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【パキスタン】乗用車は日系の牙城 第3回 新規参入に販売網の壁

パキスタンの二輪車や家電市場は、現地生産化が進む中国ブランドが支配しつつあるが、乗用車は「日系の牙城」が健在だ。3月には日産自動車が再進出を発表。韓国の現代自動車、起亜自動車、中国支援の地場メーカーの3社も工場を建設中で、2020年までに相次ぎ生産を開始する。しかし、アフターセールスを含む正規販売店(ディーラー)のネットワークが充実している既存の日系乗用車3社の優位性が揺らぐことはなさそうだ。【遠藤堂太】

ガンダーラ日産は現在、中国「JAC」ブランド車を生産している=3月、ラホールのオートショー会場(NNA撮影)

ガンダーラ日産は現在、中国「JAC」ブランド車を生産している=3月、ラホールのオートショー会場(NNA撮影)

ガンダーラ日産――。新興国向け「ダットサン」ブランドでの再進出を発表した日産自動車が組む地場メーカーの社名だ。10年頃に日産がパキスタンから生産を撤退するまでのパートナーでもあった。日産資本は当初から入っていない。昨年からは中国の安徽江淮汽車集団傘下の「JAC」ブランドを生産している。

■納車最大6カ月待ちの売れ行き

経済成長に支えられて、直近では20%超で伸びているパキスタンの新車市場。昨年通年では25万台を販売した。パキスタン自動車工業会(PAMA)の統計では現地生産を行う日系3社(スズキ、トヨタ自動車、ホンダ)が新車市場の90%以上を占める。3月の取材時では「納車が最大6カ月待ち」という売れ行きだった。

一方、昨年は日本から8万台の中古車が輸入された。25万台の生産があるのに、自動車産業を保護せず、中古車輸入を認める国は珍しい。「中古車輸入を認め、新規参入メーカーを優遇するのは、既存日系完成車メーカー3社に対して、投資拡大や技術移転、販売価格の引き下げを進めよ、というパキスタン政府のメッセージだ」。多くの関係者がこう解説する。

追い風が吹くとはいえ、新規参入メーカーには高いハードルがある。アフターセールスなども含むディーラー網の構築だ。

カラチの古い地図に、ガンダーラ日産のディーラーがあった。その場所を訪ねると、日本製輸入中古車販売店となっており、経営者も変わっていた。

スズキが出資するパック・スズキ・モーターの原野匡史社長は「スズキは143店舗を構えており、新規参入企業を脅威とは感じていない」と話す。永尾博文取締役顧問(前社長)は「スズキのディーラー所有者に対して、店舗ごと買い取るとのオファーが新規参入メーカーからある」と話す。しかし、ディーラーがスズキから新規・再参入の他社に鞍替えすることはないだろう、との見方だ。新車販売首位のスズキが持つブランドはなく、商品供給が保証されるかも分からず、ディーラーにとっては、リスクが大きいからだ。

現代と起亜ブランドは地場合弁相手の経営難などを理由に、パキスタンから2000年代後半に生産撤退した。しかし、16年に策定された「パキスタン自動車開発政策」(ADP)に申請。政府から「新規参入企業」として認定された。日産は「再参入」だった。参入基準によって、部品輸入時の関税優遇恩典が異なっている。

■現代自の工場、双日が出資

現代自動車のパキスタン事業は現代自体は出資していない。双日が40%、衣料製造や小売業に強い地場財閥ニシャットが60%を出資して新会社、ヒュンダイ・ニシャット・モーターズを昨年に設立した。ニシャットはその後、18%を農機最大手のミラット・トラクターズに売却した。

現代自が出資しない理由は何か。業界関係者は「新興国でも現代がまだ攻め切れていないベトナムやインドネシア、フィリピンなどに注力したい考えが強いのだろう」と推測する。この関係者は「完成車メーカーが出資しないと、売れ筋商品の投入が他国よりも後回しになるなど、メーカーがリスクをとらなくなる。また、ノックダウン(KD)部品を出荷するメーカーと現地法人がそれぞれマージンを上乗せするため、価格が高止まりする恐れがある」と指摘する。

ホンダ二輪合弁アトラス・ホンダの社長で、アトラス・グループの自動車関連事業を統括するシラジ氏は、「日産、現代、起亜はパキスタンから撤退した経験を持つ。品質を維持しながら、長期的な視点で市場を見られるかが成否のポイントになる」と話す。

■地場部品メーカー、日本に不満も

長年、日系企業と取引を続けているパキスタンの地場部品メーカーからは「技術移転を進めていない」「納車待ちが6カ月になっているのは、投資に慎重すぎ、生産拡大に踏み切らなかったからだ。部品メーカーにとっては、商機を逸した」と日本メーカーに対する不満が高まっている。

地場の燃料タンク製造、メタライン・インダストリーズのラザック・アーメド社長は、「燃料タンクは成型技術や使用素材の転換期に来ている。そうした技術や情報がほしい。完成車メーカーの技術移転や日本の部品メーカーとの協業をしたい。しかし、そのようなオファーはない」と肩を落とす。

パキスタンに進出している日系部品メーカーは、デンソーやGSユアサなど数社にとどまっている。出資はしないで地場企業に技術協力(TA)を行うケースは10~20社程度あるようだ。

昨年は日本からパキスタンへ8万台の中古車が輸出された。車齢3年未満が条件。ダイハツ車も人気だ=カラチ(NNA撮影)

昨年は日本からパキスタンへ8万台の中古車が輸出された。車齢3年未満が条件。ダイハツ車も人気だ=カラチ(NNA撮影)

一方、地場の二輪部品メーカーでは、中国企業との連携を強める流れがこの数年で加速。ラホールで開催されたオートショーでは中国企業の存在が目立った。既に中国と地場企業による合弁製造業が10~20社は設立されたようだ。

シラジ氏は「地場部品サプライヤーの焦りは分かる。しかし、日本企業の長期視点、ステップバイステップでゆっくり進めるやり方が、(景気や治安によって販売が乱高下する)パキスタンにはむしろなじみやすく、お互いのリスクを減らせる。中国でローテクとなった生産設備をパキスタンに投入する中国企業のやり方は持続可能ではない」と日本メーカーの立場を代弁する。アトラス・グループは1962年からホンダと提携している。

アフター・セールス市場も活発だ。中国製をはじめとする日本車向け部品が手に入りやすい(左)。カーケアの「洗車の王国」もパキスタンに進出した=カラチ(NNA撮影)

アフター・セールス市場も活発だ。中国製をはじめとする日本車向け部品が手に入りやすい(左)。カーケアの「洗車の王国」もパキスタンに進出した=カラチ(NNA撮影)

■「宝の山」誰が得るか

この2億人の市場を日本企業がもっと活用できないか――。1週間パキスタンに滞在して思った。日本が強みを発揮できる分野は自動車だけではない。「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」に、日本が相乗りするという手もある。

CPEC最重点事業の一つ、パキスタン南東部に広がるタール炭田の開発・発電事業。ここで活躍している鉱山機械はコマツ製だ。

パキスタン政府は液化天然ガス(LNG)輸入拡大を急いでいる。カラチのLNGターミナルの2番目の事業には三井物産が一部に参画。3番目の事業には三菱商事が名乗りを上げた。カラチからCPEC沿線の各発電所へパイプラインを敷設する計画もある。発電所のタービンは中国で製造された電機大手の米GEや独シーメンス製が多いという。英蘭系石油のシェルもこのほど、CPECの回廊沿いに100カ所の給油所を建設することを決めた。

「欧米企業はパキスタンを宝の山と考え、相次ぎ人員を増やしている」(在パキスタンの日系商社幹部)。

パキスタンは誰に対しても、どの国に対しても門戸を開いている。中国脅威論であきらめ、「宝の山」を見過ごすのはもったいない。日本企業の海外ビジネスに対する姿勢が問われている。(完)

関連記事

「かすむ日本企業、中国に勢い パキスタン・オートショー」

https://www.nna.jp/news/show/1733147


関連国・地域: 中国韓国インド日本パキスタン
関連業種: 自動車・二輪車マクロ・統計・その他経済

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