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【健康配慮義務】海外社員への健康配慮、企業の義務に (第1回)

海外に拠点を持つ企業が増える中、日本国内の社員だけでなく、海外への出張者や駐在者に対する健康に、会社としてどう責任を持つかが大きな問題となっている。ベトナム・ホーチミン市のラッフルズ・メディカル・グループに総合診療医として勤務する中島敏彦医師に、企業の社員に対する安全配慮義務について説明してもらった。

企業は海外事業に関わる社員の健康に、どの程度責任を持つべきなのか。日本企業の海外進出が増えている一方、アジア各国で新型コロナウイルスによる肺炎が流行していることを考えても、社員の安全や健康管理は、企業にとって年々大きな問題になっているといえるでしょう。

この問題を日本の企業が考える上で、重要な判決が2015年に出ています。「中央労働基準監督署長事件」に関する判決で、「出張か駐在かに関わらず、海外勤務者が現地で安全で健康に働けるように企業は安全配慮義務(労働契約法第5条)を負う」と明示されたのです。ある会社が上海で立ち上げた現地法人の代表者が急性心筋梗塞で死亡し、その家族が出張中の労災として給付を請求したことで起きた裁判でした。この判決が出て以来、社員が海外への出張や駐在をきっかけに心身のバランスを崩すようなことがあれば、企業側の責任が問われる可能性が高くなったと言えます。

労働安全衛生法では、海外に派遣する前後に社員の健康診断が義務付けられており、実施率は高いようです。ただ、日本本社の総務部や人事部が、海外での就労環境や医療の状況を把握するのは難しい。必然的に、現地拠点の責任者が社員の健康をケアする責務を負うことになります。日本で総務や人事の業務を経験した人が海外に来たのであれば話は別ですが、製造や営業の経験しかない人が海外に来て、拠点の業務全般を統括するケースも多いのが実情だと思います。

■労働許可証の更新ができないリスクも

現地の社員は、労働許可証を取得や更新のために、定期的に健康診断を受けることになります。ただ、そこでの結果が良くない場合は就労不能と判定されることもあり、業務を継続することが難しくなってしまいます。特に、高血圧や糖尿病といった、慢性的な疾患で就労不能と判定されるケースは多いようです。予想外の帰任となれば、当人にとってはキャリアを中断することになりますし、会社にとっても経験豊富な社員を帰任させることになり、損失となります。

現地の拠点としては、海外で慢性的な疾患の治療費をカバーできる制度を設けたり、現地で継続的に健康教育や治療を継続できるよう、赴任先にある医療機関との連携が必要です。中小企業では派遣前の健康ガイダンスや、派遣中の医療相談などを実施する体制が構築されているケースは少なく、要注意です。

調査によると、企業が海外に人員を派遣する場合、予防接種を実施する率はかなり高いと言われています。ただ、赴任前に全ての接種が完了するケースはそれほど多くはなく、最低でも現地で全ての予防接種を受けることができるよう、会社が手配する必要があるでしょう。また、予防接種の内容が年齢や渡航先と関係なく、画一的な傾向があります。例えば、ベトナムでは19年に麻疹が流行したと発表されましたが、ワクチンを接種したケースは少ないようです。社員の健康を考えると、毎年提供しているルーチンのワクチンだけでなく、現地の事情に沿った予防接種を奨励する必要があるでしょう。

■社員のメンタルにも配慮の義務

肉体的な疾患に加えて、海外でケアが必要なのはメンタル面です。19年にNNAが実施したアジア各地の日系企業駐在員に対するアンケート調査では、「メンタルケアを目的とした制度がある」と回答した企業は23%でした。提供されるサービスとしては「外部カウンセラーやコンサルタントと相談」やインターネットを使用した「ストレスチェックテスト」、「産業医の派遣」でした。一方、現地の社員にとっては、これらのサービスを利用し、悪い結果が出れば帰任につながる不安を抱く人もおり、有効に利用されているとは言えません。

私が勤務しているホーチミン市の「ラッフルズ・メディカル」では、日本人の総合診療医と心理士、英語でのコミュニケーションが可能な現地の精神科医がチームを組んでメンタルヘルスの対応をしています。ただ、この場合は来院した患者だけが対象になり、企業との連携はないので限界があると感じています。今後は、より能動的に企業と連携を取ることで問題を発見し、アドバイスできる仕組みを構築する必要があると考えています。次回は新型コロナウイルスの対策について、企業の安全配慮義務の観点から説明したいと思います。

<プロフィル>

中島敏彦/なかじま・としひこ(ラッフルズ・メディカル・グループ 総合診療医)

秋田大学医学部卒業後、千葉大学医学部附属病院や東京厚生年金病院(現JCHO新宿メディカルセンター)、沼津市立病院などでの勤務を経て、2013年よりシンガポールや北京、ハノイ、ホーチミン市の国際病院に勤務。医療機器を扱う商社のClover Plus Co.,Ltdで産業衛生サービスとヘルスケアビジネスのアドバイザーも務める。2017年よりホーチミン市に勤務。


関連国・地域: ベトナム
関連業種: 医療・医薬品

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