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【アジアで会う】土橋壮之さん 介護福祉士 第242回 介護で日越の懸け橋に(ベトナム)

つちはし・まさゆき 1981年岩手県生まれ。法政大学経済学部を卒業後、テレビCM制作大手に入社。4年間CM制作に携わった後、介護システム会社での勤務を経て、介護の現場へ飛び込んだ。東京の有料老人ホームで経験を積み、2017年3月から1年間、英国の障害者支援施設に勤務。昨年8月からハノイの有料老人ホームに勤める。

経済連携協定(EPA)や技能実習制度に基づき、介護福祉士候補者を日本に送り出しているベトナム。この国の老人ホームで、同施設唯一の外国人職員として入居者の介護にあたる。「超高齢社会」に突入した日本は、人手不足から介護分野で外国人労働者の受け入れを拡大しているが、逆に日本人介護福祉士が海外に出るケースは珍しい。

■華やかな世界から転職

学生時代は映画監督に憧れ、新卒でテレビCM制作大手に入社した。照明がこうこうと輝く撮影現場、今をときめくアイドルグループや俳優――。華やかな世界で寝る間を惜しんで働いた。3、4日徹夜が続くことも当たり前。しかし、そんな生活は次第に心身をむしばんでいった。

限界を感じて退職し、それまでの業界とはまったく異なる介護システム会社に転職した。ひたすらパソコンに向かう仕事が合わず、半年しか続かなかったが、これが介護の世界を知るきっかけとなった。人と接する職に就きたい――。リーマンショックの影響で就職難が続く中、介護職員初任者研修を受け、東京の有料老人ホームに再就職した。

現場での仕事は驚きの連続だった。「胃に管を通している人や人工肛門をつけている人を初めて目にし、衝撃を受けました」と当時を振り返る。排せつ介助やおむつ替えなども最初は戸惑ったが、「『ありがとう』と言われるたびに、必要とされていると感じるようになった」という。

■偶然立ち寄った施設に就職

ある時、職場で出会った医師が人生を大きく変えた。米国で老年医学を学んだその医師から日本と欧米の医療や介護の違いを聞くうちに、「自らの目で海外の現場を見てみたい」という思いが募っていった。

7年間勤めた老人ホームを辞め、英国のボランティアビザを取得し、17年3月からロンドン郊外の障害者支援施設で働いた。英国では海外の介護人材の受け入れが進んでおり、ポーランドなど東欧出身者が管理職に就くことも少なくない。

1年間の勤務を終え、帰国する途中、タイとベトナムの高齢者施設を訪問することにした。ベトナムを訪れたのは、この時が初めてだった。ハノイで訪問したのが、台湾帰りのベトナム人らが立ち上げた「仁愛(ニャンアイ)老人ホーム」。現在の勤務先だ。

技能実習生の送り出し機関も持つ同施設では、教育係となる日本人を探していた。社長から直々にオファーを受け、とんとん拍子で就職が決まった。「まさか偶然立ち寄った老人ホームに就職するとは思ってもいませんでした」。

■「言葉の壁」を乗り越える努力

仁愛老人ホームには現在、100人余りが入居し、職員約50人が交代で介護にあたる。ベトナムでも既に高齢化が始まっている。「昔の日本のように『高齢者は家族が面倒を見る』という考えが根強く残っているが、特にハノイでは核家族化が進んでいるため、介護サービスの需要は拡大していく」とみる。

英国でもベトナムでも痛感したのが、「言葉の壁」だ。「入居者やその家族に『この人に話しても無駄だ』という顔をされることが一番悲しい」。現在の職場で入居者の異変に気付いた際、同僚に的確な指示を出せず、悔しい思いをしたこともあった。入居者の思い出話も理解できるレベルのベトナム語を身に付けるべく、時間を見つけては勉強に励む。

現場で働く傍ら、日本に行く予定の技能実習生やベトナム人職員の教育も始め、日本式の介護を伝えている。「ベトナム式のやり方を全否定するのではなく、相手が日本式に挑戦してみたいと思ってくれるまで待つ」というスタンスだ。また、医療・介護・福祉、教育機関、技能実習生の送り出し機関の関係者らが集まり、カフェで日越の介護について情報交換する「Kaigoカフェ」を主催している。

介護の世界で働き始めて10年。「今の仕事が好きです!」と胸を張る。「介護分野の交流が深まる日本とベトナムの懸け橋になれたら」との思いを胸に、ハノイで高齢者と日々向き合う。(ベトナム版編集・本田香織)


関連国・地域: ベトナム日本
関連業種: 医療・医薬品

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