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【アジアで会う】清水友彦さん 居酒屋チェーンしゃかりき432”社長 第309回 逆境を成長の力に変えて(タイ)

しみず・ともひこ 1975年大阪府堺市生まれ。26歳で大阪市内に居酒屋「しゃかりき432”(しみず)」を開業した。2012年に首都バンコクに同店のタイ1号店を出店したのを皮切りに、居酒屋「しゃかリッチ」など全6業態・27店舗をタイで展開。ほかにマレーシア、ミャンマー、日本にも出店している。趣味は筋力トレーニング、ムエタイ(タイ式キックボクシング)、テニス、ゴルフ、食べ歩き。妻と2人暮らし。

「見切り発車」「すけべ根性」「インパクトのある人生」――。一見脈絡がないが、妙に印象に残る日本語の張り紙や赤ちょうちんが所狭しと掲げられた店。店内の壁にはデフォルメしたモアイ像や男性器を模したデザートメニューのイラストなど、コテコテの大阪文化とバンコクの猥雑さを凝縮したような雰囲気だ。

徒手空拳でタイに渡り、わずか8年で27店舗まで展開するに至った清水さん。さぞかし自信に満ちた社長かと思いきや「タイには日本から逃げてきたようなもんですわ」と意外な言葉が漏れる。

「やんちゃな高校生活」を送った後、日本料理店に入店。飲食店の世界に入った。居酒屋店のアルバイトや焼き肉店の店長などを経て、26歳の時に大阪市のJR野田駅近くに居酒屋「しゃかりき432”」を開業した。新福島、梅田、難波、地獄谷、大開と次々と大阪市内に店を広げ、はたからは有望な成長株に見えたが、見えない所でほころびが生じていた。信頼していた従業員たちが続々と退社・独立。清水さんの店の近くに店を構える者もいた。「そら面白くはなかったよ。今まで部下だった奴らと対等な立場で競争なんかできるかという思いもあったし、そんなふうに考える小さい自分にも腹が立った」。そんな折、大開店が火事、野田店が立ち退き、梅田店は経営不振とトラブルが続いた。従業員たちに自分の価値観を一方的に押し付けてきたツケが回ってきたと感じた。

■傷心のタイ挑戦から「居酒屋王」に

人間不信から日本での仕事に行き詰まりを感じ、旅行で訪れたことのあるタイに活路を求めた。誰一人知人のいない異国での挑戦だったが、気分は高揚していた。「タイ人のユルい感じがいいのよ。おもろいことが好きなとことか、タイ人と関西人って気質が似てんねん。日本では、部下や従業員と仕事のことで意見をぶつけ合わなあかんことも多いけど、タイでは言葉もそこまで通じへん。その距離感も自分に合ってるのかもしらん」

12年にバンコクの繁華街アソークに店を構えた。出店を決めた場所は、これまでに入居した飲食店の撤退が続いており、周りからは「場所が悪い」と反対された。だが、かすうどん、たこ焼き、もつ鍋などの「大阪ソウルフード」をはじめ、「大阪の濃い味」がタイ人の好みにマッチした。午前3時までの深夜営業やフェイスブックなどを使ったアピールも若者層の心をつかんだ。瞬く間に店舗の数は増えていき、日本の大手飲食チェーンの代表がタイでの成功の秘訣(ひけつ)を聞くために清水さんの下に足を運ぶほどになった。

■降りかかる最大の危機

そんな折、最大の危機として降りかかったのが新型コロナウイルス感染症だ。3月下旬にタイ政府が非常事態宣言を発出。飲食店の営業が禁止された。清水さんの店も、4月の総売上高は前年同月から96%減に落ち込んだ。

タイ人、ミャンマー人、カンボジア人など合計600人ほどの従業員を抱えていたが、到底、給料を払える状況ではなかった。だが、多くの従業員が「無給でも賄いの食事だけでいいから働きたい」と言ってくれた。気持ちはうれしかったが、一生懸命に働いてくれる従業員に給料を払えないことに悔しさと申し訳なさがこみ上げた。宅配で自らバイクにまたがっていた時、思いがけず涙があふれた。運転もままならなくなり、自宅で号泣した。

だが、4月にどん底だった売り上げは、5月は前年同月の12%、6月は35%まで回復。7月は60~70%まで戻る見込みだ。日本人客の利用が多い他の日系飲食店はまだまだ苦しい状況だが、もともとタイ人客が全体の9割を占めている清水さんの店では、営業再開後の客足の回復は早かった。タイの銀行からの借入金も何とか手をつけることなく乗り切ることができた。

■コロナ禍転じて福に!?

営業禁止の期間はもちろん苦しかったが、その間、従業員のコスト意識が高まり、食材ロスの削減や適正在庫の考え方が浸透した。人件費節約のための厨房とホールをかけ持つユーティリティー職制の採用など、これまで手をつけられなかったことも取り入れた。「結果的にうちにとってはいいことばっかりだったかもしれんね」と冗談交じりに話す。

今後の事業展開について聞くと、「インド進出。あんだけ人がおったら、そら可能性はえげつないで。ブルーオーシャン(競争相手のいない未開拓市場)や」。新型コロナ流行前に2回ほど首都ニューデリーを視察。次の夢の実現に向けて準備を進めてきた。

「せやけどインド進出の前に、まずは世話になった従業員らに借りを返すのが先や」。しゃかりきに拡大路線を走ってきた清水さんがふと自らの足元を見つめた。(タイ版編集・須賀毅)


関連国・地域: タイ
関連業種: サービス

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