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【アジアで会う】伊達文香さん イトバナシ代表 第286回 刺しゅうの魅力を先進国へ(インド)

だて・ふみか 1991年生まれ、奈良県出身。2015年に広島大学の大学院を休学しインドへ。人身売買の被害を受けた女性を支援する現地NGOと共同でファッションショーを開催した。2017年にインド刺しゅうを取り入れた服飾品をデザイン・販売する会社イトバナシを設立。現在は百貨店での販売のほか、大手小売店と提携した製品開発も手掛ける。

インドは服飾品の産地として長い歴史を持つ。織りや染めのほか、伝統的な刺しゅうの技法も各地で受け継がれている。東部コルカタのカンタ刺しゅう、北部ウッタルプラデシュ州ラクノウのチカン刺しゅう、カシミールのアリ刺しゅうなど、地域によって技法が異なる。

「糸から始まるお話」が名前の由来だという「イトバナシ」はそんなインド刺しゅうの魅力を日本に伝えるブランドだ。「携わる全ての人が登場人物として名前が出てくるような、顔の見える服作りをしたいと思った」。代表の伊達さんは、ブランドのコンセプトをそう話す。インドでは急速に経済が発展する一方で、伝統的な文化が置き去りにされている。1,000年の歴史を持つ技術の担い手が、配車アプリのドライバーに転身していく。「経済発展から取り残されこのままでは無くなってしまいそうな、非効率でも丁寧なものづくりを社会に残していきたい」。

■刺しゅうは祈りに似ている

服好きの両親のもとで育ち、大学ではファッションショーを開催するサークルに入るなど服への思い入れは大きい。スタディーツアーで初めてインドに滞在中、東日本大震災が起こる。帰国後に携わった被災地でのボランティアがきっかけで社会貢献活動に精力的に取り組むようになる。大学院を1年間休学。奨学金とクラウドファンディングで集めた資金を利用して、人身売買の被害を受けた女性を支援するファッションショーを主催した。

この時初めて、カンタ刺しゅうに出会った。かわいくて歴史が詰まっているだけでなく、1カ月間、1枚の布に向き合う現地の職人の暮らしぶりや時間の使い方に魅力を感じた。「インドで刺しゅうが発達しているのは主にイスラム教徒が多い地域。刺しゅうは祈る行為にも似ている」という。インドには伝統的な染めや織りの技法もあるが、刺しゅうは針と糸と布があれば誰でもできる。「その誰に対しても平等な点にも惹かれた」。

一方で、クラウドファンディングを通じ、寄付で活動を続けていく難しさにぶつかった。出資者へのリターンが必要で、1回で終わってしまう寄付ではなく、より健全に「面白いと思うことをして、自分でお金を稼ぎながら継続的に活動したい」と考えた。ファッションショー開催後、インド各地の刺しゅうの生産地を訪れる旅のなかで起業を決意。インドから日本のビジネスコンテストに応募し、帰国翌日に行われた最終選考で最優秀賞を受賞した。

■目の前で起こっていることを解決する

最優秀賞を受賞したことをきっかけに、「縫製工場を紹介する」「資金調達を手伝う」という人が次々と現れ、それならと小さな個人事業を立ち上げた。伊達さんは、このハイスピードな展開の裏にあるのは「目の前に起こっていることを解決するという姿勢かもしれない」と振り返る。

現在は年に2度、各約1カ月間インドを訪れ、刺しゅうを施した生地の発注・生産指導をしている。これまでは日本の地方の小さな工場で縫製していたが、今年4月に発表する春・夏コレクションからは現地の工場での生産に取り組む。カシミールでは、合弁で工場を立ち上げる計画もあるという。普通の企業であればカシミールに工場を持つという選択はしないが、イトバナシでは地方創生も事業の柱にしている。日本では地元の奈良県五條市にある古民家を改修してオフィスにした。

「これからはインドだけでなく、東南アジアや南米の刺しゅうにも目を向け、日本や先進国に届けていきたい」と話す。刺しゅうに一生携わる職人が、携わってよかったと思える労働環境をつくることも目標だ。

現在は百貨店での期間限定の出店や、大手小売店と提携したOEM(相手先ブランドによる生産)での販売が中心だが、来年までに東京に店舗を設けることも視野に入れている。「フェアトレードだから、エシカルだからではなく、製品の魅力や質で手にとってもらえるブランドでありたい」。刺しゅうの魅力を紡ぐ「イトバナシ」は続く。(インド版編集・榎田真奈)


関連国・地域: インド
関連業種: 繊維小売り・卸売り社会・事件

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