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【特別インタビュー】「豪州は日本の価値の目利き」紀谷昌彦・シドニー総領事

シドニーに赴任してほぼ1年。紀谷昌彦・シドニー総領事はその間、大規模な森林火災や干ばつ、新型コロナウイルス感染症の流行など大混乱の事態に直面することになった。新型コロナ騒動がまだ収まらない中、シドニーの印象や日本にとってのオーストラリアやシドニーの意義などについて話を聞いた。【NNA豪州編集部】

――オーストラリアやニューサウスウェールズ(NSW)州などについてどのような印象をお持ちですか?

オーストラリアは、「成功している国」だと思います。単に自然や天然資源に恵まれているのみならず、政府・国民の努力で国家の運営を戦略的に行い、近年は自由貿易主義と多文化主義を掲げて一層発展しています。オーストラリア社会の「多文化主義」と「効率性・合理性」から学ぶことで、日本は一層強くなれると感じています。

NSW州については、シドニーに大都会とビーチがこれほど近くにあることに驚きました。以前米国のワシントンDCに勤務した際、ニューヨークとハワイを訪問しましたが、シドニーは双方の良いところを1都市で併せ持っていると感じました。そのほか、ゴルバーン、ダボ、リバプールやカウラなど多くの場所を訪れ、自然の豊かさとともに、さまざまな人たちを受け入れる懐の深さ、温かさを感じました。

北部準州は、ダーウィンを訪れて、空爆の歴史を語り継ぎながらも和解を進め、今やイクシス液化天然ガス(LNG)プロジェクトで日豪協力が大きく進んでいることをうれしく思いました。アリススプリングスやウルルも訪問し、日本語教育や観光などを通じて日本と深く結びついていると感じました。

――日本にとってオーストラリアの意義は?

日本は、人口が多く経済規模も大きく、現場主義や技術などの強みもあります。更に、アニメに至る文化や長い歴史など、あらゆる価値の宝庫です。

オーストラリアは、それらの日本の価値を世界に打ち出す時に、いわば「目利き」となって良い形で引き出してくれるように思います。英語で言えばcurationです。例えば、NSW州立美術館が最近開催した「スーパーナチュラル展」。今のジブリ映画に出てくる神話や超自然の世界の起源を江戸・室町時代に求め、更に西洋の魔女や小人と対比するなど、日本文化の面白さや普遍性を第三者の目から非常にうまくプレゼンテーションしていました。

また、ニセコや白馬のスキーは、オーストラリア人が最初に「見つけて」、その後にヨーロッパやアメリカからも観光客がきて大繁盛しました。

オーストラリアは、日本の良さを理解し、日本が売れるモノの目利きとして、世界に英語で分かりやすく説明して宣伝してくれます。日本と世界の通訳兼コンサルタントのような存在です。オーストラリアと組むことで、日本は大いに力を発揮できます。

――日豪関係の中でNSW州やシドニーをどのように位置づけますか

日豪双方の将来にとって一番大きなインパクトを与えられるのは、やはりビジネスとイノベーションです。両国間に大事な問題はいろいろありますが、新しい世界経済を切り開いていく最前線で、オーストラリアと日本の連携に大きな可能性があります。

貿易関係は長い間、日豪関係の非常に大きな柱でした。この中で、日本政府は1975年に、オーストラリアの指導層が住むような現在の場所に在シドニー日本国総領事公邸を置き、以来45年間この場所でいろいろな方との関係を深めてきました。

「日本にとってシドニーはビジネスイノベーションで相乗効果が期待できる場所 」と話す紀谷昌彦シドニー総領事

「日本にとってシドニーはビジネスイノベーションで相乗効果が期待できる場所 」と話す紀谷昌彦シドニー総領事

ここに来て、日豪間にはM&A(合併・買収)のほか、スマートインフラやイノベーションなど新しい産業を切り開き発展させる機運が出ています。シドニー大都市圏が、その新しいフロンティアになりつつあります。

日本にとってオーストラリア、NSW州、さらに言えばシドニーは、相互補完というより相乗効果が期待できる場所だと実感しています。

――ビジネスのフロンティア開拓という点で、今はどのような時ですか

今年は鍵となる年です。今年から来年にかけて、西シドニー開発のマスタープランが大体できてしまいます。来年から調達プロセスが始まり、2026年には西シドニー国際空港が開港します。この国の調達プロセスは企画競争重視で透明性があり、公示が出てから準備を始めても間に合いません。当地のニーズや事情を予め深く理解している必要があるからです。

従って、早くオーストラリアを知るパートナーと組んで、自らの強みを生かしつつ、調達プロセスに迅速に参画しないといけません。

西シドニー開発のバスに乗り遅れず、これから何十年も伸びるであろうオーストラリアに、日本の技術を生かしながらしっかりと食い込み、日豪双方が共栄するためには、今のタイミングで、なるべく多くの日本企業が船に乗るようにするのが大事です。

そのために在シドニー日本国総領事館は、当地の調達方法を知ってもらい、また当地のパートナーと仲良くなって信頼関係を持ってコンソーシアムを組んでもらうために、7月のビジネスウェビナーに続き、9月にもNSW州政府と新たなウェビナーを開催しようと準備を始めています。

――新型コロナウイルスの感染が流行しています。

新型コロナの状況の中で活用すべきは、これまで築いてきた日豪間の人的ネットワークと信頼関係です。今こそその使いどきだと思います。

例えば日豪経済合同委員会会議には長い歴史があります。昨年秋に開催された大阪会議は第57回でした。日豪双方にお互いの土地勘がある人がいます。「行ったことがある。あの人を知っている。」といったつながりがあれば、物理的に相互に訪問しなくとも、時機を逃さず情報を取って、交渉や決断をしていけると思います。

――ここにいる日本人ができることは何でしょうか

日豪間の多層的な関係を強化することです。当地在住の日本人の誰もが日豪関係の担い手であると実感しています。日豪が相互理解と信頼関係を深めることで、それぞれの人が思い描いている「あるべき世界」をともに実現していくことができますし、その責務もあります。

言い換えれば、当地にいらっしゃる日本人の皆様が、オーストラリアと関わっているというめぐり合わせを、自分たちの幸せのために、一緒にいるオーストラリアの人たちの幸せのために、なおかつ世界のほかの人たちの幸せのために、どうやって生かすことができるか、日々の行動を通じて現実化できると思います。

そのために、シドニーはじめオーストラリアで、皆様の協力を得て、日本人や日本文化が好きなオーストラリア人の「日本文化コミュニティー」を「見える化」し、さらにより強い「オープンネットワーク」として発展させていきたいと考えています。これは、オーストラリアの「多文化主義」にも呼応するものです。

組織と組織の間には価値が眠っています。政府と民間、日本とオーストラリアなど、結びつけることで火花が生まれます。

日本とオーストラリア、特に在シドニー日本国総領事館が担当するNSW州と北部準州の様々なアクターを結び付けることで、あたかも手品のように如何に新たな付加価値を生み出せるかを考え、その実現を後押ししていくことが、自分の役割です。それを率先実行していきたいと思っています。(聞き手=小坂恵敬)


関連国・地域: オーストラリア日本
関連業種: マクロ・統計・その他経済政治社会・事件

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