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【ASEAN】日本に似てきたタイ市場

成熟化するタイのパーソナルケア市場(1)

1月16日付のNNA記事「健康・美容製品、18年は8%成長=UBM」(https://www.nna.jp/news/result/1857815)によると、2018年のタイの健康・美容製品市場が前年比7.8%増の2,500億バーツ(約8,520億円)規模だったという。

同記事によれば、国際会議や展示会運営を手掛けるタイのUBMアジア(タイランド)のアヌチャナ・ディレクターによると、2,500億バーツのうち、国内販売が1,700億バーツ、輸出が800億バーツを占めた。健康・美容への関心の高まりを受け、ここ数年は毎年成長している。主な輸出先は日本、中国などアジア。同社によれば、今年も安定した成長が見込まれるという。

美容に関心の高いタイでは健康・美容をテーマにした市場は安定した成長が見込めるセグメントに位置づけられている。ただ市場が成熟するにつれて、マーケットシェアの獲得に向けての激しい争いが展開されている。

今回のシリーズでは、健康・美容関連の中でも比較的生活に密着したパーソナルケア市場、特にスキンケア、オーラルケアセグメントでのトレンドや主要各社の攻防等を複数回に分けて見ていきたい。第1回目の今回は、業界全体のトレンドを確認しよう。

■成長局面にあるタイのパーソナルケア市場

まずは、タイの消費者が一般的に多く消費するセグメントでパーソナルケアはどのような位置づけにあるのかを見ていきたい。

下記図表1は、ボストンコンサルティングの「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント分析(PPM分析)」を模して、タイのパーソナルケアセグメントの現在の位置付けを確認したものだ。

このPPM分析は、一般的には多くの事業や製品を持つコングロマリット企業にとって、どのように事業ポーフォリオを組み合わせると良いかを分析するツールとして、米国の戦略コンサルタントファームであるボストン コンサルティング グループ(BCG)が1970年代はじめに提唱したもので、製品や事業のバランスの最適な組み合わせ(ポートフォリオ)を決定するための経営分析・管理手法だ。

ここでは、縦軸に市場の成長率、横軸に一般消費材に占める市場占有率を置き、4つの象限を作成する。各象限を「problem child=問題児」、「star=花形」、「cash cow=金のなる木」、「dog=負け犬」と名付け、各製品、事業をプロットする。企業の分析では、その位置によって、拡大、維持、縮小、撤退などの経営判断を行うのであるが、今回はパーソナルケア市場全体の特徴を、他の消費財市場との比較により、この分析ツールによって見たい

さて、今回のテーマであるタイのパーソナルケア業界は、この4つの象限の中ではどこに位置づけられるのだろうか?これで見ると、現在は、売上高が成長しつつ、かつ市場シェア率の低い、右上の「問題児」のセグメントにある。

この「問題児」のセグメントの特徴としては、成長のために大きな投資を必要とする製品群であることがあげられる。成長率は高いため、もし今後も安定して市場規模も拡大できれば、花形市場として、さらなる拡大となる可能性を秘めている。

その一方で、このセグメントでは新製品開発への研究投資額が大きくなればなるほど、今後より難しい経営判断を行う必要が出てくるとも言われている。多額な投資資金が必要な一方、市場に占めるシェア(この場合は、消費財市場全体に占めるパーソナルケア市場の割合)がまだ高くないため、市場全体の各事業者に行きわたる売上はそれほど大きくないからだ。

従って、現在のタイのパーソナルケアセグメントは、概して成長基調にあるものの、今後の投資如何によってより安定した利益を享受できるかが問われる局面にあるだろう。

■プレミアム商品割合の増加

さて、全体の位置付けを見た上で、タイのパーソナルケア業界の4つのトレンドを確認したい。最初に挙げられるのが、プレミアム化、つまりより高額商品の拡大だ。

これは、パーソナルケアのみならず、タイの消費財市場全体の傾向として挙げられる。図表2は、タイにおける各商品セグメントに占めるプレミアム商品の割合だ。

パーソナルケア商品では、既にプレミアム商品の割合は44%を占めている。加えて、その成長率は、パーソナルケア商品市場全体の成長率が1.7%なのに対して、プレミアム商品セグメントは4.2%とより高い。

安定した所得水準の上昇と、それに伴う中産階級の拡大により、こうしたプレミアム商品に対する需要の増加傾向が続いている。タイでは店頭に日本の商品を見かけることも多いが、より高い価格でも、より良いものを求めようとする傾向が顕著になっていることがわかる。

■地方中小都市でのマーケットの拡大

特徴の2番目は、都市化の進展だ。タイは今後も都市化の波は止まらない。都市人口は15年比で約700万人増え、全人口に対する都市人口の割合は25年までに60%にまで増加すると予測されている。

都市化がより顕著に進むことが予想されるのが地方中核都市だ。図表3を見ると、大都市であるバンコクの25年までの人口増加率は18%だが、人口100万~500万規模の中都市では62%、また人口50万~100万人規模の小都市では91%の人口増加が予想されている。

こうした地方都市においては、今後さらに生活の近代化が進むため、パーソナルケア市場もバンコク以上の売上成長率が見込める。各社は成長市場である地方中小都市での販売を強化している。

■中国人観光客市場の拡大

日本でも海外からの観光客による薬や化粧品の購買増加がニュースになっている。特に中国からの観光客は、他国と比較してその購買金額が多いことが話題となっている。

これと同じことがタイで起こっている。中国人観光客の拡大とその購買量の増加が、タイのパーソナルケア市場の特徴の3点目だ。

タイに入国する観光客で最も数が多いのは中国人であり、その数は年々増加の一途をたどっている。16年における中国からのタイへの入国者数は882万人に上った。なお、16年度の中国人観光客のアウトバウンドは1億3,513万人で、その内のの6.5%がタイへ渡航したことになる。

なお、参考までに日本政府観光局の統計によると、18年の日本への中国からの観光客数は838万人なので、日本以上にタイは多くの中国からの訪問者を受け入れている。一方で、日本の国内総生産(GDP)は4兆872奥米ドル(17年)と、タイの4,552億米ドルと比較して約10倍超であるため、日本におけるインパクトと比較して、タイの市場に占める中国人客の数は、日本の約10倍以上重要な意味を持ってくる。

加えて、訪タイ中国人観光客の50%以上が年収350万円以上の国内高所得層であり、彼らの平均消費金額は、団体観光客の場合1人1日あたり7,023バーツ(日本円で2万4,000円程度)だ。こうした高額消費者をほっておく手はない。

日本に来る中国人観光客と同様に、タイに来る中国観光客にとってもパーソナルケア商品は主要な購買対象商品だ。彼らの人気商品リストに入ることができれば、それによって売上の大幅アップが見込める。従って、パーソナルケア各社は対中国人観光客向けのマーケティング方法を積極的に模索している。

加えて、タイに来る中国人観光客の約30%はモバイル決済で購買する。タイでも現地のドラッグストやお土産品売り場では、モバイル決済インフラを整備して売上アップを図ろうとしている。

■高齢化の進行

最後に、特徴の4番目として挙げられるのが高齢化だ。少子高齢化が進むタイではこれから高齢化社会の到来は待ったなしだ。15年にタイの50歳以上の人口に占める割合は29.9%だった。それが25年には人口全体の40%を超えることが予測されている。また、このままの人口推移で進めば40年代には、65歳以上が全人口に占める割合が25%超となっている現在の日本と同水準の高齢化社会を迎えると予想されている。

高齢化社会の到来に伴い、シニア向け商品の需要が増加している。タイのパーソナルケア会社は、高齢化が進む欧米諸国・日本で普及している商品を参考に、より高齢者向けの商品に積極的に取り組んでいる。

ヘアケア・アイケア・サプリメントなどのパーソナルケア商品においては、少量パッケージの商品や、開けやすいパッケージ、読みやすい字の大きい説明などが代表的だ。ただ、日本と異なる特徴は、日本では明確に高齢者向けをうたった商品が少ないのに対して、タイではそこをより積極的にアピールしている。

下記の商品では「50歳以上向け」などと明記したパッケージがなされている。

所得水準の上昇、都市化の進行、高齢化の進展等で、、日本の市場に類似しつつあるタイのパーソナルケア市場。そこで現地の主要企業は、どのように市場でのプレゼンス拡大を図っているのだろうか。現地の有力企業の動きを次回見ていきたい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: タイ日本
関連業種: 医療・医薬品化学小売り・卸売りマクロ・統計・その他経済

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