• 印刷する

【アジアで会う】落合直之さん イスラム自治政府首相アドバイザー 第366回 「当たり前の日常」を築く(フィリピン)

おちあい・なをゆき 1963年生まれ、神奈川県横浜市出身。明治大学を卒業後、商社に就職。91年、国際協力機構(JICA)に入構し、フィリピン事務所や東京本部などでの勤務を経て、2010年に外務省出向。ミンダナオ国際監視団(IMT)として活動する。その後も平和構築を専門とし、21年4月にバンサモロ暫定自治政府のムラド暫定首相のアドバイザーに就任した。

(本人提供)

(本人提供)

師匠と慕う上司の言葉が、揺るぎない信念となっている。現場を這いずり回れ――。いまでは各地に赴き、根気よく住民の声を聞いて回る「地べた派」と自称する。

南部ミンダナオ島中西部では、40年以上にわたり、独立を目指すイスラム勢力と政府軍が戦闘を繰り広げてきた。14年に和平合意が結ばれ、19年2月、バンサモロ・ミンダナオ・イスラム自治区(BARMM)に暫定自治政府が誕生した。

正式な自治政府への移行に向け、暫定政府や住民に現状や課題を聞き取り、政策などに対して助言する。新型コロナウイルス禍で頻繁に現地を訪れることは難しいが、状況に応じて連絡手段を変えながら対話を重ねている。「制約下でも役割は同じ。当事者の最前線で相手の考えを分析し、日本がどう支援できるかを探る」

■社会変革に奮闘する「武士」たち

幼い頃は外で遊んで、けんかもする日々だった。母親から「負けて帰って来るな」と家から閉め出されたこともある。小学生から高校生までボーイスカウトに没頭し、当時人気を博した川口浩の探検番組に憧れた。幕末・明治が舞台の歴史小説を読んでは、「この時代を駆け抜けていたら」と空想にふけった。

大学1年の時、洞窟探検部の遠征でパプアニューギニアを訪れた。素朴で原始的な生活にほれ込み、卒業間際に再訪問した。その後、南太平洋諸国との貿易業を手掛ける商社に入社する。

つらい現実にも直面した。赴任先のサモアで離島を訪れると、壁のない家で病気の少女が苦しんでいた。痛がる場所に聖書を当て祈る母親の姿に、最後は神様に頼るしかないのだとショックを受けた。帰国後、吸い寄せられるようにJICAに応募する。

入構から5年後、転機が訪れる。フィリピン駐在中、ミンダナオ問題に携わった。社会を変えようと奮闘するモロ・イスラム解放戦線(MILF)の指導者らの姿が、明治維新のヒーローたちに重なって見えた。

開発協力の機関として、平和構築にどう取り組めるだろう。紛争と平和を体系的に学ぼうと、夜は職場と大学院を往復した。4年間駐在したヨルダンでは、バンサモロの人々に通じるイスラム教の精神を知る。

フィリピンを担当する本部部署に戻り、出張ではミンダナオ島西部コタバト市へ飛んだ。そのたびにMILF側の停戦監視委員会の故ラシッド・ラディアッサン事務局長に会った。なぜ武器を持ち戦うのか、どんな世を目指すのか。熱血漢の彼から多くを学ぶ。

■日本の経験、新たな政権に

2008年8月、ミンダナオの和平交渉が頓挫し、武力衝突が再燃する。国際監視団のマレーシアなどが撤退する中、日本も首都マニラに一時撤退する方針を固め、当時の緒方貞子理事長に了解を求めた。緒方氏の答えは「周りが引いた時こそ前に出なさい」。毅然(きぜん)とした発言にその場にいた全員が驚いたが、MILFと日本の関係を深めた転換点になったと感じている。

念願の監視団要員となったのは2年後。社会経済開発シニアアドバイザーとして、紛争影響地域の住民から現状やニーズを聞き取り、生計向上や復興支援などに当たった。

ある出来事が印象に残っている。高台の上に住むキリスト教徒と、丘の下に住むイスラム教徒(ムスリム)との間で激しい武力衝突が起き、避難民が出ていたピキット町に、日本の支援で小学校を建設することになった。

何度も通い住民に話を聞く中で、キリスト教徒の両親に「いずれムスリムの自治政府の領域となった場合、ここに住み続けるか」と尋ねると、こう返ってきた。「どちらでも構わない。子どもたちが毎日学校に通える平和な日常がほしいだけだ」。家族や仲間が殺され、大義名分を掲げて争い合ってきた人々の、本当の願いは「普通に暮らすこと」だと気付かされる。

立場を変えながらも、ミンダナオ和平に継続して奮闘してきた。バンサモロ政府関係者からは会談のたび「落合はどこにいる」と話題にされるようになった。

新型コロナの影響で、自治政府樹立に向けた議員選挙は25年への延期が見込まれている。行政サービスの円滑化や武装解除と、課題は多い。「日本も明治維新から試行錯誤して国家を築いてきた。日本の経験を伝えたい」。新しい時代を切り開く現地の人々とともに、「夜明け」を見据えている。(フィリピン版編集・大堀真貴子)


関連国・地域: フィリピン
関連業種: 社会・事件

その他記事

すべての文頭を開く

水際強化、PCR陰性証明義務付け(12/03)

新型コロナ、新たに544人感染(12/03)

日本の牛丼、比市場攻略へ 価格訴求高く、制限緩和にも期待(12/03)

成人への追加接種、3日から開始(12/03)

新型コロナ、新たに564人感染(12/03)

主要インフラ事業、現政権下での完了は18件(12/03)

南北通勤鉄道、来年に一部完工見通し(12/03)

国際線予約が一転再開、邦人帰国に対応へ(12/03)

すべての文頭を開く

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。

の記事は有料サービスご契約者様限定記事です。契約すると続きをお読みいただけます。契約されている方は、画面右側にある各種ログインからログインください。
無料トライアルはこちら
購読申し込みはこちら

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン