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【アジアで会う】古川卓也さん 外資系銀行ジャパンデスク 第319回 激動のアジアとともに歩む人生(シンガポール)

ふるかわ・たくや 1966年生まれ、大阪府出身。新卒で日本の都市銀行に入行。シンガポール駐在を経験。その後、保険会社勤務を経て、外資系銀行の東京支店やインド支店で、ジャパンデスクなどを歴任。現在は、オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)シンガポール法人のジャパンデスク・ヘッドとして、日系企業の法人営業を担当している。休日は子どもと動物園に出掛けたり、プールで遊んだりするのが好きなパパの顔も持つ。

銀行員を志したきっかけは、同業界で活躍する父親の影響だった。念願かなって、新卒で父と同じ都市銀行に入行。銀行マンとしてのキャリアが始まった。

入行5年目の1995年、シンガポールに駐在することになった。タイを中心に、アジアで外資系金融機関の融資が急増していた時期だった。「確実に伸びると信じて疑わず、シンガポールからタイにどんどん貸していた」。

ところが、97年7月にタイバーツが下落。アジア通貨危機が到来し、歯車が一気に逆転した。「お世話になったお客さまから、お金を返してもらわないといけない立場になり、大きな迷惑を掛けてしまった」と、古川さんは悔しさをにじませる。

やり残した思いを抱えたまま数年で日本に帰国。直後、勤務先の銀行が他行と合併することが決まった。その銀行で働きたいという意志で入行した古川さんは、当惑した。通貨危機時の挫折が相まって、統合が落ち着いた2006年に銀行業界を一度離れることにした。

転職した保険会社では、個人営業を担当した。100%歩合制でやりがいはあったが、土日も深夜まで働く毎日の中で、家族と過ごす時間は少なくなっていった。

「いつもお客さんと、自分に『もしものこと』があった時、子どもに将来こういう選択肢を残してあげたいといった話をしていました。互いに涙で言葉を詰まらせながら語り合ううちに、自身の家族のことも真剣に考えました」。結局1年余りで同社を去ることを決意した。これが、古川さんの人生の転機となった。

■アジアに残した思い

思い切って仕事を辞めたはよいが、経済的に困窮してしまっては、家庭の安定どころではない。焦っていた折、偶然にもドイツ系銀行の東京支店に声を掛けられ、「拾ってもらった」という。ここから、古川さんは外資系銀行業界に足を踏み入れることになる。

新しいスタートを切り、手応えを感じ始めていた矢先の08年、今度はリーマンショックに見舞われた。勤めていた銀行も大打撃を受け、自分のやりたい仕事がやりづらくなってしまった。

「アジアに行かせてやるから、うちに来ないか」。別の欧州系銀行から誘いを受けたのは、そんな時だった。東京支店で数カ月勤務した後、インド支店の事業に参画してほしいという話だった。まさに、チャンスが巡ってきたと思った。

「通貨危機の時、あれほど大切にしていたお客さまを裏切るようなことをしてしまった。もう一度アジアの舞台で、あの頃の後悔を晴らしたい」。古川さんは、高鳴る心の声にまっすぐ従うことにした。

■同じ場所で2度目の試練

12年にインド支店にジャパンデスクとして赴任した。当時はインドへ進出する日系企業が急増する中、日本の銀行ではカバーできない領域があり、困っている人が多かった。「外資系銀行に勤める日本人の自分なら、この穴を埋められる」。仕事を頼ってもらえる環境で、充実感もひとしおだった。

インドで5年半を過ごし、日本に帰国する日が近づいていた頃、ANZのシンガポール法人がジャパンデスクを探しているという話を耳にした。シンガポールといえば、古川さんが邦銀を辞める契機となった通貨危機を経験した場所だ。運命的なものを感じ、18年にシンガポールへ戻る道を選んだ。

今年に入り、新型コロナウイルスが流行。古川さんは図らずも、かつて苦悩した場所で次の大波に挑むことになった。「度重なる危機の時代をアジアで生きてきた。さまざまな経験がある今なら、きっとどんな壁も乗り越えられるはずだ」と胸を張る。

自分が必要とされている場所で、全力を尽くして人の役に立つ仕事をしたい――。取材が終わると、古川さんはシンガポールの金融街をさっそうと駆け抜けていった。(シンガポール&ASEAN版編集・上村真由)


関連国・地域: シンガポールオーストラリアニュージーランドインド日本
関連業種: 金融社会・事件

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