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【アジアで会う】藤代亜弓さん 極品マーケティングマネジャー:第97回 本物の日本の「文化」を伝える仲介人(シンガポール)

ふじしろ・あゆみ 1989年東京都生まれ。共立女子大学卒業後、総務コンサルタント会社を経て和紙繊維の製造販売や伝統工芸品の輸出販売を手掛けるキュアテックスへ転職。2014年から日系中小企業のシンガポール販路開拓サポート事業を手掛けるキュアテックスのグループ会社、極品(いっぴん)のアンテナショップ兼カフェバー「IPPIN CAFE BAR」立ち上げに伴い同国に移住。

シンガポールの中心部モハメド・スルタン通りにある「IPPIN CAFE BAR」。店内は販売エリアも併設し、日本酒やお茶、お菓子など日本各地の特産品が並ぶ。店舗は、極品が展開する中小企業向け販路開拓サポート事業の一環として、商品の紹介・販売のほか、商談時に実際に商品を試食できる場としての役割も果たしている。日本の食を海外に伝えたい日本人と、これを取り入れたいシンガポール人。その両者をつなげるのが藤代亜弓さんだ。

■一筋縄ではいかなかった開店準備

シンガポールには、極品の立ち上げのために12年から出張ベースで訪れていた。もともと取扱商品の展示スペースはシンガポールに確保していたものの、シンガポールでは食べ物を提供する際のライセンス規制が厳しく、商談時に試食ができないという難点があった。これがカフェバーをオープンするきっかけとなった。

「オープンまでは困難の連続だった」と振り返る藤代さん。店舗の賃貸契約後、開店準備を進めていたある日、現場に戻ると、以前の賃貸主から買い上げたものがすべてなくなっていた。ほかにも、工事業者がシンガポール政府による飲食店の店舗設置に関する規定変更を知らなかったことから、工事日程が3カ月遅延。店舗が入るビルのパイプの老朽化で水が漏れ、床に保管してあった商品を無駄にしてしまったこともあった。14年10月にやっとの思いでオープンにこぎつけた時には、設立資金も底をついていたという。

開店後の課題も尽きなかった。苦労したのは、人手不足が深刻なシンガポールで「スタッフが集まらなかった」ことだ。休日返上で働く日々。現在もカフェバーの人手は足りない。ただ、極品の社員がカフェバーを手伝うなどの協力態勢が整っており、極品のドアをくぐると屈託のない笑顔で出迎えてくれる従業員からは、藤代さんの統率力で築き上げてきた絆が感じられる。

■押し付けないビジネス

「日本文化が大好きだからこそ、本物を伝えたい」と藤代さんは語る。

祖母が有名な日本舞踊家で、自身も幼いころから日本舞踊や三味線を学び、大学では伝統芸能を専攻。自国の「文化」への思いは強い。ただ、シンガポールでは、「『熱燗』と『焼酎』を同じ意味でとらえるなど、正しい日本の文化や知識が意外と伝わっていない」という。極品の運営を通して、自分の口で直接、日本に関する正確な情報を織り交ぜて商品説明ができることが喜びという。

ただ、日本文化を紹介はするが押し付けはしない。そこにはサポート事業での苦い経験がある。シンガポールで事業を開始した当初、食関連に限らず幅広い商品を取り扱っていた。どの商品も質が高く、自分でも購入するほどだったが、シンガポール人にはあまり受け入れられなかった。どんなに優れた商品でも、相手の要望をくみ取らなければものは売れない。事業の本質的理論にあらためて気付かされた。シンガポール人と触れ合ううちに、彼らは日本の食に対して強い興味を示すことに気付いた。「本物を伝えることも大切だけど、相手がどう考えるかも大事。受け入れられなかったらそこで商談は終わってしまう」と語る。

日本人にはおいしい日本茶も、甘党のシンガポール人には苦すぎたために受け入れられなかった。支援先の日本茶の卸企業に提案して苦味を抑えたブレンドに変更。その日本茶は、「卸売り実績も伸び、極品のお客さんも喜んで飲んでくれるようになった」という。藤代さんが現場で感じたことを支援先と共に解決していくことも、中小企業に対する重要な支援方法の1つなのだ。

「極品の店舗を訪れてもらえば分かるように、ここはいわゆる外国人が想像する典型的な日本の雰囲気は漂ってないでしょ」とほほ笑む。極品では外国人にとって日本食の定番であるすしは提供していない。内装もカウンターテーブルを置いて壁を白く塗り、ポップな音楽を流すなどモダンな印象を受ける。しかし、極品のような店舗は確かに日本に存在する。むしろ極品こそが今の日本の街にあふれるカフェバーそのものではないだろうか。

カフェバーの開店から約1年半。事業も軌道に乗り始め、「ようやくこれまでの成果が出始めてきた」という。カフェバーの売り上げは、開店当初から約6倍に増えた。

「これまで仕事面で困難な状況にも直面したが、今は刺激的な体験だと思っている」と語る藤代さん。その目は、若いながらもシンガポール市場で日本の食の販路を開拓するのに必要なことをしっかりと見据えている。(シンガポール&ASEAN版編集部・金子桂子)


関連国・地域: シンガポール
関連業種: 社会・事件

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