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【ASEAN】新興国でM&Aを行いやすい国はどこか?その見極め方(1)

■東南アジアで増え続けるM&A

東南アジアをはじめとした新興国においても、連日合併・買収(M&A)が発表されている。例えば、NNAの5月9日付の東南アジア関連記事だけを見ても、下記のような記事が出ている。

◇マレーシア:ECMリブラ、チューン・ホテル複数を買収(https://www.nna.jp/news/result/1604920

マレーシアの投資銀行、ECMリブラ・ファイナンシャル・グループは4日、ホテル事業の拡充に向け、「チューン・ホテル」ブランドのホテル複数を買収すると発表した。

◇シンガポール:地場投資会社、米オーサーブを買収(https://www.nna.jp/news/result/1605575

「モバイル・サーベイ」と呼ばれるモバイル端末を利用したアンケートのソフトウエア開発を手掛ける米オーサーブ(Osurv)は5日、シンガポールのプライベートエクイティ・ファンド、タン・キャピタル・パートナーズに買収されたと発表した。

◇タイ:地場バイオ医薬品、キューバ機関と合弁設立(https://www.nna.jp/news/result/1605080

タイのバイオ医薬品メーカーのサイアム・バイオサイエンスは5日、キューバのがん研究機関である分子免疫学センター(CIM)と合弁会社「アビニス(Abinis)」を設立したと明らかにした。がんと自己免疫疾患を治療するバイオ医薬品を研究開発する。

一般的に新興国においてのM&Aは、日本国内や欧米諸国と比較しても、より難易度が高い。それは地域特有のリスクが存在するからだ。

一方で、東南アジアの中でも、M&Aのやりやすい国とそうでない国は歴然として存在する。今回から新興国でのM&Aのやりやすさについて、国ごとのM&A環境を示す指標と、その構成要因について考えてみたい。

■新興国M&A環境指数とは

「東南アジアでどの国がM&Aを行いやすいか?」との質問をよく受ける。そうした際、筆者はこのように答えるようにしている。「東南アジアを含めて、私の見る限りM&Aのやりやすさは、おおよそ1人当たり名目GDPに正比例している」。つまり、1人当たりGDPの高い国ほどM&Aがやりやすい。

従って、東南アジアでどこが一番案件を行いやすいかといえば、それはまずは域内で1人当たりGDPが5万2,888米ドル(出典:IMF World Economic Outlook Database 2016、以下同じ)と最も高いシンガポールになる。次にマレーシア(1人当たりGDP:9,557米ドル)、タイ(同:5,742米ドル)と来て、インドネシア(同:3,362米ドル)、フィリピン(同:2,858米ドル)、ベトナム(同、2,088米ドル)――と続く。

■そもそもM&Aのしやすい環境とは何か

それでは、何をもってしてM&Aのしやすさというのだろうか。複数の要素が存在するが、少なくとも下記の6つのポイントが含まれるだろう。

(1)制度面の整備度合い

(2)会社情報の信用度

(3)現地アドバイザーの力量

(4)M&A案件の多さ、過去の実績の蓄積

(5)現地企業におけるM&Aに対する意識

(6)資本市場の整備度合い

今回はその中でも、1番目の制度面の整備と、2番目の会社情報の信用度について取り上げたい。

■制度面で実現に耐えられる明確さが存在するか

一番目の制度面では、現地における法制度の整備がまず挙げられる。特に会社法などの現地での法律において、どの程度M&Aの手法が整備されているか、またそもそも外資による活動がどこまで許容されているかが挙げられる。ここで重要なのは、単純に法律上規定されていることのいかんではなく、実際の運用に耐えられるよう明確に記載されているか、また不明な点については過去の案件における実例から具体的にどのような方法が可能なのかなどを含めて実用に耐えられる形でクリアになっているかだ。

多くの新興国においては、法律に書いてはいるものの、実際の運用に際してはどのように解釈すればいいかが不明だったり、また複数の法律間で相反する書き方になっているため、現地の行政担当者に確認しないといけないことが多く発生する。こうした解釈における不明瞭性は、行政官による裁量の余地を与えることを意味し、賄賂(わいろ)などがはびこる原因になる。

特に、案件で合意が難しい際に、日本をはじめ他の先進国で行われているスキームを導入して解決しようとしたときに、こうした制度面やその解釈に関する問題に直面しやすい。ストラクチャー上の自由度が低いと、当然ながら双方が合意に至るためのツールも限定的になる。その結果、案件として成立する確度も低くなる。

法律以外にも、会計面や税務面での整備も同様に重要だ。どの程度開示が義務づけられているのか、どの程度明確に行う必要があるのかによって、次にあげる会社情報の信用度にも直結してくる。

■会社情報の信用度は案件実現性のカギ

M&A案件を進める際には、対象会社の情報をより深く理解することが必要だ。そうした際に、上場企業であればどこの国においても総じて一定程度の情報の開示がなされている。一方、圧倒的に多くのM&A案件は非上場会社を対象にして行われている。そうした際、どの程度対象会社の情報を取得できるかによって、特に案件初期段階での実施の可否の判断に大きく影響してくる。

これは新興国に限った話ではないが、基本的に儲かっている非上場会社にとって、その財務情報を開示することにあまりメリットはない。開示すればするほど税務当局からより高い税金を取られるだけだ。多くの新興国の企業は目的に応じて二重三重の帳簿を用意していることが一般的だ。例えば、一つは銀行用、一つは税務署用、一つは自社の実態を理解するためなど目的に応じて使い分けている。

このような状況下で案件を進めるには、どれだけその対象会社が信用に足りる情報を開示するかにかかっている。通常M&Aにおいては、相手の会社内容を精査するデューディリジェンスを経て買収対価を決め、そもそもの案件実施の可否の判断を行う。先方が情報をしっかり開示しないで後で顕在化した問題点に対しては、その分の対価の調整などを行うようにし、より積極的に情報開示を促す形でとり進める。

ただ、多くのケースにおいて、そもそも情報自体がしっかり整理されていなかったり、また悪意を持って不利な情報を隠したりするケースがどうしても発生しがちだ。こうなる理由には、次の論点で述べる現地アドバイザーの力量のなさにも起因する点もあるが、やはりそもそもの情報の開示自体についての意識の低さに原因がある場合が多い。

次回以降では、3番目の論点である現地のアドバイザーの力量以降について、より詳細に説明したい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学及び生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリー及び業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: ミャンマーカンボジア日本
関連業種: マクロ・統計・その他経済

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