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【特別企画】日豪のM&Aを語ろう(下) 買収後の統合はどうする?

【NNA・西原】買収後の統合プロセス(PMI)に関して、失敗したM&Aだとやゆされるケースがあります。それはどういう理由が背景にあるのでしょうか。

【RBG・松田】買収が失敗か成功か言えるのは、バイヤー企業だけで、外から見てもなかなか分からないのではないでしょうか。いろいろ戦略もあるでしょうし。

【クレイトンユッツ・加納】どのスパンで成功や失敗を判断するのかがまずありますよね。買収直後に減損を出したら全てが失敗かというと、長期的な戦略やビジョンの上でどう位置付けるかというところで考えると必ずしも失敗じゃないケースもあると思います。ただ、失敗したと言われるほとんどのケースは人間関係に問題があったケースだと思います。結局は人が動かしているので。いかに買収した会社の経営陣に自分たちのビジョンを説明して管理するかという問題です。

先ほどのコミュニケーションの話に繋がりますが、「本社のトップがどう伝えるか」という問題は大きいと思います。よく見られるのが、トップの方があまり出て来ないケースです。管理で駐在に来ている人は優秀な中堅の方が多いと思いますが、権限がなければビジョンを語ることも難しいのではないでしょうか。つまり、限られた権限や責任の中でベストを尽くされていると思いますが、やはり本社トップとの微妙な温度差があって伝言ゲームになってしまう。日本企業に買われて100%子会社になったけれど、日本の本社は何を考えているかよく分からない状況だと、管理も難しいですよね。しかし、本社のトップが来ると、オーストラリアの社員たちに何を頑張ってもらうかといったメッセージを伝えることができます。

【グラントソントン・荒川】日系企業でそれを実行して、成功している会社はちゃんとできていますよね。

【松田】PMIでは商業面と文化面があると思います。「Don't leave any stones unturned(隅々まで調べろ)」と言われますが、M&Aプロセスと買収後に「聖域」を作らないことと、利益相反を極力避け、発生したら放置せずクリアにすること。これらをおろそかにするとじわじわと文化や経営判断に影を落とし、労務問題、取引先との関係悪化に繋がっていく気がします。

M&A買収プロセスは、企画・マッピング、デューデリジェンス(DD、資産査定)・契約交渉、PMIと、大まかに3段階に分けられますが、それぞれ目的も方法論も異なります。そこで私は中小企業を対象に、プレDD段階をあえてひと区切りにした検討会を提案しています。

具体的には弁護士、会計士を含め、バイヤー側の関係者が一堂に会して全情報を開示し、タームシートにあることだけでなく、次のDD段階、PMI後のオペレーションで聖域や利益相反関係を作らない仕組み作りを徹底的に検討しようというものです。PMIでのガバナンスの効いた企業文化の基礎作りは、まず企画・マッピング段階からと考えています。

クレイトンユッツの加納氏(右)とグラントソントンの荒川氏

クレイトンユッツの加納氏(右)とグラントソントンの荒川氏

【西原】リーガルは通常最後の段階で関わりますが、最初の段階から関わるべきということですね。

【松田】そうですね。DD段階でリーガルアドバイザーを起用するのは遅きに失するのではないかと。

【荒川】弊社では「カルチュラルDD」というのをやっています。PMIは、デイ1からというイメージがありますが、それでは遅すぎで、ラッシュでやる感じだと思います。それをやらない日系企業が多すぎる気がします。弊社では企業文化的なブリッジを作りましょうと言っています。本社とのブリッジ、プロジェクトチームとローカルマネジメントのブリッジを確保しなければいけないので、その対策ができていない段階で買ってしまうと問題が起きる気がします。カルチュラルDDをすることで、意思決定のプロセス、国ごと、企業文化の理解ですね。先ほどの加納さんの「国際結婚」で例えると、お互い性格も知らないのに、クレジットカードの明細や家計簿だけを見せて、では結婚しましょうなんてあり得ませんよね(笑)。

【HSF・イアン】3点いいですか。買収が成功か失敗かについてですが、日本企業は減損すると利益から引かれるので、減損かどうかを気にします。例えば資源関係は波があるので、非資金調整項目です。EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)ではなく、まだ日本の本社は残念ながら利益についてこだわりすぎます。

2番目、文化は大事ですけれども、日本側からはっきりと戦略を説明しないことがあります。私の経験では、オーストラリアのある大手企業を買ったケースでは、これからオーストラリアのマネジメントをどうしたいのか、そして日本本社は何をしたいのか。これが右往左往して、戦略に関する明確なビジョンがあまりなかった気がします。

3つ目は、業界が同じだと大体話が通じるということです。別業界を買うと、なかなか話が合わない。戦略を説明しても通じない。我々の25年間の経験から言っても、成功した件は大体同じ業界での案件が多い印象です。

【西原】日本では、トップが何を考えているか分からない、という状況でも従業員は一生懸命働く企業文化ですが、オーストラリア人は、従業員がトップのビジョンを知りたいという文化があるわけですね。

【イアン】そうですね。下の人たちはそのビジョンに納得した上で行動します。

【松田】トップのビジョンはきっちり伝えて、組織のヒエラルキーの中では個々のマネジャーが部下に方向性をはっきり示すことが重要ですね。オーストラリア人は、職場にあっても会社軸ではなく個人軸で考えているので、雇用契約の下での自分の役割を果たす「個人」と捉えるのが適切かと思います。

【加納】海外M&Aですべて成功していると言われる日本電産の永守重信会長は「日本人はPMIはできない」と断言されています。ではどうやって買収を成功させているかというと、株主として管理するのだと。日本人が現地の社長になってPMIをやって経営をやっても、言葉も違う、文化も違う、技能も違うのでできない。米国や欧州を見ても、成功している企業で日本人がトップに立っている企業は一つもない、と言われています。もっとも永守会長は、株主として関与するというスタンスが大切だと言っていながら、実際には買収した会社に自ら足を運んでいます。現地の幹部と会って納得いくまで話をして、何をして欲しいのか、ビジョンを自分の口から伝えるというのです。買収した全ての会社でやっていると言っていました。

【松田】現地法人の社長を日本人にすべきか現地の人にすべきかというアプローチの議論には、私はついていけません。ポイントは、本社の意向で買収先の会社がコントロールできる仕組み、ガバナンス体制をどう作るか、どう実施していくかということですから。

【イアン】「コントロール」より「エンパワー(権限付与)」だと感じます。現地のマネジャーにエンパワーするべきで、コーポレートガバナンスのセッティングも大事だと思います。そうでないと、日本の本社からも、現地で何をしているか分からないし、情報をもらっても判断ができないと思います。

【西原】日本独特の村社会のような企業文化の特徴というのは、政治や外交を見ていてもそうですし、英語やスピーチが苦手でシャイで、といった日本人論に行きつく気がします。それはオーストラリア人から見てどうですか?

【イアン】言語は大事ですけど、それより一番難しいと思うのは、東京本社から駐在で買収した現地企業に何人か代表者として来ているのに、実際の仕事がないケースです。役割がないと意味がありません。うまくいっているPMIは、日本人が最高財務責任者(CFO)や技術開発担当部長とか、本当に意味がある仕事に就いているケースです。そういったケースではオーストラリアのスタッフと毎日コミュニケーションをすれば自然にうまくいくと思います。

【西原】オーストラリア側の幹部たちはそういう目で見ていますか。

【イアン】はい。可哀そうだと見ているケースもあります。本社では偉い人かもしれませんが、毎日やることがないのですから。

【松田】そのことも買収した企業の文化に関連すると思います。報酬がずさんに支払われれば、その会社のコストに対する感覚が社内外で疑われるし、メリハリの効かない企業文化が醸成されます。

【イアン】話は変わりますが、企業の「長期戦略」について、オーストラリア側と、日本側のそれぞれのイメージは、天地の差があるのです。交渉プロセスで、オーストラリア企業は私に「なぜ日本側はこんなことを聞いてくるんだ?」「なぜその情報が欲しいのか?」などと聞いてくることがあります。しかし結局、日本企業と合弁を組んでみると、ああなるほどそういうことだったのか、とようやく分かるようになるのです。「日本人の長期は30~40年後、オーストラリア人の長期は今週末」というジョークがあります。他国と比べて、日本人は戦略計画を立てるのが好きで得意なのです。だからこそ、オーストラリア企業にとって、日本企業と組むことが非常にプラスに働くのです。

HSFのイアン・ウイリアムス氏(右)とRBGの松田氏

HSFのイアン・ウイリアムス氏(右)とRBGの松田氏

【荒川】日本の素晴らしいところはたくさんあります。その長所を最大に生かすために日本人にはもっと柔軟になって欲しいと思います。リスクを発見してつぶす力、プロトタイプをいくつか作って失敗したら次に行こうといったエンジニアリング精神もあります。ただ、日本から離れて住んでいるから分かるのですが、日本国内から日本中心に世界を見ていると日本の良さをはっきり言えないところがあります。多くのM&Aを通して、多文化の交渉の過程で、日本や、日本人としての自分自身のことを発見することもあります。グローバル化という言葉がよく使われますが、M&Aはとても効果的だと思います。オーストラリア人は日本の文化が好きと言ってくれる人はたくさんいる。協調性のある、摩擦を望まない人種なので、株主としての管理もそうですが、イアンさんがおっしゃったように、ビジョンを共有した上で、勇気を持って権限を与えていいと思います。

【松田】オーストラリア人は、対人関係で「良い距離」を置くのが上手ですよね。でも日本人は一旦壁を越えるとウエットになるというか、買収が完了するとつい「我が社の社員」扱いになって気が緩む傾向があるように見えます。グローバル化を言うなら、内外の人間関係の中で、適切な信頼関係と緊張関係の共存が重要です。

【西原】永守会長のコメントの一方で、できれば現地の日本人トップにも頑張って欲しいところなのですが、日本企業内では適材適所になっていないのでしょうか。外国向きの日本人もいると思いますが。

【荒川】私は米国の学生時代に日本の商社にあこがれていたんですが、日本の大学を卒業していないので面接機会も無かったんです。今は受け入れ体制も変わっていて、帰国子女も多くなり外国人も入社しているので、彼らが部長になるとか海外でローカルマネジメントするとなると、15年ぐらいはかかるのかなと思います。M&Aだけでなく、内部からも経験と知見を増やしていって欲しいですね。

【加納】人材の育成についてですが、M&Aは5年も10年も待ってくれません。例えば、M&Aを含む海外事業推進を中期経営目標の中核に据えたとして、そこから英語の出来る帰国子女を新規に採用して育てていくって現実的ではないですよね。

もっとも、組織の問題と比べると人の問題は比較的すぐ解決できる手段はいくつかあると思います。最近関与したM&Aで、日本側で随分とM&Aのことが分かる人がいるなと思ったら、元々投資銀行でM&Aをやっていた方でした。その日本企業がM&Aに力を入れようと戦略を考え、人材を確保しようという時に、クロスボーダーのM&Aを10年以上やった経験者を投資銀行から何人か雇って、M&Aチームを作ったのだそうです。人材面でひとつの策になると思います。

【イアン】日本のグローバルカンパニーは、世界で100社以上の子会社を持っていたりします。大きな問題は、資本はチャンスがある所にすぐ流せますが、人材は遅いのです。一番頭が切れる人は皆米国で勉強したいし、卒業後も米国で働きたい。才能がある外国人は日本に来ないし、日本の大手企業もそれらの人材を採用したくないし、終身雇用で年功序列。法律事務所の場合は年功序列でいいんですが(笑)。

【西原】英国企業の笑い話ですが、英国人ビジネスマンが日本に駐在すると、彼は日本人的になって帰ってくる。ところが、その英国本社で働く日本人駐在員は日本人的なままだと。いかに「日本人的」が強固かと(苦笑)。

【イアン】あと日本から駐在員としては来るんですけど、逆は非常に少ない。本社の考え方を学ぶのが大事なのに。オーストラリア人従業員は、本社駐在でたくさん時間を過ごさないと人脈を作れないと思います。いつも駐在員を通じて、本社に連絡しています。日本人は「我々の会社組織は外国人には分かりづらい」と言いますが、そんなに分かりづらくはないと思います。

【加納】PMIで成功している企業は日豪間の行き来が多いですよね。オーストラリア側の幹部を日本に呼ぶとか、そういう企業はうまくいっていると思います。直接会う機会を四半期ごとに設けるとか。

【西原】確かにオーストラリア人が日本に転勤してもいいはずですよね。

【松田】買収後20年を過ぎた今も、当初の定款通り年4回日豪交互の会場で定期取締役会を開催する、毎回取締役以外の社員の相互訪問を盛り込むといった工夫を続けている日本の会社の例があります。

【イアン】それに、オーストラリアの現法社長ではなく、インターナショナル・アドバイザリー・ボードという形態も魅力的です。第一生命はシンガポールで、傘下の豪保険TALのミント社長がその組織のメンバーになりました。少しずつ良い方向に向かっています。

「日豪のM&Aはまだ創世記」――。今後はさらに増えていくと語る4氏

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【西原】最後に、オーストラリアのM&A市場では今後どの州、どの産業が有望でしょうか。

【加納】まず産業分野に関しては、金融資産運用、ヘルスケア、スタートアップや新技術を買うケースは増えてくると思います。あとは再生可能エネルギー、アグリビジネスも有望だと思います。M&A全体を長い目で見るとまだ創世記です。日本の人口減少とか市場縮小を考えると、海外向けのM&Aは増えていくと思います。

最後に、組織や人の問題もありますが、事業は人でやっているので、信頼関係などを買収の前の交渉段階からPMIにつなげていくのが大事だと思います。PMIでは、日本のトップが来て、中に踏み込んでいくというスタンスが大切だと思います。溝があるなら埋めていくしかないわけで、どんどん失敗しながらも、入っていけばそれを受容してくれるおおらかさがオーストラリアにはあります。そこが米国や欧州とは違う良さですね。日本は完璧にしなきゃという教育なので、つい構えてしまうのだと思いますが、やっぱり違う文化の会社を買うのだから、もっと飛び込んでいったらいいと思います。

【荒川】エンジニアリングは人気が下がらないと思います。メルボルンはインフラ投資を州政府がコミットしていますし、シドニー第2空港もそうですし、クイーンズランド、アデレードもやりたいと思っているかもしれません。エンジニアリング分野では大企業と小企業に分かれていて、小企業は大型プロジェクトを実施する資金繰りから、パートナーシップを日本企業と築きたいと思っているところはあります。食品・飲料、農業はもう少し川下の企業が出てくる気がします。

それと最後に、私は5つのCが大事だと思っています。「Communication(交流)」「Chemistry(相性)」「Courage(勇気)」「Commitment(責任)」「Culture(文化)」。これは、オーストラリアの現法カルチャーを改善した日本人社長の「Walk to talk」モットーにも見られます。例えばオフィスにいる人にメールをする代わりに、実際に行って話したそうです。このような小さな行いから、5Cが実現されると思います。

【イアン】これからTOB(株式公開買い付け)は増えると思います。オーストラリアには「スキーム・オブ・アレンジメント」という制度があり、決まった予算で、フレンドリーに、交渉のような形でTOBを実行できるのです。上場企業に限らず、TOB案件はこれからたくさん出てくると思います。

【松田】オーストラリア全土、あらゆる業界にチャンスがあるのではないでしょうか。ただ最後は何と言ってもガバナンスの問題なので、しっかりした将来を見据えたM&Aプロセスの重要性を強調したいですね。(了)


関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: マクロ・統計・その他経済

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