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【ASEAN】新興国でM&Aを行いやすい国はどこか?その見極め方(2)

■現地アドバイザーの力量がやり易さに直結する

この1週間だけでも、東南アジアにおける合併・買収(M&A)案件は各国で行われている。例えば、5月22日付のNNA記事「不動産オリジン、プラウドレジデンス買収」(https://www.nna.jp/news/result/1611301)によると、タイでコンドミニアム(分譲マンション)などを開発するオリジン・プロパティーが5月19日、同業プラウド・グループ傘下の住宅開発子会社プラウド・レジデンスの全株式を40億バーツ(約130億円)で買収すると発表した。

また5月19日付の記事「不動産開発の買収、南部で活発化」(https://www.nna.jp/news/result/1610472)によると、ベトナム南部や中南部で不動産開発案件の買収が活発化しており、今年2月設立のサニーアイランド投資社が、クオッククオン・ザーライ(QCG)からホーチミン市ニャーベー郡フオックキエンの大型住宅開発案件(約93ヘクタール)を買収する計画を進めているという。

続いて5月16日付の「潤滑油ユナイテッド、インドネシア社を買収」(リンク)によると、シンガポールの潤滑油製品メーカー、ユナイテッド・グローバルは5月14日に、インドネシアの同業パシフィック・ルブリタマ・インドネシア(PLI)の株式95%を取得すると発表した。

さて前回の記事(https://www.nna.jp/news/show/1606260)では、新興国におけるM&Aを行いやすい国はどこか、またそれをどのように見分けるのかをテーマに、M&Aのやりやすさを決める下記の主要6項目を提示し、そのうち最初の2項目について説明した。

(1)制度面の整備度合い

(2)会社情報の信用度

(3)現地アドバイザーの力量

(4)M&A案件の多さ、過去の実績の蓄積

(5)現地企業におけるM&Aに対する意識

(6)資本市場の整備度合い

今回は引き続き、3番目の項目である「現地アドバイザーの力量」について説明したい。

■力量がM&Aに影響する4つの理由

M&Aアドバイザリーにおいて、比較的大きめの案件やコンプライアンス意識を持つ会社同士の場合、通常買い手側と売り手側に別々のアドバイザーが就く。より安く投資をしたい買い手側と、より高い価格に誘導したい売り手側で利益が相反するため、どちら側につくかで提供するアドバイスの内容が全く逆になってくるからだ。

したがって、日系企業に買い手側のアドバイザーとして就くことが多い筆者の場合、現地企業の売り手側のアドバイザーと相対して案件を進めていくことになる。

ここで、売り手側のアドバイザーの力量により、案件の成功の可否は大きく異なってくる。

売り手側のアドバイザーには、主に下記の4点が求められる。

(A)しっかりとした案件をソーシングしてこられるか

(B)案件の内容を正しく伝えられるか

(C)売り手側の企業を正しく案件に誘導できているか

(D)案件全体の状況をハンドルできているか

■案件ソーシング力とその信頼性が重要

まず(A)の「しっかりとした案件をソーシングしてこられるか」だが、売り手側のアドバイザーは、彼らにとっての「商品」である現地企業の出資ニーズや売却ニーズを踏まえた案件を用意する必要がある。これは新興国のみならず、どこの国も同じだが、売り手側のアドバイザーに就くためには、現地企業のトップマネジメントと強固な関係を築き案件を受注する必要がある。売却を依頼する企業からすれば、会社の方向を決定する重要なプロセスを委ねるのだから当然だ。

このような現地の金融機関やアドバイザリー会社が、しっかりとした関係構築の下で持ってくる案件ばかりであれば問題ない。しかし実際のところ新興国に多いのは、どこからか話を聞きつけ、それをあたかも自分の案件かのように見せかけてアプローチしてくる「ブローカー」案件だ。

こうしたブローカーの特徴としては、売り手側企業と直接のコンタクトがないため、案件情報の詳細を理解していない。こちらが詳しい情報を尋ねると、「買い手側の名前を開示してから情報を教える」と言ってくる。つまりは「日系企業の某社が興味を持っている」と、買い手の名前をネタに、次は売り手へのアプローチを図っているのだ。

弊社の場合、このようなブローカー案件は一切相手にしていない。アドバイザー業を生業としている場合は、このようなブローカーと単に距離を置けば問題ないのだが、現地で事業を展開している会社がブローカーと会う場合、別件でたまたま接触しただけでも、その事実を持って「某日系大手が興味を持っている」と売り手企業に吹き込むケースもあるのでたちが悪い。

■案件内容が違うケースも

(B)の「案件の内容を正しく伝えられるか」は、あまりに基本的な話のように思われるかもしれない。ところが新興国であるほど、案件の具体的な情報が分からない形で買い手側に話が寄せられるケースが多い。上記のブローカー案件は、そもそも具体的な情報を理解していないわけだが、そうでない一般的なアドバイザーが持ってくる案件であっても、売り手側の企業情報が不正確なことがある。

日本や欧米企業の一定規模以上の案件では、売り手側のアドバイザーが、実施前に「セルサイド・デューディリジェンス」と呼ばれる売却対象企業に対する調査を行うことが多い。そこで事業内容の把握とともに、買い手候補からの指摘が予測される問題点を事前に確認し、対応策を検討する。こうした調査を行う過程で、会社の想定される売却価値を定め、それを高めるためにどのような「ストーリー」に基づいて、売却を進めるかを検討する。

しかし新興国においては、規模が相当大きな案件でない限り、売り手側アドバイザーがしっかり事前にセルサイド・デューディリジェンスを行うことは少ない。従って、売り手側が自分のクライアントの実情をしっかり理解していない案件も多い。ひどい場合は売り手側のアドバイザーの知識が、買い手側のアドバイザーとそれほど変わらず、売却対象会社の基本的な情報についてすら答えられないこともある。 

より問題となるのは、説明を受けた内容が大きく実体と異なっている場合だ。当初聞いた内容を前提として話を進めたところ、実は売り手側アドバイザーが誤った情報を伝えており、同様の事実はなかった、という例もある。

■新興国に多い「プロセス屋」

M&Aアドバイザーと言っても、中身はピンキリだ。新興国でM&Aに関わる売り手側アドバイザー中には、M&Aを単なる「売却のプロセス」としか考えていないところも多く、売り手側の企業価値を戦略的に高めるアプローチを採っていない。

ここで(C)の「売り手側の企業を正しく案件に誘導できているか」がポイントになる。つまりは買い手候補の意向を売り手側のアドバイザーが理解せず、要望の背景を売り手側に伝えていなかった場合、案件はスムーズに進まなくなる。

例えば過去に、こちら側が売り手側の情報について問い合わせても開示されないケースがあった。理由を確認すると、売り手側アドバイザーがこちらの意図を伝えていなかったため、売り手企業が疑心暗鬼になり、情報を伏せていたことが分かった。直接こちらから売り手側企業に問い合わせの意図と、情報を開示したほうが売却時の価値が高まる可能性があることを伝え、ようやく開示に至った。

■案件の全体像が分からない

最後は(D)の「案件全体の状況をハンドル出来ているか」だ。つまりは売り手側アドバイザーが案件の全体を把握し、現在は何社の買い手候補がいて、手続きがどのように進んでいるかを把握しているかどうかを指す。

これだけ聞くと当たり前に聞こえるが、新興国では案件の全体像を把握できないことがしばしばある。売り手側に複数の異なるアドバイザーが同時に就き、それぞれが別の買い手を相手にしている場合があるからだ。

つまりは売り手側企業が複数の売り手側アドバイザーやブローカーに声をかけ、買い手を探してきたところに対し、「その買い手のみを対象とした売り手側アドバイザーに就いてよい」と定めているケース。こうなると売り手アドバイザーは他の買い手候補の情報を知らず、買い手候補が全部で何社あるのか、また話がどこまで進んでいるかも分からない。こうした状況への対応法は、また別の機会に述べるが、いずれにしても案件の不確定性を高めているのは確かだ。

■いまだ目立つ力量不足

以上の通り、売り手側アドバイザーの力量いかんで案件の進み方は大きく変わる。日本をはじめとした先進国の案件でも同様のケースは起こりうるし、新興国にもスムーズに物事をアレンジできる優秀な売り手側アドバイザーはいる。ただ残念ながら、優秀なアドバイザーは新興国に行くほど少なくなり、今回例示したような問題の発生頻度は新興国のほうがより高くなる傾向にある。

売り手側企業が売り手側アドバイザーの活用法を理解していないケースも多く、売り手側アドバイザーも、売り手の価値向上につながる売却案件プロセスをどう取り回していいか分からない。こうした不慣れさも、結果としてM&Aの環境を左右する。

次回では、今回例示したような案件に対する「慣れ」の重要性を、4番目の項目である「M&A案件の多さ、過去の実績の蓄積」として詳細に説明したい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: 日本
関連業種: マクロ・統計・その他経済

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