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【アジアで会う】阿部慎吾さん TKインターナショナルCEO 第156回 構想17年の起業と海外移住(マレーシア)

あべ・しんご 1973年、愛媛県生まれ。大学卒業後、米国留学を経て、1997年にマイクロソフト日本法人に入社し、営業部門、マーケティング部門で営業部長や支店長を歴任。2014年、同社を退社し、家族とともにマレーシアへ移住。15年、IT関連のコンサルティングを行うTKインターナショナルを設立し、CEOに就任。16年、ティーケーネットサービス取締役に就任。家族は、妻と子ども3人。

海外移住と起業が語られるときに強調されるのは、人とのめぐり合わせなどの「偶然」、スピード感ある決断と実行などの「勢い」、ではないだろうか。賞賛されるのは「軽やかさ」で、長い経験や熟慮は、あくまで副次的なもののようだ。阿部慎吾さんも、軽やかに日本を離れて起業した1人だが、そこには「構想17年」の年月があった。

■起業志望からマイクロソフトへ

専攻していた経済学よりも、パソコンの自作やプログラミングに熱中していた大学生時代。ある日、学内のコンピュータールームで、「社会を大変革するもの」に出会う。登場したばかりのインターネットだった。当時、日本経済の不況も深刻化しており、就職市場も超氷河期。団塊ジュニア世代として、いつも過度な競争にも晒され続けてきた。「そんなつまらない世界の中で、インターネットは可能性に満ちていた。これは新たなビジネスチャンスだと確信しました」。阿部さんは、インターネット関連での起業を決意する。

大学卒業後、インターネットの本場・米国に旅立つ。マサチューセッツ州ボストンで、英語力を磨きながら人づてに起業のチャンスをうかがっていたが、痛感したのは、「ビジネスの仕方が全く分かっていないこと」だった。1年のビザ(査証)期限も迫る中、マイクロソフトの日本法人から声がかかる。「一度、ビジネスの現場を見てみよう」と、入社を決める。

インターネット普及の立役者である基本ソフト(OS)「ウィンドウズ95」の開発元であり、IT業界の顔でもあったマイクロソフトでの仕事は、想像以上にやりがいと楽しさがあった。入社時、会社側に示していた勤務予定期間の「1~2年」はあっという間に過ぎ、営業部門からマーケティング部門まで、さまざまな職務での経験を重ねていった。

■リーマンショック、クラウドが新たな転機

結婚し、長男も生まれたばかりの2007年、新設された北関東支店に自ら志願して異動した。立ち上げの苦労はあったが、得られる充実感も大きかった。

こうして30代も半ばに差し掛かった頃、リーマンショックが起こる。アメリカの金融街を震源として起こった経済の大激震は、IT業界にも波及。事業の縮小は止まらず、同僚の退職も相次いだ。世界の経済環境が大きく変わる中、40代からの人生をどうするか――それを考えた時、胸の中に浮かんだのは、「起業」だった。

折しも、クラウドコンピューティングが急速に普及し、IT業界に変化を起こしていた。情報システムを自社内に抱え込むことなく、身軽な起業や移動が可能になっていた。培ってきた人脈の多くも、クラウド環境を生かして海外へと飛び出していく。すると、海外でのITコンサルティング需要が急増。阿部さんは、「起業するなら海外」と決めた。

また、クライアント企業で親しくしていたIT技術者が独立し、マイクロソフトだけでなく、阿部さん本人との連携を希望してくれたことも背中を押した。

こうした偶然が重なる中、阿部さんの「勢い」となったのは、家族の理解だ。夫人は海外移住に同意してくれただけでなく、フィジー諸島への子連れ短期語学留学も決行したという。移住先は、成長に勢いのある東南アジアの中でも、国を挙げてのIT振興や生活費、言語などのバランスがよいマレーシアに決めた。

■経験値を存分に生かして

14年、マイクロソフト日本法人を退社し、マレーシアへと移住。15年にTKインターナショナルを設立した。「IT企業で17年勤務は長過ぎなんです」と笑うが、その経験で得たスキルと人脈は、阿部さんをIT業界の「レアカード」にしている。事業運営や海外生活に「苦労もある」と強調するが、その柔らかい微笑みは絶えない。長い滑走を経て軽やかに飛び上がった阿部さんは、日本だけでなくマレーシアも超えて活躍するに違いない。

(マレーシア版編集・北原知也)


関連国・地域: マレーシア
関連業種: マクロ・統計・その他経済

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