• 印刷する

【アジアで会う】川崎直也さん 寿司織部マスターシェフ 第404回 「楽しかった」が最高の褒め言葉(マレーシア)

かわさき・なおや 1976年生まれ。千葉県出身。高校生の時にアルバイトをしていた飲食店の店主の勧めがきっかけで18歳ですし職人の道に入り、29歳で上京した。築地や六本木、上野、赤坂などで経験を積み、接客や仕事の質が認められ2014年にマレーシアの「寿司織部」のセカンドシェフに登用。21年には日本政府から「日本食普及の親善大使」に任命された。趣味は、ウェイクサーフィンやムエタイ、ロッククライミングなど。

マレーシアの首都クアラルンプールにある「寿司織部」では、シェフが楽しそうに歌ったり、踊ったりしながらすしを握る。客はうれしそうにその様子を写真に収め、交流サイト(SNS)にアップする。日本の高級店の部類に入るすし店では想像しがたい光景だ。

マスターシェフを務める川崎さんが、すし職人になったのには、「子どもの頃、近所で皆が集まる機会がある際に母が振る舞う料理を皆が楽しそうに食べる様子を見て、料理で人が喜ぶっていいなと思ったこと」が根底にある。

高校時代は飲食店でアルバイトをし、卒業後は料理人として修行をするため東京に出ようと考えていた。ただ、飲食店の店主から「東京なんていつでも出られる。地元のすし店で修行するのはどうか」と勧められ、すし職人の道に入った。

出身地・千葉のすし店では、「初めは厨房(ちゅうぼう)にも入れてもらえなかった」。接客や掃除などから始まり、厨房に入れてもらえるようになっても、野菜を切ったり、従業員のまかないを作ったりと魚を触らせてもらうには約4年かかったという。

「親方の言うことは『絶対』。すごく厳しかった」と苦笑する。また、親方がよかれと思い常連客にすしを握らせてくれたのに、当の客から食べないままのすしを投げられることも。しかし「応援してくれるお客さまもたくさんいたので頑張れた」。

いろいろな経験を積みながら25歳でついに店長になり、マネジメントにも携わるようになったが、日本の企業のすし店では、役職が上がるにつれてすしを握る機会がどんどん減った。やはり「すしを握りたい。自分の作ったすしでお客さまを喜ばせたい」という思いから当時のすし店を辞めて、すし職人として上京したのが29歳の頃だ。

東京では外国人の来店が多く、英語が話せずに苦戦。「人手不足に悩まされるなど苦労したが、誕生日や店長に昇格した日には常連客がお祝いしてくれたりなど、楽しいことも多くあった」と振り返る。

東京で10年働き、39歳の時に寿司織部のセカンドシェフとしてマレーシアに渡ることになる。旅券(パスポート)もなければ、マレーシアがどこにあるかすら分からず、「全てが不安だった」。ただ、東京での仕事で外国人をお客さまとして迎えた時に英語ができず、楽しませてあげられないことに釈然としない思いがあったことから、「海外で挑戦してみよう」と一念発起した。

■言葉の壁を乗り越える

当初、マレーシアではセカンドシェフとして業務を始めた。食材や人材の管理など全体的な業務を網羅。ただ、予想通り言葉の壁にぶち当たった。

現地の従業員とのコミュニケーションは、携帯電話とジェスチャーを駆使。客からの質問は全く聞き取れず、「とりあえず質問を想定して答えてしまい、とんちんかんな回答をしてしまっていた」ことも。

とにかく英語の習得に向け、簡単な単語をノートに書いて覚えた。特に魚の名前については書店で探した本の魚のイラストを指し示し、必死に伝えようとしたこともある。「半年くらいでようやく慣れてきたなと感じた」。英語や気持ちが伝わった時はすごくうれしく、今も客と会話のキャッチボールができた瞬間は感慨深い。

マスターシェフには3年半前に昇格した。前任者が辞めてしまった中、オーナーに「成功するか失敗するか分からないが、自分のやり方で良ければマスターシェフをやる」と気持ちを伝えた。「覚悟」が伝わったと思う。

一方で、昇格後は前任者時代の客が来なくなるなどの苦労もあった。ただ、「おいしいすしだけでなく、場の雰囲気でお客さまを喜ばせるというモットーは変えずに取り組んだ。どのように至福の時間を提供するか考えている時は私自身も楽しい」と話す。特に記念日などで来店する客がいる日には、他の客も一緒に祝うこともある。「皆で一体となってお祝いする時間は、やりがいを感じる瞬間だ」という。

次のステップとして、今の店を他の人に任せて、自身の力を最大限発揮できるカウンターのみのすし店を立ち上げる夢や、自分の実力を他国で試したいという願望も頭をよぎる。「マレーシアに来て7年半。10年の区切りには何か挑戦したい」

一貫するのは「『おいしかった』と言われるだけでは不十分。『楽しかった』と言ってもらうのが目標だ」との思い。今日もきれいに切られたガリを「ポテトじゃないよ」と言って冗談を飛ばしたり、外国人には分かりづらいわさびや魚などの食材に関する知識を客に丁寧に説明したり。思わず笑みがこぼれるような時間を訪れる人に提供している。(マレーシア版編集・笹沼帆奈望)


関連国・地域: マレーシア日本
関連業種: サービス

その他記事

すべての文頭を開く

テイクオフ:マレーシアではたびたび…(10/04)

技術見本市、日系も売り込み スマートソリューションなど紹介(10/04)

新規感染1360人、2日連続で2千人未満(10/04)

早期の解散総選挙、連立政権内から反対の声(10/04)

RM1=31.2円、$1=RM4.65(3日)(10/04)

テナガとプラサラナ、LRT電力供給で提携(10/04)

MISC、エクソンとLNG船の用船契約(10/04)

NCT、工業団地開発でマイクロソフトと提携(10/04)

不動産エージソン、自販機販売事業を始動(10/04)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。

の記事は有料サービスご契約者様限定記事です。契約すると続きをお読みいただけます。契約されている方は、画面右側にある各種ログインからログインください。
無料トライアルはこちら
購読申し込みはこちら

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン