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第3代大統領のハビビ氏死去 独裁政権から民主化へ移行を実現

インドネシアの第3代大統領のバハルディン・ユスフ・ハビビ氏が11日午後6時過ぎ、ジャカルタ市内の入院先の病院で合併症などにより死去した。83歳だった。

1998年アジア通貨危機による経済的混乱とそれに伴う学生らを中心にした民主化要求という大きなうねりの中で32年間続いたスハルト長期独裁政権が崩壊し、副大統領から昇格したハビビ大統領。その約500日間の在任期間は「スハルト亜流」との批判をはね返すためにも民主化を急速に進めることで今日のインドネシアにつながる民主国家の基礎を築くことに全精力が注がれた。(特別寄稿=大塚智彦)

12日に埋葬されたハビビ氏(アンタラ通信)

12日に埋葬されたハビビ氏(アンタラ通信)

ポスト・スハルトの大統領候補を評して次のような表現がインドネシア人マスコミの間で伝えられている。「人の話を聞かないメガワティ、人を見ないワヒド」そして「人に話をさせないハビビ」。ハビビ氏とは大統領時代に2度インタビューしたことがある。単独会見と訪日前の日本メディアとの合同会見だが、いずれもとにかくよく話をし、質問一つ一つに対する回答が思いのほか長く、用意した質問の半分も終わらないうちに制限時間が来てしまった。

このようにとにかく丁寧に分かりやすく説明するという科学者としての姿勢は会見だけでなく、議会演説や交渉事でも徹底しており「人に話す暇も与えずに持論を展開し、理解を得る」といういい意味での評価だった。

ドイツで航空工学の博士号を取り、独航空機メーカー「メッサーシュミット」の技術応用部長を務めるなど理科系の頭脳明晰(めいせき)なデータマンで、記者の質問に対して細かい数字やデータ、あらゆる見方、国際世論そして持論を交えて回答するので、聞き手の勉強不足が恥ずかしくなるほどだった。

それは「マスコミによる歴代大統領の国家機密」というもう一つの冗談にも表れている。「スカルノは愛人の数、スハルトは蓄財額、ワヒドは視力、メガワティは体重」そしてハビビ大統領は「知能指数(IQ)」というものであり、そのとび抜けた知能はインドネシア初の国産航空機計画などに注ぎ込まれ、インドネシアの技術分野にも大きな貢献を果たした。

■政治的素人の誤算、東ティモール問題

民主化要求の流れの中で政治犯釈放、政党結成の自由化、言論の自由、汚職腐敗の排除など次々と打ち出した大統領時代の政策はスハルト亜流との批判を覆すためだけではなく、科学者としての合理的、理性的判断によるところが多かった。

しかし長年武装闘争が続いていた東ティモールの独立を問う住民投票の実施を認めたことは、政治家としてさらに軍や既成権力構造の影響を受けない理想家として「判断を誤った」と批判を受けることになる。後日談ではハビビ大統領は「東ティモール人の多数はインドネシアからの独立を望まない」と完全に情勢を読み誤った。東ティモールは2002年独立を果たす。

ハビビ氏死去のニュースが流れる中、東ティモール人記者から「独立の道筋をつけてくれたことに感謝する」と伝言が届いたように東ティモールでのハビビ氏の評価は高いが、軍や旧体制の政治家などからは「(独立で)国土や権益が失われ、血を流した兵士の努力が無に帰した」と批判を浴びる結果となった。

■愛妻家で妻の横に自分の墓を用意

大統領を退任後のハビビ氏はシンクタンクを創設するとともに「長老格」の政界ご意見番として活躍。愛妻アイヌン夫人との仲むつまじさが著書「ハビビとアイヌン、大統領になった天才エンジニア、夫婦愛の半世紀(邦題)」や映画化で有名となった。

10年に死去したアイヌン夫人の墓はカリバタの英雄墓地内にあり、ハビビ氏がたびたび墓参りしては墓前で物思いにふけったり語りかけたりする様子が目撃されている。

12日、バビビ氏はアイヌン夫人の横にかねてから「自分の墓はここに」として確保していた場所で永遠の眠りについた。愛するアイヌン夫人の傍らで。

インドネシア史の転換点で短期間ながら重要な役割を果たして民主化の流れを方向づけ、大事な一歩を踏み出させたハビビ元大統領の功績は大きいといえるだろう。合掌。

<筆者紹介>

1957年東京生まれ。84年毎日新聞社入社、外信部などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、東京社会部防衛省担当などを歴任。14年からPan Asia News所属フリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。現在ジャカルタ在住。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道――ジャカルタ報道2000日」(小学館)など。


関連国・地域: インドネシア
関連業種: 政治

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