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混迷する豪中関係、日本はどうする 山上信吾・在豪日本国大使インタビュー

中国が貿易を盾に世界中で覇権行為を繰り返す中で、オーストラリアを含め、欧米諸国が中国の扱いに手をこまねいている。昨年末にオーストラリアに赴任した山上信吾・在オーストラリア日本国大使は地元メディアに登場し、それに関して発言する機会が増えている。台頭する中国を前に、日本の外交はどうあるべきなのか。またオーストラリアとはどう付き合うべきか。ざっくばらんに山上大使に聞いた。【NNA豪州編集部】

――赴任されて約3カ月ですが、オーストラリアの政界や経済界の方々と会われましたか。

赴任したのが昨年のクリスマス明けです。「First 100 days」が鍵になると考えて、積極的に人に会ってきました。モリソン首相だけでなく、ターンブル前首相やギラード元首相などの首相経験者、また現政権の閣僚らとじっくり意見交換すると、日本との関係の重要さを力説されます。日豪の補完的な貿易関係は、オーストラリアにとっても重要だと異口同音に言われます。オーストラリアは現在、中国との困難な問題を抱えているので、日本の経験を聞きたいという関心も高いと感じています。

――水素産業や宇宙分野に対する期待が高まっていますが、オーストラリア側からも日本の投資への期待を感じますか。

それはいろいろな人と会うたびに感じます。今までシドニーに2回、メルボルン、ブリスベン、パース、ダーウィンを訪問しましたが、どこに行っても日本企業への高い期待を感じます。

「中国にオーストラリアは粘り強くて強靭な対応をとっている」

「中国にオーストラリアは粘り強くて強靭な対応をとっている」

――オーストラリアではビザが取りにくくなるなど、在豪日本人ビジネスマンの今後の減少も懸念されています。

日本の駐在員が新型コロナウイルス感染流行の影響で引き揚げる動きがあることは理解していますが、長い物差しで見ると、在豪日本人の数自体は増えており、2019年は10万人を超えました。世界で米国、中国に次いで第3位です。逆に中国は減っており、いずれ中国を抜くかもしれません。

――コロナの対応では、ニュージーランド(NZ)やオーストラリアは政治主導で非常にうまく抑え込んでいます。一方で、日本のコロナ対応は常に後手後手で中途半端だと国民から見られています。これについてはどう思われますか。

私の立場から言えるのは、オーストラリアがうまく対処した一方で、オーストラリアから見ると、日本も比較的うまく対応しているのではないかと言われます。実際にハント保健相は今年、NZ、台湾や韓国と並んで、日本の対応も賞賛しています。

ただし日本のコロナ対応が難しいのは、オーストラリアとは、東京のような大都市の生活圏内の人口構成、歓楽街の多さなどが違うことです。日本政府が、困難な中で対応を強いられていることは勘案すべきで、欧米の状況と比べて、日本の対応が特段遅れているという認識はありません。

――オーストラリアは現在、中国による経済制裁に業を煮やしています。オーストラリアの中国への対応について、山上大使の発言が地元メディアに取り上げられていました。

オーストラリアが受けている貿易制限措置は、オーストラリア1カ国だけの問題ではありません。過去には日本がレアアースで、ノルウェーはサーモンで、フィリピンはバナナで、カナダはカノーラ油で、韓国は観光客制限で、などいろいろな形で制限措置を受けてきました。中国に対しては、協力できることは協力し、ただすべきはただすということが日本の基本的姿勢です。オーストラリアは粘り強くて強靱(きょうじん)な対応をとっていると思います。

大事なことは、貿易が政治的圧力をかけるための道具に使われてはいけない、ということです。それはモリソン首相と菅首相の間で昨年11月に署名した日豪の共同声明にも書かれています。オーストラリアの対応は称賛に値します。

――一方で、日本の外交政策は、中国や韓国に対して非常に腰が引けていると批判されます。香港やウイグル、内モンゴル、ミャンマーなどの政治的混乱に対して、日本政府は毅然(きぜん)とした対応はしていないように見えます。それに現在、欧米やオーストラリアなどが結託して、クーデターを起こしたミャンマー国軍を制裁していますが、日本は加わってもいません。ミャンマー国軍は日本と非常に強いつながりがあるので、日本が果たせる役割は大きく、調停の外交的成果を上げるには格好のケースなのに、日本が及び腰なのはとても残念です。

それは違います。決して腰が引けているばかりではないと強調したいです。例えばレアアースの時も泣き寝入りしたわけではなく、世界貿易機関(WTO)への提訴に持ち込み、日本は勝訴しました。その後、90%近くあった中国への貿易依存度を60%強にまで下げました。そういう意味では、日本の対応をオーストラリアが参考にしているのです。

香港とかウイグル問題など、中国の人権問題でも、日豪の今年2月の首脳会談では声を揃えて、深刻な懸念を表明しました。日本外交のやり方として、声を大にして公の場で相手の国を批判するいわゆる「メガホン外交」より、水面下で地道に静かに働きかける外交を志向している面もあります。腰が引けていると捉えられてしまうことは心外です。外交では、表で言うことも大事ですが、裏で地道に働きかけることも重要なのです。

外交が難しいのは、相手があるということです。ミャンマーの中でもいろいろな勢力があります。(国軍との)パイプは確かにあり、その日本が持っているミャンマーとの関係を最大限に生かして水面下で現在働きかけをしている最中なのです。これは日本独自の役割です。オーストラリアもそれを認識して高く評価しています。

また中国の話で、欧米と日本が決定的に違うのは、中国は日本と目と鼻の先にある隣国だということです。日本にとっては最も重要な貿易パートナーであるのと同時に、10万人を超える在留邦人も生活していますし、安全保障上の問題を提起する国でもあります。いろいろな連立方程式を考慮して対応する必要があるのです。及び腰だということはありません。

――ただ、日本はメガホン外交をやらず、水面下での働きかけに重きを置きすぎるために、逆に相手国になめられてしまい、結果的に相手国のいいようにやられてしまう例が多いです。例えば韓国の従軍慰安婦の主張や、中国の尖閣問題などでもそうです。

しかしそれは、例えば尖閣を守っている海上保安官や海上自衛官には失礼な話です。相手側が日夜、巡視船や漁船を送り込んでくる中で、紛争を不必要に激化させない形で、まさに毅然と、プロフェッショナルに対応しているわけです。それもまた重要な外交の一部。日本が毅然と対応していないわけではないと思っています。

日本人自身が控えめで大人しく、相手を立てる気質があるのでその延長で、モノを言っていないという見方があることは重々承知していますが、外交の現場に行くと、我々はそんなことは全然ありません。

――外交の現場レベルでは確かにそうかもしれませんが、例えば安倍前首相はプーチン大統領から公開の場で、北方領土問題を事実上棚上げしようと提案されて何も言い返せなかったり、茂木外相は中国の王毅外相との会見で、尖閣諸島が中国領だと主張されても、薄笑いさえ浮かべて反論できなかったり、主要な政治家レベルではそれができておらず、日本は非常に損をしている気がします。

政治レベルでも事務レベルでも主張すべきは主張していると思います。日本人が海外で暮らしていると、よけいに強く日本を意識するという側面があり、海外在住の日本人は、もっと日本はできるのではないかと感じるのかもしれません。一般論として、海外に出た時にどういう物言いをしなければいけないのか、相手に説得力ある言い方で日本の立場をどう主張すべきなのかというのは重要な点であると思います。

――日本にとってオーストラリアは、同盟国としてどの立ち位置にありますか。また日米豪印によるクアッドは今後どこまで進みそうでしょうか。

オーストラリアは、これからの日本にとって最も大事なパートナーではないかと思っています。実際、オーストラリア自身が日本との関係をものすごく重視しているのはキャンベラで毎日のようにひしひしと感じます。菅首相が就任して初めて電話してきた外国首脳も、初めて菅首相と会談した外国首脳もモリソン首相だったことは象徴的です。両国の信頼関係が進んでいるのです。

日米豪印については、本省で以前担当していた立場からは、よくぞここまで来たなという実感があります。重要な一里塚となったのが去年の10月です。茂木外相がホストとなって、日米豪印の4カ国で外相会合が開かれました。日本が汗をかいてきたことが今回の首脳会議につながったのです。

もし日本が何もしていなかったら、日米豪印もここまでこなかったでしょう。インドもオーストラリアも一時期二の足を踏んでいたのに、一貫して進めようと言い、地道に働きかけてきたのは日本でした。最大の推進国は日本だったのです。そうした日本の水面下の努力も見てもらいたいですね。

日米豪印は今年末までに対面で会談を行おうとしています。「ワクチン」「気候変動」「重要新興技術」の3分野の作業部会立ち上げでも合意しました。これを通じて、具体策をどんどん打ち出していくでしょう。

「裏で地道に働きかける外交も重要」

「裏で地道に働きかける外交も重要」

――オーストラリアは、潜水艦事業で選んだフランス企業と揉めています。日本側が何らかの形で事業協力する余地はないでしょうか。

私も入札当時、本省の総合外交政策局審議官として、潜水艦の売り込みには少なからず携わってきたので、そうりゅう型潜水艦がオーストラリアに選ばれなかったのはいまだに残念です。ただし、日豪の伝統的な投資関係に加え、安全保障やインテリジェンス面でも協力関係が進んできたのは確かですので、可能な防衛装備品の面で今後協力していこうということは十分あり得ます。防衛装備品と技術移転に関する協定は日豪間では締結済みです。

――2015年の日豪EPAの後、日本向けのオーストラリア産農産物輸出は数倍以上に膨れ上がっていますが、逆にオーストラリア向けの日本産輸出増加の実感がありません。日本は農産物や食品の輸出に力を入れていますが、オーストラリアへの輸出はまだまだです。

キャンベラに来る前は東京で経済局長をしていたのですが、そういう受け止め方はしていません。日豪EPAは日本にとっても効果があったと思っています。特に光を当てたいのは、食料、エネルギー、鉱物資源の安定供給という側面です。オーストラリアから日本への農産物輸出が増えていることをもって、オーストラリアだけが得をしているというわけではありません。オーストラリアからいいものが安く入ってくるということは日本経済にとっても消費者にとってもプラスなのです。

それに、日本からオーストラリア向け輸出については、協定直前の14年時点から19年までを比べて30%増えています。投資残高も14年末から19年末の比較で50%増えています。輸出も投資も増えているという意味では、オーストラリアからの輸出だけが増えているというわけではないと言えます。

――最後に、大使としての使命は何だと思いますか。

オーストラリアにはそもそも、ガンガン仕事するために来ました。私の使命は、オーストラリアでの日本の存在感を高めることと、日本でのオーストラリアの存在感を高める手伝いをすることです。

大使の仕事は「筆頭商務官」、もしくは砕けて言うと「お座敷芸者」的な立場かもしれません(笑)。声がかかればどこでも飛んでいきます。また日本でオーストラリアの存在感を高めるという意味で、大使館のホームページで、私がオーストラリア国内のいろいろな都市を訪れた雑感を書く「南半球便り」というコーナーを始めましたので、是非ご覧になってください。

オーストラリアは日本にとって大事な国なのに、米国や英国の陰に隠れがち。日豪関係がいかに大事なものなのか、皆に訴えたいと思います。それが大使としての私の使命だと思っています。(了)【聞き手=西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: マクロ・統計・その他経済政治社会・事件

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