧試験に失敗したが、法科大学院を卒業し、新試験に無事合格する。

国際案件の多い大手事務所に就職。「若いうちは激務の中で自分を鍛えたい」とがむしゃらに働いた。1年目の夏、ミャンマー国境に近いタイ北西部ターク県のメーソートの難民キャンプで人権について講義する機会があった。民政移管直後で、ミャンマーが激変の時代に突入していた。

日本でミャンマー案件を手掛けるようになるが、「法律は現地の文化と密接に関係する。条文だけ読んでも、現地に住んでいないと分からない」と、早期の現地行きを模索。現地の有力事務所には世界中の弁護士が殺到し入り込む余地がなかったが、12年末からヤンゴン外国語大学でビルマ語を学びつつ現地の日系事務所で働くことになった。

「日本の弁護士が海外に出ると、戻るときに苦労する」。日本の法改正や新しいスキームについて行けなくなることを心配し、引き留める同期もいたが、堤さんは「自分にとって弁護士は手段。国の変わり目を見られるチャンスは今しかない」と飛び出す。朝から昼過ぎまで日本の交換留学生や大使館員、タイやバングラデシュの軍人、中国人らと肩を並べて学び、その後、深夜まで働いた。

■中小企業も相談しやすく

今年3月に独立した。ミャンマーには大手企業ばかりでなく、中小企業も多数進出するが、「大手事務所は中小企業にとって敷居が高い。中小企業でも安心して進出できるよう、相談に応じたい」と考えた。事務所では雇用契約や就業規則、合弁や賃貸の契約書のほか、新規投資のスキームの相談や、実際の会社設立、ミャンマー投資委員会(MIC)などの許認可取得まで幅広く取り扱う。

土地や建物の購入におけるミャンマー人の名義借りや、労使間のトラブルのリスクについては、「トラブルが起こってからの対応では遅い。契約書である程度、未然にリスクを予防、低減できる」と強調する。

継続的な顧問契約を増やそうとしているのも、「気軽に相談できれば、早い段階で軌道修正し、トラブルを未然に防ぐことができる」から。継続的に税務・会計を請け負う会計事務所と比べ、一般的に法律事務所は単発で請け負う仕事が多いといわれる中、事務所の経営安定につなげる狙いもある。

■経営・人材育成に注力

日本人の常駐弁護士では最古参。「法律上と異なる運用も、現地で実務をやっているからこそ分かる強み」と自信ものぞかせる。労務関連のトラブルも多い国。自ら経営者になった今は、「法律に従うのは当然だが、現地の実情を踏まえ、より良い労使関係を作る契約書の中身を目指し、アドバイスしていく」と語る。

事務所スタッフは10人近くまで増えた。「ミャンマーでナンバー1の法律事務所を目指したい。顧客も日系企業だけでなく、他の外資や地場企業に広げ、将来はミャンマーを本店として東南アジア諸国連合(ASEAN)各国に展開したい」と意欲を見せる。

ミャンマー人の若い新卒者を中心に育て、活躍の場を作ろうとしている。「法学教育は暗記主義で、契約書一つ作るのでも、個別案件に対応する想像力に欠ける」という状況は逆に、「外国の弁護士が手伝い、国の発展に貢献できる分野」でもある。「法律人材を育て、外国企業がミャンマーで雇用拡大や所得向上に好影響を与えるのを支えながら、この国の成長に携わっていきたい」。(共同通信ヤンゴン支局・八木悠佑)


関連国・地域: ミャンマー
関連業種: マクロ・統計・その他経済

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