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【ASEAN】ツナ原材料のコスト上昇がリスクに

タイ・ツナ缶業界の曲がり角(2)

創業40年を数えるタイのツナ缶最大手であるタイ・ユニオン・グループ(TU)。タイをはじめ世界各国に17か所の製造拠点を持ち、15の自社ブランドを抱える世界最大のツナ缶製造会社でもある。

2月22日付NNA記事「水産タイユニオン、17年は過去最高益」(https://www.nna.jp/news/result/1728685)によれば、2017年12月期連結決算は、純利益が前年比14.6%増の60億2,100万バーツ(約205億7,000万円)となり、最高益を記録した。カツオ相場の高騰やバーツ高の影響を受けたが、為替差益や投資収益の増加、節税策の奏功などで2桁増益となった。

同記事によれば、「売上高は1.6%増の1,365億3,500万バーツ。バーツ高で小幅な増収にとどまったが、史上最高を更新した。米ドル建ての売上高は3.9%増だった」とある。

好調に見えるタイユニオンの業績だが、彼らは原料価格の長期的上昇と、価格変動の拡大というリスクにさらされている。

成長の曲がり角に直面しているタイのツナ缶業界で、何が起こっているのか、前回の「タイのツナ缶業界の曲がり角(1)」(https://www.nna.jp/news/show/1765754)では、国際社会からの強制労働に対する批判と人件費の高騰を取り上げた。今回は、もう一つの主要なコスト要因である原料調達費のリスクを見ていく。

■海洋資源の乱獲でも国際NGOから非難を浴びるタイツナ業界

タイでは、原材料となるツナのほとんどが国外から輸入されている。中でも西太平洋やインド洋など、より近い海域で取れたツナを原材料に、順調に拡大してきた。それが、漁獲高の増加とそれに伴う規制の強化により、年々ツナの確保が困難になってきている。

国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、世界のマグロ類の漁獲高は1983年の約201.7万トンから、2013年には約507.2万トンと、30年間で2.5倍も増加している。(図表1)

増え続ける漁獲高の割に、ツナ缶の製造に適した成長したツナの生育は追い付いついておらず、最近では原料の魚はより高く、かつ小ぶりになってきた。それでも高まる需要に対応するために、巻き網漁などの文字通り「一網打尽に」取り尽くす漁法が幅を利かせるようになる。こうした漁法により、まだ小さな魚やウミガメなどを含めて乱獲が行わるようになり、それに対して世界の自然保護団体から厳しい反発の声が上がるようになった。

日本でも反捕鯨運動で有名になった、国際環境NGOグリーンピースは、昨年の6月2日、持続可能なマグロ調達を求めるキャンペーンの一環として、タイのバンコク市内にあるタイユニオン本社までマグロの衣装でリレーを行った。ところが68万筆を超える国際署名を受け取った同社は、「グリーンピースから表彰された」と勘違いして広報。グリーンピースが改めて報道機関向けに声明を発表する珍事となったという。

強制労働で国際社会から大きな非難を浴びたタイツナ缶業界は、水産資源保護においてもマイナスの意味で注目を集める存在だ。

■持続可能な漁業に向けての規制強化による原材料調達コストの上昇

こうした水産資源の枯渇に対応するために、カツオ・マグロ類の地域漁業管理機関(Tunas Regional Fisheries Management Organization,“RFMO”)と呼ばれる5つの海域ごとの管理機関が、全世界の海洋を5つに分けて、それぞれの管轄海域を管理している(図表2)。

中でも、主要な海域であるWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の動向は、タイのツナ缶業界へ大きな影響を及ぼす。直近では昨年12月に、フィリピンのマニラで「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)第14回年次会合」が開催され、太平洋クロマグロやメバチ・キハダ・カツオなどの保存管理措置に関するディスカッションが行われた。

そこでは、親魚資源量を2024年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値まで回復させることを目標とすることが再確認され、特に30キロ未満の小型魚の漁獲量を02~04年の平均水準から半減(WCPFC全体で9,450トンから4,725トン)に削減することが決められた。

また、水産資源を根こそぎ取ってしまうと批判の強い巻き網漁業などについても禁漁期間や集魚装置数などの規制が課されている。

漁獲高の減少や水産源保護運動は、着実に原料価格の上昇トレンドになって、タイのツナ缶事業会社の経営に跳ね返っている。タイユニオンの、17年度末のアナリスト向けの決算説明資料には、「長期トレンドで上昇し続ける原料価格が、経営におけるリスク要因となっている」旨の記載が出てくる。これは最大手のタイユニオンのみならず、むしろより事業規模の小さいタイツナ缶企業にとって、長期的でかつ重大なリスク要因となっている。

■拡大する価格変動リスク

長期的な価格の変動に加えて、もう一つの悩ましい要因が、調達価格の変動幅の拡大だ。

生産量の減少に伴い、ツナの調達価格は以前より大きく変動するようになってきている。加えて、その変動のトレンドも、より予測がしにくくなってきている。ファイナンスの世界では、リスクとは変動幅のことを指す。変動幅が拡大すること、つまりは文字通りのリスクの拡大だ。

図表3は、タイユニオンの18年第1四半期(1~3月)の決算説明資料の中の1ページだが、そこでは「ボラティリティが高まるツナ調達価格」と題して昨年から今年にかけての調達価格の推移が記載されている。

ここでは、昨年の年初の1トン当たり1,700 米ドルから、同年10月には2,300 米ドル へと価格が大幅に増加した一方で、その後今年の2月には1,400 米ドルまで一気に下落している。上記資料によると、17年4四半期平均の2,033米ドルから、18年第1四半期平均の1,577米ドル まで22.5%も下落したことが示されている。

価格が下落することは単純に良いことと思うかもしれない。実際は、このような急激な調達価格が急激に下落しても、過去に調達価格が高い段階で仕入れた在庫は依然として高い原材料費として財務諸表上は計上されており、その結果在庫価格の高止まりを起こす。

実際タイユニオンの直近の18年第1四半期の決算数値を見てみると、売上こそ前期とほぼ同水準を維持している一方で、利益がそれぞれ大きく下落している。

5月9日付NNA記事「水産タイユニオン、バーツ高などで減収減益」(https://www.nna.jp/news/result/1759890)を見てみると、タイユニオンが発表した第1四半期(1~3月)の連結決算は、売上高が前年同期比5.5%減の297億300万バーツ(約1,000億円)、純利益が39.3%減の8億6,900万バーツだった。タイ証券取引所(SET)への報告によると、ツナなどの原材料価格下落を受けた価格調整による販売価格低下と、バーツ高が減収の主因。外国為替変動の影響を除外した場合でも2.8%の減収だった。純利益は、コスト管理強化や多額の為替差益などによって確保。純利益率は4.6%から2.9%に低下した。

売上総利益率は、前期比で26.2%、営業利益は97.1%もそれぞれ下落している。その主要要因として挙げられていたのは、バーツ高と在庫金額の高止まりだ。それは、それまでに調達した魚の材料費が高い金額で確定していることから、在庫費用がより高まったことによる。

このように、魚の材料費の変動幅の拡大は、仮に安いほうに振れたとしても大きな減収要因になりうる。このようなボラティリティが高まり、かつコストが長期的に増加トレンドにある事業環境下での展開を余儀なくされているのが、タイのツナ缶業界なのだ。

次回は、そうした環境下における、主要ツナ缶大手会社での対抗策について見ていきたい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: タイ日本
関連業種: 食品・飲料雇用・労務

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