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《NNA編集長が語る》アジア各国・地域の経済情勢

エヌ・エヌ・エー(NNA)は9月29日、東京・汐留メディアタワーで2017年度の編集長会議を開いた。NNA各拠点の編集長らが各国・地域の経済情勢について語った。

NNA各拠点の編集長らが各国・地域の経済情勢について説明した=9月29日、東京・汐留メディアタワー

NNA各拠点の編集長らが各国・地域の経済情勢について説明した=9月29日、東京・汐留メディアタワー

■中国:党大会での指導部の入れ替えが焦点 

榊原健編集長

中国経済は安定した成長を維持しているといえる。2017年4~6月の国内総生産(GDP)は前年同期比6.9%増で、成長率は前期から横ばい。昨年通年の6.7%は上回った。

輸出も、一昨年(15年)、昨年(16年)はマイナス成長だったが、今年に入りプラス成長が続き、8月は前年同月比5.5%増となった。市民の消費活動も旺盛で景気は悪くない。

注目されるトピックとしては、10月18日から開かれる第19回党大会がある。5年に一度の共産党の最重要会議で、ここで最高指導部の入れ替えがある。ただ今回は習近平国家主席と李克強首相の継続がまず確定しており、経済政策面でドラスチックな路線変更があるとは考えにくい。

一方で党大会前は、経済の安定を重視して、国有企業の倒産や失業者の増加といった痛みを伴う構造改革の手綱が緩められる傾向があり、今秋以降はその反動で経済改革のペースが加速する可能性もある。そうなれば、一時的に経済成長の落ち込みなどが統計数字にも表れてくることも考えられる。

■香港:足元の経済は好調 

黒川真吾編集長

足元の香港経済は好調に推移している。内外需ともに伸び、17年は政府の成長率目標である前年比3~4%を達成するとの声が多い。

輸出は中国を中心とするアジア、欧米の貿易活発化が押し上げ要因。観光市場も主力の中国人旅行者が戻ってきたことなどから復調に向かっている。小売市場も回復基調にある。株式市場の活況を受け、金融も好調。直近では政府の住宅投機抑制策が複数打ち出されたものの、強い需要により住宅販売は順調に伸びている。

向こう半年は、◇東南アジア諸国連合(ASEAN)との自由貿易協定(FTA)の締結◇「一帯一路」など中国の政策◇新行政長官による施政方針演説◇今年末にも開通するとみられる、香港―広東省珠海―マカオを結ぶ海上橋が観光や物流に与える影響――などが注目される。

■台湾:前政権より景気は持ち直し 

長野雅史編集委員室長

独立志向の蔡英文政権の発足で中国との関係が悪化した台湾だが、景気は馬英九・前政権の終盤より持ち直している。

経済を支える輸出は半導体需要などに支えられ16年10月以降はプラス成長を維持。15年に0.72%まで落ち込んだ経済成長率は17年1~6月期に2.39%にまで回復した。株価は5月に加権指数が17年ぶりに1万ポイントを超え、今も勢いを保っている。

ただ今後もこの回復基調が続くかどうかは不透明だ。強みとする半導体などで韓国勢との競争や中国勢の追い上げが激しくなり、技術面での優位性を保つのに必死となっている。蔡政権の支持率低迷も懸念材料。賃金が実質ベースで低下するなど、市民は景気回復を実感できていない。労働基準法の改正による労働環境の改善もトラブル続きで、目に見える成果を打ち出せていない。蔡政権は9月には行政院長(首相)を交代させ、政権浮揚を図っている。

■韓国:文政権は雇用対策を優先 

坂部哲生ソウル支局長代理

韓国政府や国際通貨基金(IMF)が今年の韓国のGDP成長率予測を相次ぎ3.0%に上方修正するなど、韓国経済は上向き傾向にある。

輸出額は10カ月続けて前年同月を超過。昨年に不振だった造船業にも回復の兆しがみえる。輸出回復に伴い設備投資の拡大も本格化している。

懸念はなかなか上向かない内需だ。1,300兆ウォン(約130兆円)を超える家計負債が水を差している。住宅投資も家計負債の抑制に向けた不動産政策で一服感が出ている。

文在寅(ムン・ジェイン)政権は内需回復に向け、雇用政策を最優先課題に掲げる。ただ、その財源をどう確保するかは明らかにしていない。20年までに最低賃金を時給1万ウォン(約990円)まで引き上げる方針にも、財界は「ペースが速すぎる」と反発している。輸出主導型だった韓国経済を「所得主導」に転換しようとする文政権の試みに注目が集まっている。

■ベトナム:日系企業から投資先として注目 

小堀栄之編集長

ベトナムは6%台の経済成長率を背景に、進出先や投資先として日系企業、とりわけ中小企業からの注目度が高い。国全体の1人当りGDPは2,050米ドル(約23万円)ほどだが、ホーチミン市では5,200米ドルを超えており、特にここ1~2年はホーチミン市を中心に消費関連での投資が活発だ。

不動産では日系の建設大手が中~高級マンションを相次いで発売。小売店では16年に「高島屋」が、今年は「セブン―イレブン」がそれぞれ1号店を開いたほか、既に「ファミリーマート」が150店、「ミニストップ」が100店を出している。アパレルではスペイン系の「ZARA(ザラ)」に続いてスウェーデンの衣料品大手「H&M(ヘネス・アンド・マウリッツ)」が開業し、ファストファッション市場も競争が本格化しつつある。

このほか、昨年に中部で起きた魚大量死をきっかけに、政府や国民の間で環境や食の安全に対する意識が高まっている。環境ビジネスは日系が得意な分野でもあり、商機は多そうだ。

■シンガポール:電子製品など製造業が堅調

野村智編集長

シンガポールの17年4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比で2.9%となり、1~3月期に比べ加速した。政府は、当初1.0~3.0%としていた17年通年の成長率予想を2.0~3.0%に上方修正している。

景気が持ち直しつつある背景には、製造業の堅調がある。世界貿易の回復を追い風に、電子製品などの生産が拡大しており、製造業生産高指数は8月まで2カ月連続で前年同月比約20%上昇した。

一方、内需は引き続き弱含んでいる。失業率が6年ぶりの高水準で推移するなど雇用が低迷し、消費者が支出を控える傾向が強いことが要因だ。

こうした中、政府は自国民の雇用確保を優先するため、外国からの労働力流入の規制を強化している。自国民の採用・育成に消極的な企業をリスト化する政策では、前触れもなく突然リストに入れられた日系企業もある。就労ビザの取得が難しくなっている。

■マレーシア:総選挙が今後のリスクに 

齋藤眞美編集長

原油価格の下落に伴う経済成長率の低下が一段落し、マレーシアの17年の成長率は1~3月期、4~6月期ともに5%台を維持している。内需の底堅さと貿易の好調により、通年でも4.8%以上が確実視されている。過去2年連続で行われた予算組み直しも今年はなく、経済は順調に推移している。

今後のリスクとして、まずは17年後半~18年前半までに予定されている総選挙が挙げられる。経済は好調だが、首相の汚職問題が焦点となっている。与野党の分断や民族がらみの対立なども考えられる。

また、中国企業の投資・進出が加速度的に増加する中、日系企業の仕事が奪われているとの声も聞かれる。一方で、外国人労働者の締め出し本格化や徴税による財政健全化など、20年の先進国入りを目標とした改革が多方面で進められており、日系企業は変化に沿った事業面での対応が急務となっている。

■タイ:本格的な景気回復はまだ 

中島政之編集長

14年のクーデターで政情の混乱に終止符が打たれ、タイは安定を取り戻した。3年以上にわたり景気の復調が期待されていたが、不測の事態が相次ぎ発生し、本格的な回復には至っていない。

15年は干ばつの影響で、農家を中心に消費が低迷した。16年は回復基調をたどったが、10月にプミポン前国王が死去、1年間の服喪期間に入り、本格的な消費回復は葬儀後に持ち越される見通しとなった。

それでも経済指標の一部は回復を示している。17年4~6月期のGDPは、前年同期比3.7%増と4年ぶりの高成長を達成した。新車販売台数も今年通年では5年ぶりのプラス成長となる可能性が高い。

当初16年中に予定されていた総選挙は18年後半までずれ込む見通し。現時点で軍政への批判は限定的だが、民政復帰がさらに遅れれば、国民の不満が高まるおそれもある。

■ミャンマー:ロヒンギャへの迫害が国際問題化 

八木悠佑・共同通信ヤンゴン支局記者

アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相をトップとする政権発足から1年半が過ぎた。16年に鈍化した経済成長が再び加速すると予測される中、8月末からイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの迫害が国際問題化している。

経済への目立った影響はまだ出ていないが、海外の見方は厳しい。長引けば外国投資が減退しかねない。欧米からは再び経済制裁を科すべきとの声もある。一方、中国やインドはミャンマー政府の対応を擁護しており、国内では批判にひるまないスー・チー氏への支持が強まっている。問題解決の道筋は見えない。

外資企業にとっての朗報は、新投資法の本格運用が今年4月から始まったことだ。内外投資家の差別をなくして外資規制を合理化する流れで、17年4~8月の外国投資認可額は37億米ドルと、通年目標60億米ドルの達成へ順調に推移している。

■フィリピン:堅調な内需が成長けん引

大谷聡編集長

フィリピンの17年4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比6.5%だった。政府支出が順調に増え、前期の6.4%から加速した。6年に1度の総選挙による特需で7.0%を記録した前年同期には及ばないものの、好調を維持している。

堅調な内需が、ここ数年の成長をけん引している。内需を支えるのは人口増加とフィリピン人海外出稼ぎ労働者からの送金、また外需によって成長するビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)だ。アキノ前政権以降は政治の安定により投資が上乗せされ、好調が続いている。

昨年6月に誕生したドゥテルテ政権は、1人当たりGDPを現状の3,000米ドルから22年までに4,100米ドルへ引き上げ、フィリピンをタイや中国などと同じ上位中所得国に押し上げたい考えだ。投資の拡大により、年率7%以上のGDP成長を目指している。

■インドネシア:消費伸び悩みで景気てこ入れも 

安部田和宏編集長

17年のインドネシア経済は、1~3月期と4~6月期のGDP成長率がともに前年同期比で実質5.01%と、足踏み状態が続いている。

貿易はおおむね好調で、8月には輸出額と貿易黒字が単月ベースの今年最高を記録した。一方、消費と政府支出は奮わない。4~6月は、GDPへの貢献度が最も大きい民間最終消費支出の成長率が4.95%と、例年消費が伸びるイスラム教の断食月(ラマダン)に当たったにもかかわらず、前期比でわずか0.01ポイントの加速にとどまった。政府最終消費支出は1.93%のマイナス成長となった。

消費の伸び悩みの要因として国民の購買力低下が指摘されている。新車販売も1~8月累計で前年同期比約4%増と、前年の2桁成長から減速している。

中央銀行は物価とルピア相場の安定を背景に、8月に10カ月ぶりとなる0.25%の利下げを断行。9月にも再度0.25%の利下げを行い、景気テコ入れの姿勢を鮮明にしている。

■インド:急ぎすぎた改革で経済成長に陰り

須賀毅編集長

インド経済は曲がり角を迎えている。8月末に発表された17年4~6月の実質GDPの成長率は、前年同期比5.7%にとどまり、約3年ぶりの低水準に落ち込んだ。

昨年11月に始めた高額2紙幣の無効化による現金不足で、個人消費が落ち込んだ。今年7月に導入した全国統一税制の物品・サービス税(GST)が、小売業などに混乱をもたらしたことも追い打ちをかけた。

政府は5,000億ルピー(約8,600億円)規模の景気刺激策を示唆するなど、成長軌道への回復を図ろうとしている。

モディ政権は14年の就任以来、高い支持率を背景に「インド独立以来の最大の税改革」と評されるGSTの導入などを実現してきた。しかし改革を急ぎすぎた結果として、経済成長の陰りが深刻化するようであれば、これまで安定していた政局にも影響を及ぼす可能性がある。

■オーストラリア:再生可能エネルギーへの転換で電力不足

小坂恵敬副編集長

オーストラリアは104四半期連続で景気後退を回避してきた、数少ない先進国の一つだ。ただ経済はここにきて転換期を迎えている。

資源ブーム後の経済をけん引してきた住宅・不動産は、海外投資の抑制や住宅ローンの制限を背景に、中心地で価格の伸びが鈍化している。

また、再生可能エネルギー発電への急速な転換が、停電や電力コストの拡大を招いている。一方、液化天然ガス(LNG)生産企業が国内スポット市場から大量のガスを買い上げ、日本などアジア向けLNG輸出に転用していることが問題となり、製造業部門を圧迫している。

賃金上昇率が過去最低水準の1.9%のまま推移する傍ら、住宅ローンなど負債の増加が懸念されている。小売りや消費の大きな伸びが望めない中、米インターネット通販大手アマゾン・コムが本格的に豪州事業を開始することが決まり、既存の小売企業の間では危機意識が強まっている。


関連国・地域: 中国香港台湾韓国タイベトナムミャンマーマレーシアシンガポールインドネシアフィリピンオーストラリアインド日本
関連業種: 自動車・二輪車金融マクロ・統計・その他経済

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