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【有為転変】第150回 ロックダウンは有効か

もしも日本で例えるなら、次のような事態と言えるかもしれない。四国の南北で陸続きの香川県、徳島県、高知県の3県で、南の高知県が、新型コロナウイルスが拡大してロックダウンしたとする。徳島県と香川県は、コロナ対策が奏功し、感染者数の増加を極少に抑え込むのにほぼ成功しており、高知県との交通は遮断された。にもかかわらず、なぜか香川県は突然、徳島県に事前の相談もせず、日々の感染者が20人に満たない徳島県民の入県をも拒否してしまった――。日本ではあり得ない事態だが、オーストラリアでは同じことが実際に起きている。

クイーンズランド(QLD)州政府は8日から、ニューサウスウェールズ(NSW)州と首都圏特別区(ACT)住民を対象に、州境を閉鎖すると発表した。QLD州の主要産業の一つである観光業に打撃を与えることになるものの、同州のパラシェイ首相は「第2波が州内で発生した際の経済的損失は計り知れない」とした。

NSW州とACTとの州境も閉鎖したQLD州のパラシェイ首相(豪政府提供)

NSW州とACTとの州境も閉鎖したQLD州のパラシェイ首相(豪政府提供)

パラシェイ首相はこれに先立ち、1日からシドニー市民に対して州境を閉鎖することを決めた際には、NSW州のベレジクリアン首相に事前相談さえもなかったという。

日本の都道府県知事と比べ、州権限が大きいことや、首長が所属する政党が違えば州間でこんなに対立するものなのか、といった新鮮な驚きがあるが、それ以上に、NSW州は、4月上旬から5カ月間にもわたり、1日の感染者数を20人未満に抑え込んでおり、世界的に見ても成功した自治体の一つであることだ。しかもNSW州は現在、感染者が拡大しているビクトリア(VIC)州との交流もない。それなのに、という驚きだ。

QLD州が、NSW州民さえ入境を拒否するという厳格な対策を取るという背後には、パラシェイ首相が、評判の高いニュージーランド(NZ)のアーダン首相を見習った、厳格な「コロナウイルス完全撲滅方針」を目指していることがあるだろう。

■「バンドワゴン・ファラシー」

しかし、NZ式対策の有効性については以前から議論はあった。

例えば5日付オーストラリアン紙にも、興味深い論説が掲載されていた。経済記者のアダム・クレイトン氏の論説で、メルボルンのロックダウンの有効性に疑問を呈したものだ。

同氏は、著名医学誌「ランセット」のデータを基に、新型コロナウイルス感染による致死率は、20~50歳で1万870人に1人と極めて低い割合だと指摘。これは自動車事故による死亡率とほぼ同じか、想定されるあらゆる事故による死亡率よりも低い水準だという。

そのためオーストラリアの若者にとって最大の脅威は、「新型コロナウイルスそのもの」ではなく、それによってもたらされている社会的なロックダウンによる教育や娯楽の機会喪失や失業、収入の減少などになっている。

事実VIC州では、ロックダウンされてから精神的な疾患を訴える人の割合が20%も増えたという。規制がまだ緩いシドニーでさえ事態は深刻だ。自殺防止のソーシャルワーカーとして働く筆者の友人によると、「コロナによる社会の閉塞(へいそく)感で、自殺などの精神的危機を訴える若者の割合が急増している」という。

クレイトン氏ははまた、ランセットの研究に基づき「都市の完全なロックダウンや、検査態勢の強化といった社会的対応は、ウイルス感染による死亡率の低下とは関係がない」とも指摘している。

また、VIC州のアンドリュース首相が、「90歳以上の」州民3人が新型コロナウイルスで亡くなったことについて「悲劇だ」と悲壮感を示したことについても、感覚がずれていると指摘。(新型コロナが致死性のある恐ろしいウイルスだと)多くの人々が信じているから真実だと信じるという「バンドワゴン・ファラシー(論理性の誤り)」に陥っていると主張した。

NZのような厳格なロックダウンは短期的な効果はあるかもしれないが、新しいワクチンが普及せず、ロックダウンしたまま社会や経済が長期的に持ち堪えられるのか、という根本的な問題もある。

■スウェーデンの落ち込みは軽度

その点、例えば「持続可能な対策」を取ったスウェーデンはロックダウンせず、社会的距離を保ちながら、飲食店や学校なども開き続けるという独自路線を選んだ。その結果、ちょうど6日に発表されたばかりの同国の第2四半期国内総生産(GDP)は、前期比マイナス8.6%となったものの、軒並み2桁以上のマイナスとなった他のEU諸国と比べて落ち込みは軽度で済んだ。

スウェーデンの死亡率は高いが、当初予測された死者数の9万人と比べ、5,700人程度で落ち着き、6月以降で感染者も減少している。先のランセットの研究では、スウェーデンの高死亡率は、ロックダウンをしなかったこととは関係がないことになる。

NZのアーダン首相やQLDのパラシェイ首相に対し、果断な態度を評価する声もある。だが、本当の評価は後になってみなければ分からない、と思っている。【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 社会・事件

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