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【アジアで会う】中村八千代さん ユニカセ創設者 第264回 貧困救うレストラン(フィリピン)

なかむら・やちよ 1969年東京生まれ。明治大学商学部卒業後、カナダに留学。帰国後、父親の会社が倒産した影響で自身も4億円の借金を背負うことに。借金返済後、2006年に途上国の恵まれない子どもたちを支援する非政府組織(NGO)「国境なき子どもたち」の派遣員としてフィリピンに赴任。10年に社会的企業「ユニカセ・コーポレーション」を創設、貧困層の青少年の雇用機会創出を目的としたレストランをオープンした。

「ユニカセ・レストラン」は、マニラ首都圏マカティ市北部の騒々しい場所から離れた住宅街にある。15種類以上の野菜が並ぶサラダバーや豚肉の生姜焼きが人気メニューだ。午後7時を過ぎれば、駐在員や日本人留学生、健康志向のフィリピン人で賑わう。

今月、開店から10年目を迎えた。3日に開催した9周年記念パーティーには、在留邦人や日本から来た非営利団体(NPO)スタッフ、元従業員のフィリピン人青年など約70人が集まった。

会場の片隅でパーティーを見守るのが、店の創業者、中村八千代さん。9年前、貧困層の青少年の雇用を創出することを目的にユニカセを設立した。「3年くらいで終わるつもりだったが、子どもたちの成長を見ていたらここまで走り続けてしまった」

■お金ではなく、人のために働きたい

カナダ留学から帰国後の26歳のとき、スーパーマーケットや酒類販売店など複数の会社を経営していた父親の会社が一部倒産。その影響で、酒販店の連帯保証人だった自身も、4億円の借金を背負うことになる。商社に就職し海外を飛び回りたかったが、その思いを断ち切った。母親の死と借金地獄で何度も死にたいと思ったが、休む間もなく働き、経営を軌道に乗せていく。

30歳のときに酒販店が黒字に。そのときふと、自分は何のために生きているのか考えた。「お金のためではなく、人のために役に立つ生き方がしたい。社会や家族の犠牲になった人たちの手助けがしたい」と、国際医療援助団体で働き始める。

その後、借金の一部を免除されたこともあり、06年に借金返済が完了。「国境なき子どもたち」を立ち上げた援助団体の同僚に電話をかけると、「フィリピン事務所で働かないか」と声がかかった。一度は諦めた海外勤務の夢が実現した。

■可能性を諦めない

フィリピンの現場では、あるとき、援助していた男の子が病気で亡くなった。数十万円の治療費さえあれば助かる命だったが、救うことができなかった。「それまで多くの理不尽な目に遭ってきたが、それ以上の悔しさだった」

一方で、支援慣れする青少年たちも嫌というほど見た。20歳を過ぎた青年が、「今度は何をくれるの?」と平気でねだる。仕事に就かず、始めてもすぐに辞める。ひどい場合はギャンブルや麻薬にはまる。13歳で妊娠し、育児放棄する女の子もいた。「貧困に陥る負の連鎖を断ち切るためになんとかしたい」という思いが沸いた。

目指したのは、生きていくための自立を促すこと。10年8月に、健康に特化したフードレストランをオープンし、貧困層出身の青少年を雇用した。自信を持って仕事をし、自分の力で生活することに誇りを持つよう促した。その結果、従業員たちが新しいステージに進み、周囲のロールモデルとなっていく。その過程を支えたいと思った。

レストランでは、手洗いの徹底からマネジメントや調理、接客まで全てを現地人スタッフに任せている。さらに、店内におみやげコーナーを設置し、商品開発や原価計算までをスタッフ自身に管理させている。レストランの仕事は固定給だが、開発した商品の売り上げは個人にボーナスとして支給する。成果主義の仕組みを確立し、スタッフの意欲を高めている。

■情報発信、これまで以上に

創業10年目の今年は、新たな節目の年になりそうだ。今や右腕にまで成長した現地人スタッフをマネジャーに据え、レストランの現場を若手に任せる構想を描いている。

余った時間は、数年前から始めた貧困地域での食育指導や、日本での講演活動などの情報発信に、これまで以上に力を注いでいきたいとの思いがある。既に年間1,000人以上に体験談を語っている。

フランチャイズを勧められたこともあるが、事業拡大は考えていない。ユニカセで働いた従業員一人一人が、貧困から脱したモデルケースとなり、その輪が広がっていくことを願っている。(フィリピン版編集・中西めぐみ)


関連国・地域: フィリピン日本
関連業種: 雇用・労務社会・事件

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