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【アジアで会う】ランドル・ハウレットさん 作家 第324回 政治に翻ろうされたゴーゴーバー経営(タイ)

ランドル・ハウレット 1952年11月、米ジョージア州生まれ。父は軍人、母はノルウェー人の画家。デンバー大学で経営学修士(MBA)取得。海兵隊に6年在籍し、沖縄にも駐留。退役後は22年間、保険会社に勤務。2012年、退職してタイへ。バンコクでゴーゴーバーを足かけ5年経営。執筆活動も始める。

往年の街の様子をミニチュアで復元したパッポン博物館を案内するランドル・ハウレットさん=タイ・バンコク(NNA撮影)

往年の街の様子をミニチュアで復元したパッポン博物館を案内するランドル・ハウレットさん=タイ・バンコク(NNA撮影)

バンコクの歓楽街パッポンは今、うつろな空間と化している。女性がステージで踊るゴーゴーバーの音響も、通りを埋めた屋台も、新型コロナウイルスが消してしまった。わずかな数の店だけが、ネオンをともし、時にあらがうように呼び込みを続けている。

「どこも赤字だ。手の打ちようがない。今、経営者でなくてよかった」。ランディことランドル・ハウレットさんは語る。

年金生活に入ったのを機に、それまで何度も遊びに来ていたタイで老後を過ごそうと、英語の教師としてバンコクにやってきた。しかし、生徒のやる気のなさや、夜の孤独にいたたまれず、週末になると都心へ繰り出した。パッポン、ナナ、ソイ・カウボーイ。3大歓楽街に通ううち、パッポンのある店の経営を任されることになった。

水商売は初経験。地元の実力者であるオーナーに礼金を払い、家賃なども詰めて契約書を交わした。「店は昔、入ったことがあっただけ。改めて下見せずに署名する素人ぶりだった」という。

それでも、13年1月に新装開店した店は、新店主のアイデアで順調に滑り出した。毎月2回、木~土曜日に開く「パーティー」だ。中身は、ゴーゴーガールに教師や看護婦などの服を着せるコスプレ・ショー。後にはヘビを使ったスネーク・ショーも。オンラインでも宣伝に力を入れ、ベルギー産の高級ビールも出した。コンセプトは「カップルで来て楽しめる店」。店の女性との店外デート料で稼ぐ他店とは、ひと味違った路線を歩んだ。

■反政府デモが街を占拠、クーデターにほっと

だが、バーの経営は、タイの政治リスクの波をかぶることになる。タイでは01年の第一次タクシン政権誕生以来、タクシン派と反タクシン派の対立が続いてきた。14年1月になると、反タクシン派は「バンコク封鎖」を叫んで、パッポンに近いルンピニ公園など各所を占拠。事態収拾を掲げた5月の国軍クーデターへとつながっていく。

街の封鎖で、店の経営は14年2月から下降した。復調したのは10月。この間、従業員を解雇せず、自分の年金口座から金を降ろして給料を払い続けた。クーデターが起きた時は、午後10時で閉店を命じられたにもかかわらず「これで治安が改善する」と、胸をなで下ろしたという。

16年10月、今度はプミポン国王が死去。全土が喪に服して、店は再び逆風にさらされる。最終的に経営権を返上したのは、17年2月。収支を通算すれば、赤字は免れたが大したもうけにはならなかった。それより、店の女性同士の人間関係や、警察や許認可当局に対応してくれる「保護者」の存在など、多くを学んだことに意義があったという。

■インドシナ戦争時代はCIAの根拠地

パッポンの歴史を語る際、外せないのが、インドシナ戦争だ。1960年代~70年代初め、米国は北ベトナム(当時)軍の物資支援路、ホーチミンルートをたたくため、隣国ラオス領に大規模な爆撃を行うとともに、ラオスの山岳民族を反共産勢力として育成した。

その米国に基地を提供したのがタイだ。当時、パッポンには米中央情報局(CIA)の支局や、民間航空会社を装って軍事活動に従事したエアアメリカ、米石油会社や報道機関などが入居するビルがあった。CIAの工作員たちは、パッポンを拠点にラオスでの戦争を戦っていたのだ。その中には、後に米映画「地獄の黙示録」で、マーロン・ブランドが演じたカーツ大佐のモデルとも言われた通称トニー・ポー氏もいた。彼らが通った「マドリード・バー」は、今もある。

■歴史伝える博物館でガイドに、本も出版へ

19年10月、通りの一画に「パッポン博物館」が開館した。元はバナナ園だったパッポンの発展を展示した博物館で、ランディは案内人を務めている。かたわら作家活動にも入り、著作を電子出版している。高齢男性の食事と健康に関する「老いへの抵抗」(Refuse to Get Old)や、自らのバー経営を振り返る「狂った5年」(Five Crazy Years=筆名R.G.Gordin)など。今はパッポンの新たな本を執筆中。この街を作った多くの重要人物にインタビューするつもりだ。(編集局編集委員・沢木範久)


関連国・地域: タイ
関連業種: サービス観光社会・事件

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