【ASEAN】ベトナム医療は魅力的な投資機会か?(10)

1月9日付NNA記事「日本語対応のひばりクリニック、都心に開業」(https://www.nna.jp/news/result/1709321)によると、日本語が対応可能な医療機関、ひばりクリニックがマレーシア国内で3カ所目となる「IMC分院」を今月15日にクアラルンプールで開業するという。総合診療科となり、予防接種や妊婦健診にも対応する。IMC分院では理学療法士による施術も受けられる体制を整えた。

同記事によれば、ひばりクリニックは既にクアラルンプール・モントキアラとペナン島の2カ所でクリニックを展開している。同分院では、医師2人が常駐するほか、日本語の対応が可能な看護師と事務スタッフもいる。内科、小児内科、心療内科、皮膚科、婦人科を含む総合診療科で、診察の上でマレーシア国内の総合病院への紹介にも応じる。

糖尿病や高血圧、痛風などの慢性疾患についても、「日本で常用している薬の代替薬を成分や効用、効果に基づき処方することが可能だ」(霜田氏)という。

このように、日系医療クリニックが東南アジアでオープンする記事を見ることも増えてきた。先ほどの記事はマレーシアのケースだが、2017年後半だけでも同様のNNA記事を他の東南アジアの国でも見つけられる。

昨年12月14日付のNNA記事「HCM市3区に日本人医師の診療所オープン」(https://www.nna.jp/news/result/1700699)によると、日本人医師による診療所「サイゴン虎ノ門クリニック」が、ホーチミン市3区にオープンしたという。同クリニックでは内科や整形外科、泌尿科、皮膚科など幅広い分野での診療を受け付けており、全部で10人ほどの体制で、胃カメラによる検査も可能という。

また、昨年11月24日のNNA記事「タケノコ診療所、来月から日本語医療相談」(https://www.nna.jp/news/result/1688067)によると、インドネシアで日本人向けクリニックを展開する「タケノコ診療所グループ」は、昨年12月1日から無料の日本語医療相談サービスを開始している。相談は年中無休で24時間対応。電話、電子メール、ファクスのほか、無料通信アプリのLINE(ライン)や米メッセンジャーアプリ「ワッツアップ」でも受け付ける。

同記事によると、相談には、日本語対応が可能なインドネシア人スタッフ15人と、院長を含む日本人4人の計19人が対応しており、会員登録した相談者には、車が必要になった場合、運賃は自己負担だが、タクシーを無料で手配、救急搬送や通訳を同行させるサービスも有料で行うという。

このような日系クリニックは、一般的に現地の日系駐在員やその家族、旅行者などを主な患者対象としているケースが多い。こうしたクリニックの進出の先には、より大きな病院の本格的な海外進出も時間の問題で出てくるであろう。そうなると、現地の日系人や外国人だけでなく、現地市民によりフォーカスを当てて診療を行うことになるだろう。

ただ、そうした進出を語る前に、現地の国民向けを対象にしたクリニックや病院をオープンする場合、そもそもどこまで外国の医師がその国で診療を行うことができるのだろうか?

■国によって異なる外国人医師の診療可能領域

日本においても、日本の医師免許を持たない外国人医師による医療行為は一般的には認められておらず、自国民などを対象にしたケースが例外的に医療を行うことが許されている。

オリンピックを見据えてこうした「国家戦略特区」で行える医療行為の許容範囲が議論されたりしている。

外国においても同様に、その国での医師資格を持っていない外国人医師の医療行為に対して、何らかの制限を課しているケースが多い。特に、それは自国内で比較的医療水準がある程度整備されてきた国は、自国の医療業界の保護もあり外国人医師の医療行為に対して制限を設けることが多い。

逆に、より発展段階の低い途上国で、自国の医療水準が低い国ほど、海外からの医療支援の受け入れに積極的で、自国外(特に先進国)で医師資格を持っている医師がより幅広い領域で活動できるようにしている傾向がある。

従って、ある国で医療サービスの提供を行おうと思ったら、果たしてその国でどの程度外国人医師が現地での法律に則って活動できるかの確認が重要になる。特に、外国人の医師は、どのような資格に基づいて、どの程度の医療サービスを現地の一般市民に対して提供できるか、それはどの程度現実的なのかを確認することが大事になってくる。

■ベトナムで外国人医師が医療行為を行う為の必要事項とは?

それではベトナムの場合、外国人医師はどの程度ベトナムで医療に関わることができるのだろうか?

まず、ベトナムにおいて医療行為を行うための資格規定を確認しよう。ベトナムの診療法によると、ベトナム国内で医師、看護師または薬剤師として専門的な治療などを行う場合には、関連する証明書(医業証や薬事実務証)を取得する必要があり、証明書を取得しない場合は、治療等を行うことはできないとされている。この証明書である医業証は、医療従事者1人に1つ交付され、その医療従事者の行う所掌範囲、つまり何科の診療が可能なのかが記載されている。

この医業証を取るための基準はどのようなものがあるのだろうか。仮に医業証がベトナム人にしか認められていないのであれば、ベトナムにおいて医療行為を行うことは困難になってしまう。

ベトナムで医業証を取得するためには、下記の6つの条件を少なくとも満たす必要があるようだ。

(1)関連する専門的な学位を有すること (海外の学位も有効とされる)

(2)十分な実技経験があること (これについては、専門領域によって、必要とされる実技経験期間が別途定められている)

(3)健康であること

(4)ベトナム語の会話が可能であること

(5)裁判所によって、医療行為を行うことを禁止されていないこと

(6)労働局が発行する労働許可証(又は労働許可免除証明書)を持っていること

上記において、明確にベトナム人であることを規定はしていないものの、(4)の「ベトナム語の会話が可能であること」がハードルになりそうだ。現実問題、ベトナム語を習熟して現地で医療行為を行えるようになるのはなかなか大変だ。

それでは、ベトナム語ができないと全く無理かというと、どうやらそうではない。ベトナム語が堪能でない外国人は、診療を行う言語を登録してその言語で治療指示及び処方を行い、その指示をベトナム語に翻訳することができれば、ベトナムで診断が可能とされている。

ただ、そのためには「医療通訳」が翻訳することが必要と言われているのだが、日本語が分かりかつ医療用語が日本語でもベトナム語でもわかる人材は極めて少ない。特に、単に言葉が分かればいい話ではなく、その言葉の意味する治療行為が何か、病気の状況が何かをしっかり理解して正しく訳す必要がある。こうした優秀な医療通訳人材の確保も、重要な論点になる。

■日本の医療機関が進出できる国は限定的?

日本の医療従事者が現地で治療するための必要事項を見たところで、もう一度今回の記事の冒頭で記載した、「より発展度合いの低い国ほど、より自由に診療できやすい」点を考えてみよう。

もしそうであると、日本の医療機関が進出できる国は極めて限られてくる可能性がある。なぜならば、進出しやすい発展度合いの低い国ほど、国民所得の水準が低く、従って高額の医療に対して支払うことができないからだ。

小さなクリニックレベルならいざ知らず、ある程度の規模を有する医療機関を新興国に作る場合、日本の医療の必然である「高コスト」構造を十分に吸収できるほどの、高い診療価格を現地の患者さんたちが支払う必要がある。

より支払い余力の高い国であれば、収益化させることはより容易になるが、その一方で現地での外国人医師のできる領域がより限定的になる可能性があるのだ。従って、進出国を選ぶ際には、外国人医師の診療自由度が高く、かつ現地の所得水準がある程度高い「バランスの取れた国」を選んでいく必要がある。そのような医療進出の理想郷はどこにあるのだろうか。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: ベトナム日本
関連業種: 医療・薬品政治

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