 「求めるのは安定政権。ただそれだけ」。豪州に進出する日系企業の幹部は、「ハング・パーラメント（どの党も過半数を持たない中ぶらりん議会）」の可能性が出て…

オーストラリア

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「求めるのは安定政権。ただそれだけ」。豪州に進出する日系企業の幹部は、「ハング・パーラメント（どの党も過半数を持たない中ぶらりん議会）」の可能性が出てきた選挙結果を見ながら、こうつぶやいた。
金融危機からいち早い回復を果たした豪州だが、今年に入り企業は政治に不信感を抱き始めていた。相次ぐ税制の変更、首相交代、与党・労働党内の不和疑惑なども浮上し、政策の見通しがつかない状況が続いていたことが背景にある。将来の事業計画を打ち出すことすらできない状況にいらだちを募らせる企業も多いという。
21日の総選挙投票日前には、資源業界の関係者が、「実は日系企業としては、ギラード首相が発表した鉱物資源利用税（ＭＲＲＴ）を重要視していませんでした」と、胸の内を明かした。労働党が政権維持した場合、選挙後に修正案を発表する可能性が高いことに加え、野党・保守連合（自由党、国民党）が勝利した場合、新資源税の導入案が白紙に戻るからだ。
ＭＲＲＴは豪州の大手資源会社との話し合いで、資源超過利潤税（ＲＳＰＴ）の妥協案として持ち上がったが、総選挙に向けた目くらましにすぎないとの見方も浮上。「妥協案は、総選挙を乗り切るための戦略」という声も聞こえていた。
■政局不安は５月から
豪州の政局不安は、今年５月に連邦政府が発表したＲＳＰＴ導入案がきっかけになった。ＲＳＰＴ導入により、資源会社の利益が急減することから、各地で事業の一時中断や見直しが相次ぐなど、経済にまで大きな影響を及ぼした。中長期戦略として、投資先を豪州ではなく中南米に変更する企業も出始めていたほどだ。
アジアでの資源需要の高まりにより、金融危機からいち早い回復を遂げた豪州経済だっただけに、地元紙も連日、連邦政府と資源会社との論争を報じた。地元有力紙オーストラリアン・ファイナンシャル・レビューは、消費税（ＧＳＴ）制度を10年前に導入した当時の自由党党首ハワード元首相とのインタビューを掲載。ハワード元首相が、現政権によるＲＳＰＴ導入計画について、「税制見直しの悪い事例そのもの」と断言するなど、与党による経済政策への批判は高まった。
メディアなどでの報道の影響のもあり、労働党の支持率は急落。６月24日には、人気の高かった副首相のジュリア・ギラード氏を新党首に選出し、支持率回復に努めた。就任からわずか１週間後の７月２日には代替案となるＭＲＲＴを発表し、その手腕の高さが評価され、年内に実施予定だった総選挙に弾みをつけていた。
支持率回復に加え、ギラード首相人気が上昇していたことから、就任から約３週間と、在任期間は短かったものの、７月17日に総選挙の日程（８月21日）を決めた。人気上昇を背景に、政権維持を確実視していたともみられている。
■総選挙の背景に党内不和
ただ、総選挙日程の発表を、別の視点で分析する声も出ていた。「ＲＳＰＴ論争から首相交代劇。労働党内に対立構造があるのは確実だ。総選挙の日程を早期に決めた背景には、労働党内の不和が表面化するのが時間の問題となっていたためだ」との見解もあったようだ。
その後、こうした声は現実となる。８月に入り、ギラード首相とラッド前首相との確執が取り上げられるなど、労働党内の不和が地元メディアで大きく取り上げられた。党内不和の表面化を避けるために総選挙を早めたとの見方を軸にすると、労働党は結果として足をすくわれた形となった。
また、豪州政治に詳しい人は、「年内の総選挙実施が確実だったことから、すでに政策発表の効力が薄らいでいたのも事実。党首交代も考慮すれば、早期に総選挙を実施する必要に追い込まれていた」とも指摘。安定した政権運営のためには、総選挙が重要なカギを握っていたのは間違いないともみている。
■選挙戦でも“弱さ”表面化
選挙キャンペーンでは、労働党の党内不和疑惑以外にも、「政局の不安定さ」が露骨に現れていた。
首相交代で波に乗ったと確信していた労働党は、選挙キャンペーンを通じて保守連合との差を広げる予定だったが、これに失敗。ニールセンとニューズポール、ギャラクシーが総選挙日程の発表から５週にわたって実施した世論調査では、選挙戦中盤に保守連合が２党間比較で一時優位に立っていた。
ただ、有権者が保守連合の公約に賛同した結果の支持率アップではなかった。労働党が、党内不和や不法移民問題で支持率を落としただけだった。総選挙日程の発表から５週間と期間が短かったこともあり、労働党、保守連合ともに明確な公約提示ができなかった。
今回の選挙キャンペーンの特徴としては、与野党の政策に大きな差がみられなかったことも挙げられる。与野党ともに、対米関係の重視、資源需要が高まるアジアとの関係強化、捕鯨反対など共通点が多かった。有権者としては、政策論争が激しくなかっただけに支持政党が決められなかった。厳しい見方をすれば、「現実的で魅力ある政策を国民に提示できなかった」ともいえる。
選挙戦終盤では、労働党が支持率を盛り返し、わずかに保守連合をリードするという接戦状態で投票日に突入。投票直前にも、専門家の見方は「労働党が政権維持」、「保守連合が政権奪還」に分かれるなど、結果予測が非常に困難な状態となっていた。22日時点では、1940年の総選挙以来、70年ぶりの「ハング・パーラメント」になる可能性も指摘されている。
十分な政策論争が行われないまま、投票日を迎えた今回の総選挙。結果は労働党、保守連合ともに過半数となる76議席を確保できない状況になる見込みだ。今後、少数政党や無所属議員の囲い込みを図り、両党とも政権を確保したい考え。ただ、安定した政権運営が困難なことは間違いない。政局の混迷は当分続きそうだ。【豪州編集部・安藤久史】

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