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【有為転変】第137回 干上がるオーストラリア大陸

オーストラリアで、干ばつや山火事などの自然災害が猛威を振るっている。特に干ばつは、深刻化した昨年からさらに悪化し、既に農産物生産高にも多大な影響を及ぼしており、国内総生産(GDP)を下振れさせる国家的リスク要因になっている。オーストラリア政府としても、被災した農家支援を導入してはいるが、自然が相手では対応も後手に回らざるを得ない状況だ。その中で、オーストラリア政府は強引な「あの手」を使うのかどうか、に注目している。

豪気象庁によると、現在干ばつが深刻化しているのは、クイーンズランド(QLD)州南部とニューサウスウェールズ(NSW)州、ビクトリア(VIC)州の一部で、特にNSW州は98.4%とほぼ全域にわたるという。

今年9月末までの1年間で深刻な干ばつに見舞われている地域。濃い赤は過去最悪の干ばつ状況(豪気象庁より)

今年9月末までの1年間で深刻な干ばつに見舞われている地域。濃い赤は過去最悪の干ばつ状況(豪気象庁より)

オーストラリア4州にまたがる食料庫、マレーダーリングリバー地域では、10月末までの過去3年間の平均降雨量が年間887ミリと、過去最低を記録した。長期的スパンで見ても、過去12カ月の降雨量は1901年以来2番目の少なさだ。

水道事業を管轄するウオーターNSWによると、グレーター・シドニー地域では21カ所の貯水ダムがあるが、貯水量レベルは今年8月18日に危険域の50%を割り込み、11月3日時点では47.4%と減少傾向を続けている。これが53%を割り込んだ時点で、ウオーターNSWは貯水管理に着手することになっており、6月にシドニー全域で水道使用制限を発令済みだ。

記録的猛暑も追い打ちをかけている。同地域の今年の平均気温は、標準となる1961~90年の30年間と比べて1.65度も高く、3年連続で過去最高を記録している。NSW州やQLD州ではこの上にさらに大規模な山火事も加わり、泣きっ面に蜂の状態となっている。

■水不足で作付け進まず

何よりも干ばつの影響で心配されるのは、農業への影響だろう。干ばつが主要な穀倉地帯でも長引いているためだ。農業金融機関ラボバンクが10月末に出したリポートによると、オーストラリアの今年度の冬作物収穫量は前年度比9%減と、12年ぶりの低水準に落ち込むとの見通しを明らかにした。過去5年間の平均を31%下回るという。

夏作物も同様で、NSW州北部とQLD州南部では、夏作物の作付け時期に入ってすでに2カ月がたつというのに、雨不足が続いているために作付けが進んでいない作物もある。2016年10月下旬以降は平年を下回る降雨量しかなく、夏作物の生産地域の大半で土壌水分が過去最低水準となっている。

このため必然的に、干し草や家畜飼料の価格は高騰し、例年の2倍にまで膨らんでいる。オーストラリア政府はこれにより、干ばつに苦しむ農家や小企業を救済するため、総額で70億豪ドル(約5,175億円)規模の支援策を導入したばかりだ。

1970年代半ば以降、農家の規模が大型化し機械化されたことも背景に、農家の数は全体で90万軒に半減。そのため、国内農家の生産高の80%は20%の大規模農家によるものになった。

生産高の残り20%は、年商50万豪ドル以下の小規模な家族経営農家がほとんどだ。つまり干し草や家畜飼料などの値上がりは即、経営難に直結することになる。

■人工降雨は有効?

個人的に気になっていたのは、オーストラリアは人為的に雲を集めて雨を降らせる「人工降雨」政策を採っているのだろうか、ということだ。というのも、同じく慢性的な水不足に悩む中国では世界最大規模で常時実施しており、例えば北京オリンピックの際には、開会式の日を晴天にするためにヨウ化銀を含んだ小型ロケットを1,000発以上打ち上げたことは有名だ。

これは奇異な政策に思われるが、実はオーストラリアでも古くから実施されている。調べると、1940年代から国立科学産業研究機関(CSIRO)が実験を続け、60年代からタスマニア水力発電所で事業化されている。この手法が有効とされたのはNSW州とVIC州、タスマニア州だが、QLD州では「温暖雲(warm cloud)」と呼ばれる別の手法を用いた人工降雨が使われている。

だが、これが現在に至るまでに有効手段となり得ていないのには背景がある。人工降雨は一定の天候条件が整う必要があるほか、ヨウ化銀を大量に大気中に散布することへの抵抗がオーストラリアでは根強いためだ。また、長年にわたるイスラエルの学術調査で、人工降雨で雨量が増えたというより、局地的に降雨パターンが変化しただけのケースが大半だとするデータもある。

CBAのリポートによると、降雨パターンが変化すると、農業の生産性は逆に最大50%落ち込んでしまうという。天候を制御しようとして、自然から意趣返しを食らう形だ。

オーストラリアの気温はこの100年間で1度上昇し、そのことが異常気象の増加につながっているとされる。今後10~30年間で、さらに0.5度上昇するとみられている。【NNA豪州・西原哲也】


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