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【アジアで会う】和田晋典さん 北朝鮮開発研究所理事 第277回 脱北者との交流通じて隣国を理解(韓国)

わだ・しんすけ 1962年生まれ、奈良県出身。京都大学在学中の84年にアメリカンフットボールで日本一を経験する。卒業後はコンピューター会社で働きながら、アメフトの社会人チーム、アサヒビールシルバースターで活躍。09年にソウル市にある東国大学北朝鮮学科の博士課程に進学、11年に同過程を修了し、現在は社団法人北朝鮮開発研究所で理事を務める。「脱北者に接することが北朝鮮を理解する近道」をモットーに、日本が韓国、北朝鮮と共存する道を模索する。

少年漫画の主人公のような人生だ。高校時代は生徒会長に選ばれるほどの人気者。「水泳部がなかったから」と単純な理由で始めたサッカーでは、リーダーシップを買われてキャプテンに就任し、司令塔を務めた。学業も優秀で、現役で京都大学に合格した。

京都大学では、「新しいことにチャレンジしたかったから」と、アメリカンフットボール部に入部。4年生の時には、主力選手として大学日本一を経験し、大学のオールジャパンにも選出。社会人代表と戦うライスボウルでも勝利し、日本一の美酒を味わった。

大学卒業後に就職したコンピューター会社では、後に大手スマートフォンメーカーで採用されたデジタルペンの立ち上げに関わる一方、アサヒビールシルバースターでプレーした。

選手引退後はアメフトの指導者に転身。東京都内の弱小高校のコーチに就任すると、1年目でいきなり都大会優勝を果たした。その快進撃が話題となり、テレビの取材が殺到。同部の躍進を描いたドキュメンタリー番組まで制作された。金沢大学や神戸大学のほか、後には韓国代表のコーチも務めた。

仕事面では技術コンサルタントとして独立し、障害者向けコンピューターの開発に携わったり、障害者の面倒を見たりするなど、ボランティア活動にも力を入れた。

■遠い北朝鮮の近さを知る

そんなある日、父方の祖母が朝鮮半島出身者であったこともあり、今まで全く畑違いだった韓国行きを思いつく。韓国語は普段から熱心に勉強しており、自信があった。

「韓国の政治や経済、社会を研究している日本人はたくさんいる。ならば北朝鮮の研究を」と東国大学北朝鮮学科に入学した。ところが早々に、韓国の北朝鮮研究が、北朝鮮を「敵」と認識する点から出発していることに疑問を覚えた。

「北朝鮮を知るには政治や軍事を研究するだけでは限界がある。付き合うのは人であって、体制ではない」。そこで北朝鮮の人々の長所を知ろうと、脱北者との交流を熱心に始めた。場末の歓楽街にも足を運び、そこで働いている脱北した女性たちの話を何時間もかけて聞いた。北朝鮮に詳しいジャーナリストや学者からは「韓国人ですら、脱北者とそこまで深い付き合いをする人はいない」と言われたという。

和田さんが交流した脱北者たちは決して、「間違った思想を植え付けられた変な人たち」でもなければ、「十分な教育を受けられず、経済力のないかわいそうな人たち」でもなかった。むしろ「悲惨な環境の中でも前向きに生きていける、素朴な人間力を持った人たち」で、団体生活に順応しやすく、個人よりも全体を優先できる点は、韓国人よりもむしろ日本人の感覚に近いという。脱北者たちに「北朝鮮で楽しかった思い出は何か」と尋ねると、脱北者たちは「韓国でそんなことを聞かれたのは初めてだ」と異口同音に答えた。

和田さんは脱北者との交流を一冊の本にまとめ、「脱北朝鮮論」というタイトルでこのほど出版した。現在は、大幅加筆して韓国語で出版するための準備を進めている。

和田さんは研究の合間を縫って、飲料向けパウダー工場の見学にも足しげく通う。そこでは、3人の日本人と2人の韓国人、2人の脱北者が働いている。開放された後の北朝鮮に日本企業や韓国企業が共に進出するケースを想定して、一緒に作業もする。和田さんはそこでの実験を通じて、「日本人が韓国人と北朝鮮人の中に入って助言することで、統一事業が円滑に進む」と確信したという。

「日本人技術者が北朝鮮に行ってビジネスをする場合、韓国と北朝鮮の両方の事情に通じている案内人が必ず必要になる」という和田さん。5年以内に北朝鮮が開放される可能性もあると考え、今からその時のための準備を進めている。

■隣国の心を歌う

和田さんには「歌手デビュー」という夢もある。ソウル・仁寺洞などの有名な観光地でギターを弾きながら、昔ヒットした韓国のフォークソングを歌いたいのだという。

「それでは一曲」と、ケースから取り出したギターを片手に歌う曲名は「二等兵の手紙」。列車に乗って両親の元を離れ、軍の訓練所に向かう若者の心情を歌った内容だ。切ない歌声に、若かりし頃を思い出したのか、あるいは兵役に就いている息子がいるのか、隣で一緒に聞いていた韓国人は目頭を押さえていた。

北にも南にも血の通った人間が住んでいる。もう和田さんの人生の一部となったようだ。(韓国版編集部=坂部哲生)


関連国・地域: 韓国
関連業種: 社会・事件

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