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【アジアインタビュー】 中国人富裕層を取り込め、多様化するインバウンド消費

大型連休真っ只中の日本。有名観光地では過剰な観光客が押し寄せる「オーバーツーリズム」が問題化しつつある中、批判の矛先は多数を占める中国人に向きがちだ。だが、観光立国としてインバウンド消費の拡大を目指す上で、中国人観光客の存在は欠かせない。中国人の生活者行動分析やマーケティングを専門とする三菱総合研究所の劉瀟瀟研究員は、「一部の中国人のマナーの悪さが実際以上に伝えられ、訪日中国人に対するネガティブな印象がステレオタイプ化している」と指摘。富裕層を中心に、多様化するインバウンド消費の取り込みの重要性を訴えている。

中国人をはじめ多くの外国人旅行者が訪れる東京・銀座(NNA撮影)

中国人をはじめ多くの外国人旅行者が訪れる東京・銀座(NNA撮影)

――一口に中国人富裕層といっても、そのバックグラウンドはさまざまのようですね。

中国富裕層に詳しい胡潤研究院は、600万人民元(約1億円)以上の流動資産を持つ中国人富裕層は、2018年時点で約229万5,000世帯と推計しています。富裕層の多くは、1978年に始まった「改革開放政策」の下で事業を起こして成功した人たちです。一代で財を築いた人たちは「富一代」、その子供たちは「富二代」と呼ばれています。

富一代がどのような事業で成功したかはさまざまで、農業、不動産、製造業、貿易、金融、教育など多岐にわたります。最近ではアニメーション制作や芸能、エンターテインメントなどで富裕層に仲間入りした人も増えています。

改革開放政策が沿海部から始まったこともあり、当初は大都市の上海、広州、北京などの出身が多かったのですが、近年は内陸部でも富裕層が増えています。

富裕層には業種や出身地での共通項はありませんが、自営業で成功した人たちであることは共通しています。

■成金・どら息子・洗練された実業家…

──中国の富裕層を「成金」とみて、あまり良い印象を持たない日本人もいますが、実態はどうなのでしょうか。

富一代には、洗練されておらず、自分にお金があることを必要以上にひけらかす人たちがいることは事実です。いわゆる成金のイメージに当てはまる人たちで、中国国内では「暴発戸」や「土豪」と呼ばれています。

こうした人々は、観光で日本を訪れた際、ブランド品や富裕層としての自分のメンツが立つお土産を「爆買い」します。歴史や文化への興味というより、買い物や高級な食事を目的に来る人が多いです。百貨店や料理店などでは大声を出すなどのマナー違反を店員などにたしなめられ、「日本は息苦しい」と感じ、訪日観光客としてはあまりリピーターにはなりづらいのも特徴です。

これらの人々の爆買いやマナーの悪さが目立つため、中国人観光客全体のイメージを悪くしていますが、富一代はそうした人たちばかりではありません。教養があり、ゼロから努力して成功した実業家もいます。中国電子商取引(EC)最大手、アリババグループ(阿里巴巴集団)の馬雲(ジャック・マー)会長やスマートフォン世界大手の小米科技(シャオミ)の雷軍(レイ・ジュン)最高経営責任者(CEO)らがその代表です。私はこうした人々を「奮一代(努力して富を築いた人々)」と呼んでいます。暴発戸・土豪と奮一代では、訪日の際の行動パターンもまったく異なります。奮一代は、日本には家族旅行で訪れることが多く、観光に加えて、ビジネスセミナーに参加するなど、自らのビジネスにつながることを目指す行動も積極的に取ります。

■コト消費が盛んな「頑張る二代」

――富二代についても分類されていますね。

富二代は富一代の子どもたちですが、親の資産に依存し、ぜいたくな生活を送っている人たちは「がん(糸へんに丸)袴子弟」と呼ばれています。「がん袴」は、貴族の子弟が着用した袴を意味しますが、がん袴子弟とは日本で俗に「どら息子」と呼ばれる人たちです。

富一代に暴発戸・土豪と奮一代がいるように、富二代もどら息子ばかりではありません。裕福な家庭でエリート教育を受けて育ち、家業の拡大に参画したり、自らも努力して新天地を開拓する若者がおり、こうした人々を私は「奮二代」と呼んでいます。

富二代の人々は、総じて日本を好み、よく訪れる人が多いですが、訪日の際の行動パターンには違いがみられます。がん袴子弟は、大都市のブランド旗艦店などをめぐり、数百万円のジュエリーを購入するなど大金を使います。有名人が紹介した限定アイテムなどに目がないのも特徴です。

これに対し、奮二代は、高級レストランや百貨店にも行きますが、大都市以外の地方を訪れたり、こだわりのお土産を購入したりすることが多いです。いわゆるコト消費を好むのも奮二代の特徴で、例えば20歳の記念に日本の振袖の着付けをしたり、陶芸や料理のプライベートレクチャーを受けたりします。

■ストーリー性のあるお菓子が人気

――訪日中国人富裕層の買い物行動についてもう少し聞かせてください。

自営業の人々が多いので、家族や友達以外に、得意先へのお土産の購入も目立ちます。自分のメンツが立つものであれば、必ずしもブランド品や高級品ばかりとも限りません。例えば、お菓子は大きさや量、見た目の高級感が人気の鍵です。お菓子では北海道限定の「白い恋人」や「じゃがポックル」のほか、「ロイズ」「キットカット抹茶味」などに人気があります。中国人にとって商品名を覚えやすく、「地域限定」や「有名人おすすめ」など、商品にストーリー性があることが共通しています。

健康意識の高い人向けのお土産として、しょうゆやみそ、食塩などの調味料を大量に購入する人も増えています。また、100円ショップの商品も人気で、例えば「キャラ弁」(弁当の中身を漫画のキャラクターなどに模した弁当)を作る際に使われる型抜きをお土産にする人も多いです。日本ではなく、米国での話ですが、本国へのお土産としてコンテナ1台分の日用品を購入して中国に送る富裕層もいます。

お菓子や日用品などは、富裕層以外の一般の中国人でも購入できるものですが、富裕層が購入することで、「お金持ちが買っているものと同じものがほしい」という心理を生み、富裕層以外の購入に拍車をかけています。

■日本の人気度はアフリカ以下

――中国人富裕層にとって、観光目的地としての日本はどんな位置づけですか。

胡潤研究院などが平均資産2,000万人民元の富裕層236人を対象に行った調査によると、海外旅行頻度は平均年3回です。人気の渡航先は、欧州、米州、アフリカ、東南アジア・南アジアと続き、日本・韓国は5位でした。中国人富裕層は、日本に好感を持っていますが、観光地としての日本はあくまで「One of them(選択肢の一つ)」であり、韓国とセットで扱われる渡航先です。

一方で、中国人にとって欧米やアフリカへの旅行は異文化への「冒険」の感覚ですが、文化的に近い日本に親近感を持つ富裕層も多いです。中国の都市は人口が過密で、交通渋滞や大気汚染が深刻ですが、日本人の暮らしぶりは「高額所得者でない普通の人々が、大金を使わずに上質な暮らしをしている」と映っています。

また、日本のアニメを見て育った富二代にとって、訪日には「聖地巡礼」のような意味もあります。「名探偵コナン」や「スラムダンク」などが人気で、こうした作品にゆかりのある地方を訪れる若者も増えています。

■先入観克服へ的確な分析が不可欠

――訪日中国人富裕層の取り込みに必要なのは何でしょうか。

2018年の訪日外国人旅行消費額は4兆5,064億円で、うち中国人が1兆5,370億円で全体の34.1%を占めました。訪日中国人1人当たりの旅行支出は22万3,460円で、オーストラリア、スペイン、イタリアに次ぐ4位です。ただし、中国人訪日者数は全体の20.8%を占めるため、国・地域別の旅行消費額は断トツの首位です。

日本のインバウンド消費額を増加させる上で、訪日中国人の役割は非常に大きいといえます。にもかかわらず、日本では「マナーが悪い」といったステレオタイプのイメージが定着しているように見えます。食べることが大好きな中国人ですが、日本のレストランの店員などの対応に不満を持つ旅行者は多いです。私自身の経験でも、予約を入れようとしたら、中国人というだけで断られたことがあります。

日本では、訪日中国人富裕層への理解が不十分で、あまり重視されず、対応も不十分です。先ほど挙げた暴発戸・土豪や奮一代、がん袴子弟、奮二代をみても、それぞれ訪日の際の行動パターンや消費の好みは異なります。富裕層のニーズを的確に取り込むためには、より詳細な分析と分類ごとの戦略を立てることが大切です。

また、日本人の経営者の中には中国人に対するネガティブなイメージから脱却できず、むざむざ商機を逃しているケースもあります。中国人に偏見を持たない若い世代が先頭に立って、戦略を立てることも必要かもしれません。

<プロフィル>

劉瀟瀟(りゅう・しょうしょう)

三菱総合研究所プラチナ社会センター兼地域創生事業本部地域づくり戦略グループ研究員。北京市生まれ。外交学院(中国外務省の大学)卒業。みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)に入行。その後、東京大学大学院修士課程修了。三菱総合研究所入社

※「アジアインタビュー」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2019年5月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 中国-全国日本
関連業種: 小売り・卸売り観光

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