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【アジアを走れ、次世代モビリティー】一帯一路の自動車生産

ロシア・欧州市場にらむ吉利汽車

東はロシア、西は欧州連合(EU)加盟国ポーランドに接するベラルーシ。日本人にはなじみの薄い国だが、ベラルーシは近年、中国とEUを結ぶコンテナ鉄道輸送「中欧班列」の欧州の玄関口として物流業界では注目を集めつつある。中国の経済圏構想「一帯一路」の沿線に位置し、中国から地続きという地の利を生かし、2017年11月には中国地場ブランド首位の吉利汽車(ジーリー)の生産拠点が稼働した。人口1,000万人弱の国で、吉利はどんな戦略を描いているのか。現地を訪問した。(文・写真=NNA東京編集部 遠藤堂太)

フレームとボディーを組み立てする工程。フレームを運ぶ台車は全自動運転で制御。女性は品質検査要員で、携帯端末を使って作業していた

フレームとボディーを組み立てする工程。フレームを運ぶ台車は全自動運転で制御。女性は品質検査要員で、携帯端末を使って作業していた

首都ミンスクから田園地帯を1時間以上走ると吉利の合弁法人、ベルジーの工場が見えてくる。ロシア首都モスクワ―ポーランド首都ワルシャワ間1,260キロメートルのちょうど中間に位置する。

工場内の生産設備はピカピカで真新しく、アジアにある日本メーカーの工場よりも自動化が進んでいるのは一目瞭然だ。中国の美的集団(ミデア)に買収されたドイツ・クーカの溶接ロボットや搬送ロボットなど最新鋭の設備の展示場のようだ。

生産ラインに入っているのはベラルーシ人。ただ工員を観察すると、手待ち時間が長く、従業員教育と生産性向上が課題のようだ。工員の平均賃金は月700米ドル(約7万4,000円)程度。

広報担当者によると、ベラルーシの労働人口が少ないことを考慮して、省力化された工場を設計した。夜勤はなく、ほぼ1直体制で工場・本社の勤務者は1,100~1,200人。自動化率と、生産2万台という規模を勘案すると多いかもしれない。中国人は数十人だという。

最新鋭の自動化設備が導入されている。工員の賃金は約700米ドル。期間工が多い

最新鋭の自動化設備が導入されている。工員の賃金は約700米ドル。期間工が多い

工場には鉄道の引き込み線もある。「中国海運」「東風」と書かれたコンテナが貨車から降ろされていた

工場には鉄道の引き込み線もある。「中国海運」「東風」と書かれたコンテナが貨車から降ろされていた

ロシア向けに加え将来はEU向け完成車の鉄道輸送も計画。積み込み所も整備した

ロシア向けに加え将来はEU向け完成車の鉄道輸送も計画。積み込み所も整備した

■イメージをどう高めるか

スポーツタイプ多目的車(SUV)「アトラス」の価格は約1万5,000米ドル。中国で昨年25万台以上を売り上げた「博越」に相当し、価格は中国よりも1割高い計算だ。しかし、ベラルーシで売られている欧州メーカーのSUV(2万米ドル以上)に比べれば安い。

ベルジーはベラルーシ唯一ともいえる乗用車メーカーだ。広報担当者は、「以前の中国ブランドは品質が悪いイメージがあった。しかし、今では違う」「強みは品質と価格のバランスが良いことだ」と胸を張り、「フランスのルノーがライバル」と言い切った。

ミンスクから工場までチャーターした車の運転手は、「アトラスに試乗したことがある。乗り心地や装備は良かった」と話す。しかし、「ドイツブランドに比べ格段に安いが、中古車として売る際の下取り価格も安いだろう」「中国車は安心できないイメージだ。吉利以外のメーカーでは、さび付いた部品を使っているうわさもある」と話す。「ベラルーシ人が長年親しんできた欧州や日本ブランド輸入車のような信頼を得ることができるのか。評価が定まるのには数年かかる」と指摘する。

■部品、中国から鉄道で

ベラルーシはトラクターや商用車の生産が旧ソ連時代から盛んだ。このため、ベルジーの部品の現地調達率は50%以上にも達するが、残りは中国から輸入している。1年前は海上輸送がほとんどだったが、今では鉄道輸送がメインだという。ブロックトレイン(ベルジー向けの専用コンテナ列車)を含め週2~3便が最速13日間で中国から運行されている。

完成車のロシア向け輸出は今後、トラックから鉄道に切り替える計画だ。広報担当者は、「ユーラシア経済連合(EAEU)加盟国として無関税で輸出入できるロシアやカザフスタンだけではなく、(関税のかかる)EUへも輸出したい」と意気込む。

完成車のヤード。検査で不適格となった車両も約30台並んでいた

完成車のヤード。検査で不適格となった車両も約30台並んでいた

ミンスク近郊には、中国の経済圏構想「一帯一路」事業として昨年完成した「グレート・ストーン工業団地」がある。入居企業55社のうち、製造やソフト開発の中国企業が半数以上を占める。ベラルーシの安い労働力を活用しながら、欧州やロシアへの輸出拠点と位置付ける。

欧州最大の内陸港で、「中欧班列」の終着駅の一つとなっているドイツのデュイスポート(デュイスブルグ港)社も同団地に物流拠点開設の検討を開始した。

欧州の玄関口としてベラルーシに目を付けた吉利の先見性は良い。あとは、どう市場の信頼を勝ち取り、従業員の水準を底上げしながら競争力を高めていくか。国外に活路を見出そうとする中国自動車メーカーの真価がまさに問われている。

ベラルーシ国立大学日本語学科のアリエワ・エミリアさん(左)とアンナ・ピンチュクさん。「日本企業の進出が少なく、中国語学科に比べて就職は不利」と話す

ベラルーシ国立大学日本語学科のアリエワ・エミリアさん(左)とアンナ・ピンチュクさん。「日本企業の進出が少なく、中国語学科に比べて就職は不利」と話す

<ベルジー(BELGEE)>

吉利汽車のベラルーシ合弁「ベルジー」の本社工場

吉利汽車のベラルーシ合弁「ベルジー」の本社工場

ベラルーシ国営ダンプトラックメーカーのベラーズが51%、浙江吉利控股集団子会社の吉利汽車が34%を出資し、2015年3月に着工、17年11月に生産を開始した。

首都ミンスク北西70キロのボリソフに、3億3,000万米ドル(約360億円)を投じた工場の敷地面積は118ヘクタール。年産能力は6万台だが、12万台までの拡張が可能だ。

18年は約1万台を生産し、国内向けよりもロシア向け輸出が多かった。19年7月時点で月間約1,500台のペースで生産しており、19年は国内販売を強化しながら2万台超えの生産を狙う。

※特集「アジアを走れ、次世代モビリティー」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2019年9月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 中国日本欧州
関連業種: 自動車・二輪車運輸

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