• 印刷する

【安全配慮義務】生活習慣病やメンタルにも注意を (第3回)

企業が海外に社員を送り出せば、日本国内とは異なる生活・業務環境に従業員を置くことになる。企業にとっては、本人の身体的な健康だけでなく、帯同した家族も含めたメンタル面の健康維持にも注意する必要がある。また、運動不足や接待が増えるといった状況も考えられるため、生活習慣病のリスクにも気を配ることが重要だ。

ベトナムの医療事情を一言で表すと、「質・量ともに慢性的に不足している」と言えます。2016年時点の統計では、国民1,000人あたりの医師は0.82人、看護師は1.4人程度とされ、人材不足は深刻です。ホーチミン市やハノイといった都市部であれば、それほどの不足を感じないかもしれませんが、地方の中小都市では英語や日本語が通じる医療機関は、ほとんどありません。一定の教育期間を経れば医療職の資格が取得できるため、質も低いのが現状です。現地の医療施設は衛生面で問題があり、混雑していることも多く、1つのベッドを複数の患者が使っていることも珍しくありません。

現地の外国人医師にとって問題なのは、違法にハンドキャリーされた医薬品が出回っていることです。ベトナムで診療行為許可証を持たないまま働かされていたというケースもあり、保健省の指導で国外退去させられることもあります。

現地の日本人は、日本語が通じる医療施設を利用することが多いのですが、診療が不必要で過剰なものであったり、現地人よりも価格が高くなる「外国人価格」で提供される傾向があります。ベトナムではベトナム語–英語、英語–日本語の通訳資格はなく、意思疎通の面でも問題が多いといえます。現地の医療機関では、日本人が求める情報を得られないケースがあり困ったという声をよく聞きます。特に緊急の場合は、外国人が現地の医療施設を使用するのはリスクが高いと言えるでしょう。輸血が必要な場合や高度な管理が必要な場合は、タイやシンガポール、日本など、適切な医療環境がある国で治療することを勧めています。

現地の日本人にとっては、情報不足も大きな問題です。日本語の情報は量が限定されていますし、不正確なこともあります。タイムリーに情報を得るには、現地の英字新聞か専門家などに頼るしかありません。例えば19年5月に日本の外務省が、ベトナムで麻疹が流行したと発表しましたが、実際に麻疹が流行り始めたのは18年後半のことでした。

■本人と家族のメンタルも問題に

ベトナムで多い感染症には、狂犬病や腸チフス、A型肝炎、デング熱などがあります。結核の感染は日本で15万人あたり15人なのに対し、ベトナムでは129人。処方箋がなくても抗生物質を含むほとんどの薬品が薬局で購入することができるため、薬剤耐性(AMR)対策がされていないという問題があります。

ベトナムの日本人に特徴的な問題の一つに、生活習慣病があります。現地では外食や接待が多く、移動は車が中心。運動できる場所やレジャーが少ないことで、運動不足になりがちです。

さらに深刻なのは、メンタルの問題でしょう。特に赴任直後は新たな生活や職場環境になり、メンタルの不調に陥りやすい。日本国内と異なり、サポートが少ない上、長時間勤務や勤務時間外の接待も多いため、睡眠不足や過重労働が頻発します。日本の本社から難題を突きつけられることも、大きなストレス源になっている方も多いでしょう。また、本人だけでなく家族が新しい環境に適応できないケースも、駐在員にとっては大きなストレスです。患者が心の不調に気づかずに倦怠感や動悸などを訴えて受診し、身体化障害と診断することもあります。こうした症状は移住初期から見られるので、可能な限り問診ではメンタルに関する質問も組み込むようにしています。

<プロフィル>

中島敏彦/なかじま・としひこ(ラッフルズ・メディカル・グループ 総合診療医)

秋田大学医学部卒業後、千葉大学医学部附属病院や東京厚生年金病院(現JCHO新宿メディカルセンター)、沼津市立病院などでの勤務を経て、2013年よりシンガポールや北京、ハノイ、ホーチミン市の国際病院に勤務。医療機器を扱う商社のClover Plus Co.,Ltdで産業衛生サービスとヘルスケアビジネスのアドバイザーも務める。2017年よりホーチミン市に勤務。


関連国・地域: ベトナム
関連業種: 医療・医薬品

その他記事

すべての文頭を開く

【中進国の罠】人口ボーナスに強みとリスク インドネシア、世界5位の経済国へ(04/07)

感染者241人に、屋外でもマスク着用を徹底(04/07)

ベトラベル航空、10月就航予定を延期(04/07)

ベトナム航空、15日までダナン往復を減便(04/07)

1~3月不動産取引、過去4年で最低に(04/07)

ビナコネックス2、社名変更と増資実施へ(04/07)

BIDV、不動産競売で4兆ドン債権回収へ(04/07)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン