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【アジアで会う】徳島泰さん インスタリムCEO 第225回 デジタル技術で「ものづくり」を変える(フィリピン)

とくしま・ゆたか 1978年6月生まれ。京都府出身。大学入学後にコンピューター部品のハードウエアベンチャーに就職。25歳で独立しウェブシステムとハードウエアを開発する会社を起業する。その後、多摩美術大学でプロダクトデザインを学び、卒業後は大手医療機器メーカーでデザイナーとして働く。33歳のとき、青年海外協力隊としてフィリピン・ボホール州に配属。2018年にインスタリムを創立した。

3Dプリンターで義足を作る事業を来年春から始動する。現在は、国立フィリピン大学総合病院(UP―PGH)で最終検証を行っている段階だ。従来の義足は高価格で、製作には高度な医学・工学の知識を要する。インスタリムでは3Dプリント技術と人工知能(AI)を用い、製作日数を従来の2~3週間から1日に、費用を10分の1にまで抑えることが可能となった。

3Dスキャンした患部の情報をオリジナルのCAD(コンピューター支援設計)に入力し、ソケット(断端に触れる部分)を製作。最初のデータと義肢装具士が患者と調整した修正後のデータをAIに蓄積する。機械学習のアルゴリズム(計算手法)を日本で開発し、ある程度のデータがたまれば、高度な技術や義肢装具士を必要とせずに、AIが製作をアシストする仕組みだ。20年にはインドなどでの多国展開を見据え、将来的には日本への進出も視野に入れる。

■大統領を動かしたプロジェクト

事業誕生のきっかけは、国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊としてフィリピンに赴任した6年前にさかのぼる。

大学でデザインを学び、ハードウエア開発やウェブデザイナー、システムエンジニアなど、製造から販売までものづくり全般の業務を経験してきた。配属先は貿易産業省のボホール事務所。デザイナーとして飛び込んだものの、地元の中小零細企業(MSME)は、はさみや定規の使い方もままならない労働者ばかり。「技術指導のような従来の教えるだけの援助では意味がない」と考え、教育水準の高い少人数にイノベーション教育を試みようと発想を転換。各国で展開している最新のデジタル機器を備えた市民工房「ファブラボ」の設置を提案した。JICAやフィリピン政府などの支援でデジタルツールを導入し、14年5月に同州の大学内に同国初のファブラボが誕生。地元の若者を巻き込み、アイデアを生み出す場所として機能していった。「地元の人が自ら問題を解決し、産業を活性化させようと奮闘する姿にうれしさを覚えた」と当時を振り返る。

田舎のボホールに、最先端技術の3Dプリンターやレーザーカッターを政府の予算で購入するということ自体が珍しく、14年5月には当時のアキノ大統領が視察に訪れた。施設は高く評価され、大統領はその場で全国展開を表明。現在16カ所にまで拡大した。

■人生を取り戻す「2本の足」

一気に注目を集めたファブラボの内部では「義足も作れるのでは」と提案する声が相次いだ。ビサヤ地域を中心に地方を調査し、糖尿病性壊疽(えそ)患者は国内に約74万人、義足を必要とする人は計118万人に上ると推計した。切断した足はそのままの人が多く、義足の製作所は見当たらない。足を切れば死後に地獄に落ちると考える老人も多かった。毒素が体に回ることを承知で、費用や失職の心配から切断しない選択を取るという現実に胸をつかれた。

ファブラボにある3Dプリンターでパーツごとに分けて義足を試作したところ、仕上がりは想像より頑丈だった。「事業としていけるかもしれない」。手応えは確信に変わっていった。

14年12月に帰国し、CADを開発するため慶應義塾大学の修士課程に進学。日本政府や自治体の支援を受けながら3Dプリンターとソフトウエアの開発に尽力した。そんななか、16年12月にマニラ首都圏ケソン市で被験者となった30代の男性が徳島さんの思いを後押しした。男性は両手片足を電気工事の事故で失った。3D義足を手に入れ、役所の配達の仕事を得たと喜んで報告してくれた。「義足は誰かの人生を元の位置まで戻せる。貧困の連鎖を止めることにつながる」と、強く実感する出来事になった。

17年3月に合同会社としてインスタリムを立ち上げ、18年4月に株式会社として創業した。

■フェアなものづくりを実現する

軸とする「誰もが平等に幸せになれるものづくり」。その原点は、20代前半のベンチャー時代に中国の江蘇省蘇州で目にした光景にある。電子部品を生産していた工場の横で、農家が廃液の垂れ流される川の水を利用していた。部品の主原料は人体に有害な酸化鉛。食堂で出された野菜に、箸が進まない自分がいた。高品質・便利な製品を作る傍らで、誰かが不幸になる現実が世の中にたくさんある。「世界のアンフェアな産業界の構造を変えるために、自分の一生を使おう」。そう決意した。

現在、ファブラボの派生プロジェクトとしてJICAの採択を受け、ボホール州で廃棄プラスチックのリサイクル事業にも取り組んでいる。ゴミ問題を改善しながら、デジタル技術を活用し産業自体を創造していく活動は、市民のエンパワーメント(一人ひとりが発展や改革に必要な力をつけること)が国を変える世界の先例となるはず。

「両方の事業を成功させ、日本と世界に、未来の新しい産業構造の一つの答えを提示することが目標です」。夢に向かっていま、大きく歩み始めた。(フィリピン版編集・大堀真貴子)


関連国・地域: フィリピン
関連業種: 社会・事件

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