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【プロの眼】感染症流行とパニック

渡航メンタルヘルスのプロ 勝田吉彰(2)

連載2回目は、感染症流行とパニックについてお話ししましょう。海外赴任中に、これまで聞いたこともない感染症が現地で流行しはじめた・・・ということが、平成半ばから毎年のように発生しています。そして日本国内においても「〇〇病が日本に上陸する恐怖」がマスメディアで取り上げられ、テレビには“最後の砦”と言わんばかりに空港検疫所や感染症指定病院の隔離病床の画像が繰り返し流れます。重症急性呼吸器症候群(SARS)、新型インフルエンザ、エボラ熱、中東呼吸器症候群(MERS)、デング熱、ジカ熱、麻疹など、その多くは結局、日本国内では感染者が発生しないか、発生してもごく限られた感染者数で過ぎゆくのですが、海外赴任先がその火元の当事国となることも今や珍しくなくなりつつあります。こうしたなじみのない感染症に触れたとき、現地ではどのような反応が起こるか紹介します。

外国人用SARS患者指定病院となった郵電病院=2003年5月、北京(勝田氏撮影)

外国人用SARS患者指定病院となった郵電病院=2003年5月、北京(勝田氏撮影)

筆者は2003年にSARSが流行したとき、在中国日本国大使館医務官として北京の渦中にいました。当時約8,000人規模だった日本人社会に対するリスクコミュニケーションなどの対処に当たりながら観察したものを「5つのP」としてまとめています。その後のMERSやエボラ熱でも同様の現象が見られています。

このなかで最も厄介だったのがParanoia(妄想症)と名付けた、「事実ではない言説」が巷にあふれかえる状況でした。「道ですれ違っただけで感染する」「〇〇区は患者が多いから近づくな」等々流れました。会員制交流サイト(SNS)が普及した現在では、こうした流言はもっと急速に拡大する、さらに厄介な状況になっています。これらは先が見えない不安・取り扱いが分からない不安からさらに増幅します。このようなときは正しい情報にアクセスすることが何より重要です。通常、現地の日本大使館から情報提供があるはずですが、それ以外に国立感染症研究所ウェブサイト、厚生労働省ウェブサイトにもアクセスしてください。日本語以外では米国や欧州の疾病予防管理センター(CDC)、現地保健当局のウェブサイトも参照してください。

国立感染症研究所(当該疾患の名前をかけて検索すると良いでしょう)

厚生労働省(検疫所 FORTH)

厚生労働省(本省)

米国CDC

欧州CDC

次に、これから社会不安や流言にもつながるような心理的影響を伴う感染症流行には以下のようなものが考えられます。

1)中東呼吸器症候群(MERS)

13年からサウジアラビアはじめ中東諸国中心に感染が持続的に発生している呼吸器感染症で、呼吸器症状とともに下痢を伴うことが多くなっています。コウモリ、ラクダからの感染が想定されており、少数ながらヒトからヒトへの感染も病院内や家庭内接触など限られた状況で発生しています。15年に韓国で感染者が大量発生したことで日本国内でも大きく報道されましたが、これはビジネスパーソンの出張による持ち帰りに端を発するものでした。他にもインドネシア(イスラム教巡礼者による持ち帰り)、フィリピン(中東へ出稼ぎの医療者による持ち帰り)などアジアでも発生しています。

2)鳥インフルエンザ/新型インフルエンザ

本来、鳥の病気である鳥インフルエンザ。そのウイルスには、かつて新型インフルエンザになるのではと話題になったH5N1型、13年から中国で発生し土着化しているH7N9型などがあり、感染鳥類への濃厚接触などで人間に感染することが現時点でも少数あります。また、将来、その遺伝子が変異してヒトからヒトへどんどん感染する能力を獲得すると、(ヒトの病気としての)新型インフルエンザウイルスが発生したといいます。そのような事態では世界保健機関(WHO)から「PHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)」という非常事態宣言が出され、世界的なニュースとなります。

3)侵襲性髄膜炎

髄膜炎菌によって発生する脳神経系の病気でけいれんや意識障害など神経系症状が現われ、後遺症が残り、死亡例もあります。マスギャザリングという、大勢の人間が集まり押し合いへし合いする中で感染拡大することがあり、イスラム教徒によるメッカ巡礼ではそれを想定し、ワクチン接種証明がなければビザを発給しないなどの対策が行われています。

4)麻疹

日本では15年にWHOから麻疹排除認定を受けており、それ以降に発生するものは海外からの輸入例です。ではその“輸入元”はといえば、目立つのがインドネシアとタイ。18年に台湾人観光客が持ち込んだ麻疹が騒動になりましたが、このケースは来日する直前にタイへ旅行していましたので、タイからの持ち込みが疑われています。加えて、フランスやイタリアなど先進国でもワクチン接種率の低下から再び感染数が増えている現状があります。海外渡航前にはワクチン2回接種が済んでいるか確認してください。

<プロフィル>

勝田吉彰(かつだ・よしあき)

臨床医を経て外務省医務官としてスーダン、フランス、セネガル、中国に合計12年間在勤。重症急性呼吸器症候群(SARS)渦中の中国でリスクコミュニケーションを経験。退官後、近畿福祉大学(現・神戸医療福祉大学)教授を経て関西福祉大学教授。専門は渡航医学とメンタルヘルス。日本渡航医学会評議員・認定医療職、多文化間精神医学会評議員、労働衛生コンサルタント、医学博士。

ブログ「新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~」<https://blog.goo.ne.jp/tabibito12

「ミャンマーよもやま情報局」<http://www.myanmarinfo.jp/

※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2019年3月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 中国日本
関連業種: 医療・医薬品社会・事件

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